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リモートコンサートやeスポーツ、遠隔漫才などイベントも続々開催

まずは低遅延にフォーカス NTTが「APN IOWN1.0」を投入

2023年03月03日 09時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2023年3月2日、NTTは2030年の実現を目指す次世代コミュニケーション基盤IOWNの商用サービス第一弾として、低遅延にフォーカスした「APN IOWN1.0」を開始することを発表した。記者発表会では、IOWN構想の概要やAPN IOWN1.0投入の背景、低遅延領域でのユースケースなどの説明に加え、IOWNの標準化を進めるIOWN Global ForumにKDDIが加入したことも明らかにされた。

NTT 代表取締役副社長 副社長執行役員の川添雄彦氏

標準化団体IOWN Global ForumにKDDIが加入

 発表会で登壇したNTT 代表取締役副社長 副社長執行役員の川添雄彦氏は、デジタル社会の普及で扱うデータ量が膨大になっている点を指摘する。たとえば、メタバースにおいてはデータが三次元化することでデータ量は従来の30倍となり、動画も16Kに高精細化すると、データ量は従来比750倍に拡大すると見られている。これを支えるデータセンターの消費電力もうなぎ登りで、日本では6倍、グローバルでも13倍に拡大する見込み。「こうしたデータの増大と電力消費という課題とイノベーションの両立が重要」と川添氏は語る。

 こうした事態を解決するためのNTTの次世代コミュニケーション基盤が、2019年5月に発表されたNTTの「IOWN(Innvative Optical and Wireless Network)」になる。IOWNでは2030年をめどに、今までネットワークとどまっていた光での伝送処理を、コンピューティング領域にまで拡げ、新たな情報処理基盤を実現する。長らくNTTの研究所で開発を進めてきたが、2019年に発表された光トランジスタの開発が実用化を見据えたブレイクスルーになったという。

 IOWNのベースとなるAPN(All-Photonics Network)は、低消費電力、大容量・高品質、低遅延という3つの目的に向けて技術開発が進められる。光ファイバーの波長多重技術に加え、情報処理基盤に光電融合素子を用いることで、従来の100倍となる電力利用効率、125倍の伝送容量、1/200のエンドツーエンド低遅延を目指す。IPをベースにした既存のベストエフォート型のインターネットに対して、IOWN APNではギャランティード型のネットワークを実現し、デバイスやソフトウェア、プラットフォームなど多種多様なビジネスを展開できる基盤として成長させていくという。

IOWNの3つの目的

 また、IOWNはNTTグループの構想でありながら、グローバルでの標準化を前提に進められているのも大きな特徴だ。IOWNの標準化と普及を目的とした「IOWN Global Forum」は、NTT、インテル、ソニーで立ち上げられ、マイクロソフト、デル、エリクソンなどを含む117の企業・団体が参加。新たにKDDIも加入したという。また、IOWN Global Forumのチェアマンでもある川添氏の口から新たにKDDIが加入したことも明言された。

IOWN Global Forumのメンバー

100Gbpsの専用線にマイクロ秒単位での遅延制御機能を付与

 2030年を見越したIOWN構想の商用サービスの第一弾となるのが、今回発表された「APN IOWN1.0」となる。IOWN APNが掲げる3つの目的のうち、まずは低遅延にフォーカスし、技術を先出しした形で通信サービスに実装する。「当初は2030年の実用化を考えていたが、実現できるところからサービス化していくことになった」と川添氏は語る。

 低遅延の効用が期待される領域として、川添氏が挙げたのはリアルバーチャル連携、遠隔操作・制御、自動運転を大きく3つの領域だ。「たとえば、VRは遅延を20ミリ秒以内に収めないと、いわゆるVR酔いという現象に陥る。こうした遅延を抑えるために、さまざまなソフトウェア処理も必要になる」と川添氏は指摘する。しかし、低レイヤーのAPN IOWNで遅延を抑えることで、開発コストも抑えられるという。

 3月16日にサービス開始となるAPN IOWN1.0は、ポイントツーポイントの100Gbps専用線サービスとして提供。光波長を占有できるため、他のトラフィックの影響やゆらぎの影響はゼロになるという。最大の特徴は両端に設置する「OTN Anywhere」と呼ばれる装置で、1マイクロ秒単位で遅延の測定と調整が行なえること。遅延をなくすことは原理的に難しくとも、遅延を揃えることでeスポーツなどで重要な通信の公平性を担保する効果がある。

IOWN1.0のシステム構成

 APN IOWN1.0はNTT東日本・NTT西日本から提供され、提供エリアは全国(ただし、ポイントツーポイントの起点と終点は同一都道府県内に限る)。提供価格は税込198万円/月。OTN Anywhereは税込645万7000円/台となる。

リモートコンサート、遠隔手術、eスポーツなど新ビジネスを創造

 低遅延化を実現するIOWN APNの技術を活用した例が、先日2月10日に行なった「未来の音楽会Ⅱ」になる。このコンサートでは、東京、大阪、神奈川、千葉など異なる会場での演奏者によるリアルタイムな共演を実現した。具体的には非IPの低レイヤーでの伝送、エンコードや圧縮などを排除した高品質な伝送、映像処理などを組み合わせることで、400km離れた東京と大阪間でありながら、遅延を8ミリ秒に抑えた。これは3メートル離れて演奏しているのと同程度の遅延だという。

異なる会場の演奏を同時に行なった「未来の音楽会Ⅱ」

 また、遠隔操作での実証実験にも成功している。これはIOWN APNを介して、メディカロイド社の遠隔手術ロボット「hinotori」を操作する遠隔手術の事例。遅延を抑えつつ、遅延がばらつくゆらぎを抑えることで、目の前で行なっているのと同じような複雑な手術が遠隔から可能になったという。

 これらIOWNを基盤とした新しいビジネスを創造すべく、パートナーとの共創も進める。新たにパートナーとして発表されたのはオラクル、アマゾン ウェブ サービスジャパン、エヌビディア、理化学研究所、国立情報学研究所、渋谷区、東急不動産、日本取引所グループ、三菱商事、メディカロイド、吉本興業など。さまざまな分野でIOWN APNを用い、ビジネスの実証や創造を進めていくという。

IOWNを基盤としたビジネスを創造するパートナーも続々追加

 IOWNを活用したイベントも仕掛けていく。3月19日にNTT eSportsが「Open New Gate for eSports 2023」を開催する。これは渋谷のMIYASHITA PARK SOUTHにある「En STUDIO」と秋葉原の「eXeField Akiba」の異なる2拠点で行なうeスポーツイベントで、超低遅延で公平性の高いゲームを楽しめるという。また、プロコーチによるオンラインダンスレッスンも行なわれ、こちらもリアルタイムな音楽と映像の伝送を実現するという。NTT西日本も吉本興業とのコラボで「未来のお笑イブ!!」を開催。3拠点をIOWNで結び、リモートでの漫才とバンド演奏を繰り広げるという。

NTT西日本の「未来のお笑イブ!!」

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