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会員企業のデータ・テック、兼松、NTTデータが語る共創とモビリティデータ活用

虎の子のドラレコデータをビジネスに結びつけたMD communet

2023年03月27日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII 写真●曽根田元

提供: NTTデータ

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データは集まれど、顧客に刺さるサービスへの遠い道

 データ・テックは安全運転診断のため、20万台のトラックが、いつ、どこで、どの程度の速度で動いて、どのように停車したかといった精緻な走行データを集めている。課題は、せっかく取得したビッグデータを充分に活かし切れていなかったことだ。田野社長は「うちの会社は機械や電気には強いし、精緻なデータも得意。でも、データ全体を統計的に見ることが苦手だったんです」と語る。

 同社は顧客である物流会社の課題に刺さるソリューションを、データ分析から導き出すプロジェクトを進めてきた。特にこの5~6年は、Excelを使って社内でデータ分析を手がけたり、大学と共同研究を行なった。結果、勘所はつかんだが、ビジネス化までは結びつかなかったという。

 兼松グループ入りしたのも、まさにこの時期だった。モビリティ関連での新規事業開発の専門要員として、走行データやドローン、脱炭素関連等の新規事業を担当している兼松の佐藤駿也氏は、田野社長と二人三脚でデータ活用を考えてきたが、なかなか突破口を見いだせなかったという。「物流会社から課題をいろいろ聞いていたのですが、われわれだけではその課題を解決するメソッドを持っていませんでした。だから、物流業界の課題解決に活かしたいという方針はあったのですが、自分たちのデータだけでは価値を出すのは難しかったし、その方法もわからなかった」と振り返る。

兼松 車両・航空統括室 次世代モビリティ事業開発課 佐藤駿也氏

 そんなデータ・テックと兼松がMD communetに入ったきっかけは、2021年4月の正式公開のプレスリリースを佐藤氏が見たことだという。兼松としてデータ・テックのデータ活用を進めるためだったが、当初は情報収集のつもりだった。「いろいろなデータとの複合ができればと思って加入したので、当時は明確な目的があったわけではなかった。正直『とりあえず入っていた方がいいな』くらいの感覚でした(笑)」(佐藤氏)

 一方、田野社長にとっては、MD communetへの参加は、セイフティレコーダから取得されるデータのビジネス化という明確なゴールがあった。「もう研究はいいんです。結果がわかっている研究を続ける気はさらさらなかった。だから、『われわれのデータを、事故を防ぐ目的でビジネス化したい。いっしょにやってもらえませんか?』とNTTデータさんにはっきりお伝えしました」と振り返る。

 2年弱に渡ってMD communetで実証実験を進めていく中、データ・テックと兼松は、ビジネス化の光明を見出した。田野社長は、「これは絶対ビジネスになると確信しました。今回MD communetでやったことは、お客さまからいただいたニーズを直球ストレートに射貫くもの。ドンピシャだったんです」と語る。MD communetの中で、まさに納得のいくビジネスモデルが発火したのだ。

ドライバーの負担を軽減する「みせナビ」が生まれた背景

 データ・テックが、データ活用を進めたい最大の理由は、「なぜ事故が起こるのか」を解明したいからだという。ハンドル、アクセルやブレーキなどの操作データを使うことで、安全運転のスコア化までは実現したが、事故の原因を探るところまではより多角的な分析が必要だった。問題なのは、要素が多すぎて、事故の起きやすい運転をアルゴリズム化するのが難しいことだ。

 事故の原因は多種多様だ。「家族とケンカした」といった理由で家を出るのが遅くなった、「お客さんにせっつかれて運転が荒くなった」など、些細な出来事も事故の要因となり得る。田野社長は、「結局、事故って個別事象。スコア化した安全運転を毎日やっているから絶対に事故が起こらないかというとそうではない。一般的な統計情報では出ないんです」と指摘する。

 一方で、全体の走行距離の1%にしか過ぎないのに、事故件数の7割は起こる場所が特定されている。私有地のため交通事故としてカウントされない駐車場だ。「みなさんは交通事故が起こる場所は交差点だと思いがちですが、駐車場での事故が大半です。特に高齢者の事故のほとんどは駐車場で起こっています」と田野社長は指摘する。

 駐車場での事故のリスクは、プロが運転する業務車両も同じだ。駐車場で隣の車にぶつかったり、屋根の看板を破損するといったことは日常的に起こってしまう。そのため、コンビニやスーパーなどでは、業務車両の駐車場利用に厳しい利用ルールを課している。店舗ごとに入り口、速度、入車する方向などが事細かく決められ、配送業者には周知と徹底が要求される。事故を防ぐためとはいえ、ドライバーの大きな負担になっているのは間違いない。

 これに対して、今回3社が開発した「みせナビ」は、セイフティレコーダのデータを分析し、搬入先の駐車ルールを自動判定。ドライバーにアドバイスしてくれるというソリューションだ。搬入先が近づくと「まもなく200mで搬送先入り口です」といったようなアナウンスが流れ、続けて「お客さま駐車場には駐車しないでください」「後ろ向き駐車してください」など、どのように駐めるべきかをドライバーにアナウンスしてくれる。事故の起こりやすい場所で、事故が起こらない運転を促すわけだ。

みせナビの概要

 物流業界で「2024年問題」と言われる人手不足によって、ドライバーは20万人不足すると言われている。「人手不足だから高齢者もドライバーを辞められないし、人手不足を補うために新人さんが入ってきます。でも、新人ドライバーは知らない道や店舗に駐めなければいけないので、すごく不安なはず。だから、この「みせナビ」のアナウンス機能は極めて有効です。絶対売れると確信しています」と田野社長と断言する。

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