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「ミニ脳」と呼ばないで、オルガノイド研究の過剰表現に警鐘

2023年04月04日 07時20分更新

文● MIT Technology Review Japan

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ヒト脳オルガノイド研究に関する情報発信は誇張されており、今後問題となる可能性がある。広島大学、京都大学、豪州マードック・チルドレンズ研究所、シンガポール国立大学の研究グループは、ヒト脳オルガノイド研究に関する情報発信の在り方を検討し、研究成果として発表した。科学者や倫理学者、メディアに慎重な情報発信を呼びかけている。

ヒト脳オルガノイド研究に関する情報発信は誇張されており、今後問題となる可能性がある。広島大学、京都大学、豪州マードック・チルドレンズ研究所、シンガポール国立大学の研究グループは、ヒト脳オルガノイド研究に関する情報発信の在り方を検討し、研究成果として発表した。科学者や倫理学者、メディアに慎重な情報発信を呼びかけている。 ヒトES細胞やiPS細胞から三次元の脳組織(ヒト脳オルガノイド)を作成する研究は昨今急速に進んでおり、脳に関連する病気への理解が深まることや、創薬につながることが期待されている。一方で、将来はヒト脳オルガノイドが意識を持つのではないか、と懸念する声もある。研究グループは、科学者や倫理学者、メディアによる情報発信に、ヒト脳オルガノイド研究の成果を誇張する問題があると指摘する。そこで、研究では「ヒト脳オルガノイドが意識を持つ可能性」「ヒト脳オルガノイド研究の医療応用」の2つの話題に注目し、情報発信のあり方を検討した。 「ヒト脳オルガノイドが意識を持つ可能性」については、過剰に懸念する言説がしばしば見られるという、代表例としては、脳オルガノイドを「ミニ脳」と、実際の脳のミニチュア版であるかのように表現する例や、脳オルガノイドが光を「見る」と、すでに意識を持っているかのように表現する例などが挙げられる。だが、現状のヒト脳オルガノイドは未成熟なものであり、当面は意識を持つことはないと研究グループは指摘する。 また、意識を持つヒト脳オルガノイドを作ることを「ルビコン川を渡る」と表現し、新しい倫理的課題であるかのように捉えることにも問題があるとしていう。研究グループは、科学研究においてすでに動物を利用している事実を挙げ、たとえ意識を持つヒト脳オルガノイドを作成し利用したとしても、新しい倫理的課題は存在しないと強調する。そのため、「ルビコン川を渡る」と表現するような言説が流布すると、ヒト脳オルガノイド研究が実際よりも懸念すべきものと捉えられ、研究に対する社会不信を招き、研究を過剰に規制する動きにつながりかねないという。 「ヒト脳オルガノイド研究の医療応用」に関する情報発信については比較的問題は少ないが、ヒト脳オルガノイド研究が対象とする疾患が誇張される傾向があるとする。ただ、現時点で、ヒト脳オルガノイド研究が役立つ疾患は脳の発生初期に原因があるものに限られており、多くの神経疾患や精神疾患についてヒト脳オルガノイド研究から分かることはほとんどないという。そのため、成熟したヒト脳オルガノイドがさまざまな疾患の病因解明や治療法開発に役立つかのように喧伝することには、人々の期待をみだりに膨らませる点で問題があるとしている。 研究成果は3月22日、トレンズ・イン・バイオテクノロジー(Trends in Biotechnology)誌にオンライン掲載された。今後、より慎重に情報を発信しながら、積極的に社会の声を取り入れた上で研究を進めていく必要があるとしている。

(笹田)

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