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北大、脳内に埋め込んだゲルを「足場」に神経細胞の再構築に成功

2023年02月24日 06時31分更新

文● MIT Technology Review Japan

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北海道大学の研究チームは、マウスの脳内にゲルを埋め込み、その後に神経幹細胞を注入することで神経細胞やグリア細胞を再構築させることに成功した。頭部外傷や脳腫瘍摘出などで脳を大きく損傷すると、脳細胞がかさぶたのように損傷部分を埋めることができず、その部分の脳組織は再生しない。今回の研究では、脳に生じた空洞を埋めるゲルを組織再生の足場とすることで、神経細胞やグリア細胞、脳血管などの再生に成功した。

北海道大学の研究チームは、マウスの脳内にゲルを埋め込み、その後に神経幹細胞を注入することで神経細胞やグリア細胞を再構築させることに成功した。頭部外傷や脳腫瘍摘出などで脳を大きく損傷すると、脳細胞がかさぶたのように損傷部分を埋めることができず、その部分の脳組織は再生しない。今回の研究では、脳に生じた空洞を埋めるゲルを組織再生の足場とすることで、神経細胞やグリア細胞、脳血管などの再生に成功した。 研究チームはまず、組織再生の足場となるゲルを作成した。細胞とゲルの接着に関係すると考えられるゲルの荷電状態に着目して、正と負に荷電したゲルの構成成分の単量体をさまざまな割合で混合したゲルを作成して比較検討したところ、正荷電と負荷電をちょうど1対1の割合で混合したC1A1(Cation 1:Anion 1)ゲルが神経幹細胞を培養する上で最適であることを突き止めた。このゲルを使って試験管内で神経幹細胞を培養したところ、神経細胞とグリア細胞に分化し、3次元構造を形成した。 続いて、マウスの脳に直径1ミリメートルの円柱状の空洞を作り、その中にC1A1ゲルを充填した。充填したゲルの中には、周囲の脳組織から神経細胞やグリア細胞が移動していき、神経細胞の突起がゲルの中に伸びていくのを確認した。ゲルを血管内皮細胞増殖因子にあらかじめ浸しておくことで、脳内へのゲル注入後約2〜3週間で、周囲の正常な脳組織からゲルの内部に血管が延びて、血管網が形成された。 ゲルを埋め込んでから3週間後、血管網がゲル内に十分広がったところで、神経幹細胞10万個をゲルの中に注入した。約3週間後にマウスの脳を取り出して、ゲルの内部を調べたところ、移植細胞の多くが生存しており、一部が神経細胞やグリア細胞に分化していることが確認できた。ゲル内では宿主由来の細胞と移植細胞が混在する形で脳組織が再構成されていた。 研究成果は2月14日、サイエンティフィック・リポーツ(Scientific Reports)誌にオンライン掲載された。研究チームは次の段階として、マウスの脳損傷による運動神経障害などの機能障害をゲルで治療することを目指すとしている。

(笹田)

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