Gioneeの元スタッフが仕掛ける新スマホ
スマートフォンメーカーがどんどん大手に集約されていく中で、2022年に新しいメーカーが立ち上がりました。中国をベースにする「FreeYond」です。格安端末からスタートを始めた同社のビジネスですが、そのビジョンは広大で、数年後に存在感を示すメーカーに成長するかもしれません。
FreeYond(Shenzhen FreeYond Technology)は、新興国を中心にスマートフォンやIoTデバイスを展開しています。スマートフォンの現行モデルは2機種。ミドルレンジで上位モデルの「M5」は6.52型(1600×720ドット)のディスプレー、チップセットはUNISOC T606、メモリー6GB/8GB、ストレージは128GB/256GBという構成。カメラは5000万画素+800万画素超広角+200万画素マクロ、フロントは水滴ノッチの800万画素を搭載します。バッテリーは5000mAh、5Gは非対応で4Gのみ。マレーシアでの価格は8GB+128GBが699リンギット(約2万1000円)です。
下位モデルの「F9」は6.52型(1600×720ドット)ディスプレー、チップセットはUNISOC SC9863Aでオクタコア1.6GHz、メモリー2GB/3GB、ストレージは64GB/128GB、カメラは1300万画素+200万画素マクロ、フロントは水滴型ノッチ型で800万画素、5000mAhバッテリーを搭載し、4Gに対応します。2GB+64GBが399リンギット(約1万2000円)、3GB+128GBが499リンギット(約1万5000円)です。
日本人から見るとスマートフォンのスペックは低く、注目に値する製品ではないかもしれません。しかも中国のマイナーメーカーですから、適当に作り上げたスマートフォンと考える人もいるでしょう。しかしFreeYondはパッと出てきた素性のわからない弱小メーカーではありません。そのバックボーンには中国のスマートフォン市場を知り尽くした知能が集結しています。CEOでありFreeYondを創設したYu Lei博士は、元Gionee(金立)の副社長だった方なのです。
Gioneeは中国で老舗の携帯電話メーカーであり、一時は中国国内トップ5に入ったこともあります。特にスマートフォン時代はYu博士がGioneeの売り上げを大きく延ばしました。中国以外の市場にも参入し、インドのセルフィーブームが始まったころにはOPPOやvivoとともに大々的に進出。「Selfiestan」(セルフィー「Selfie」とヒンディー語のインドを表す「Hindustan」の造語)をキャッチコピーに大人気のメーカーとなり、インドの中国メーカーでトップにもなりました。ところがGioneeは2018年に突如倒産。その原因はGionee CEOのマカオでのカジノの負債という、情けなくも、社員にとっては無念のものでした。
倒産後にGioneeを離れたYu博士はIT関連企業を経て、2022年にスマートフォンメーカーを立ち上げたのです。そのため、FreeYondをGioneeの再スタートと見る人も多くいます。とはいえ今からスマートフォンで再参入するには、世界の市場は大きく変わっています。シャオミは中国外でも大きな力を持ち、インドや東南アジア市場ではトップメーカー入りしました。アフリカ市場ではTecno、Itel、InfinixのTranssion傘下メーカーが圧倒的な強さを見せています。
そのような情況の中、まだ成長が見込まれる残された市場が残っています。それはラテンアメリカ。ラテンアメリカはAPAC、中国、北米に次ぐ巨大なマーケットであり、2021年の年間スマートフォン出荷台数は1億3000万台を超えているとのこと。また、ほかのエリアの市場成長がマイナスを記録する中、ラテンアメリカはプラスを続けているといいます。
そこで、FreeYondはまずメキシコ、チリ、ペルー、コロンビアなどに参入。ラテンアメリカでは250ドル以下のスマートフォンのシェアが2/3を占めているため、低価格モデルから投入を開始したわけです。「究極のコストパフォーマンス比で市場を取る」戦略で、ラテンアメリカを皮切りに東南アジアやアフリカにも進出を進めています。
FreeYondを軌道に乗せるため、Yu博士は旧Gioneeの人脈、チーフデザイナー、プロダクトマネージャー、製品企画マネージャー、メディア部門マネージャー、財務マネージャーなどを呼び寄せました。そしてそこに若いスタッフが集まり、小規模ながらもアグレッシブな活動を始めています。FreeYondの社名はFree(自由)とYond(超越を意味する)から取ったとのこと。
Yu博士はスマートフォンがテクノロジー4.0時代に重要な中央のハブになると考え、スマートフォンのみならずIoT製品も展開し、スマートライフの中心となる企業にFreeYondを成長させようと考えているようです。
Gioneeは過去に世界最薄スマートフォンを出したこともありました。そしてアフリカ中心に展開しているTecnoが今や折りたたみスマートフォンを出す時代です。創業からまだ1年のFreeYondの製品は、今はまだ特筆するほどのものではないでしょう。しかし数年後、気が付けば新興国では誰もが知っているメーカーになっているかもしれないのです。
「スマホ好き」を名乗るなら絶対に読むべき
山根博士の新連載がASCII倶楽部で好評連載中!
長年、自らの足で携帯業界を取材しつづけている山根博士が、栄枯盛衰を解説。アスキーの連載「山根博士の海外モバイル通信」が世界のモバイルの「いま」と「未来」に関するものならば、ASCII倶楽部の「スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典」は、モバイルの「過去」を知るための新連載!
「アップルも最初は試行錯誤していた」「ノキアはなぜ、モバイルの王者の座を降りたのか」──熟練のガジェットマニアならなつかしく、若いモバイラーなら逆に新鮮。「スマホ」を語る上で絶対に必要な業界の歴史を山根博士と振り返りましょう!
→ASCII倶楽部「スマホメーカー栄枯盛衰~山根博士の携帯大辞典」を読む
★ASCII倶楽部は、ASCIIが提供する会員サービスです。有料会員に登録すると、 会員限定の連載記事、特集企画が読めるようになるほか、過去の映像企画のアーカイブ閲覧、編集部員の生の声を掲載する会員限定メルマガの受信もできるようになります。さらに、電子雑誌「週刊アスキー」がバックナンバーを含めてブラウザー上で読み放題になるサービスも展開中です。
この連載の記事
-
第780回
スマホ
AQUOS R9 proのカメラ周りをドレスアップ! フィルター装着で広がるスマホの楽しみ方 -
第729回
スマホ
激薄折りたたみ「Galaxy Z Fold Special Edition」のケース3種類を試す -
第728回
スマホ
Xiaomi 14Tにフィルター装着できるMagSafeケース、香港の予約特典に登場 -
第727回
スマホ
Galaxyの2025年モデルがいよいよ登場「Galaxy A16 5G」が販売開始 -
第726回
スマホ
1700万円のシャオミ製スーパースポーツEV「SU7 Ultra」を広州モーターショーで見た -
第725回
スマホ
この冬一番の注目スマホ、超薄型折りたたみの「心系天下W25」がサムスンから登場 -
第724回
スマホ
駅名ごとGalaxy! クアラルンプールの「Samsung Galaxy駅」がスゴすぎた! -
第723回
スマホ
レトロデザインが可愛すぎる!? Nokiaケータイ風リュックの良さを知ってほしい! -
第722回
スマホ
iPhone 16発売直後の深セン、中国でも中古買い取りショップと転売が盛況 -
第721回
スマホ
日本と変わらぬ熱気がスゴイ! 中国・深セン版「ポタフェス」に行った -
第720回
スマホ
USBケーブルや電源プラグに4G内蔵も! 進化するモバイルルーターたち - この連載の一覧へ