次世代のBlackholeではRISC-Vを搭載
Tenstorrentの方向性が変わっていく
次はこれに続くBlackholeの話である。連載599回の冒頭でJim Keller氏がTenstorrentに加わった話をしたが、Keller氏はこのBlackholeから本格的に作業に加わったようだ。
2022年に入って、Tenstorrentは猛烈な勢いで人材を集めている。まず2022年2月9日にはArmのMachine Learning Research LabでSenior Director兼Distinguished EngineerだったMatthew Mattina氏をVP of Machine Learningとして引き抜き、6月22日にはLenovo NECの社長だったDavid Bennett氏をChief Customer Officerに据えている。
今年1月23日にはGoogleでStrategic AlliancesのDirector職だったKeith Witek氏をCOOとして迎え入れた。これに先立つ1月20日、同社は創業者兼CEOだったLjubisa Bajic氏とCTOだったJim Keller氏が役割を交代。Bajic氏がCTOとなり、Keller氏がCEOになるという、あまり類を見ないCEO交代劇が演じられている。
実を言えばBajic氏は2003~2013年と2014~2016年にAMDに在籍しており、Keller氏がAMDにいた2012~2015年にはわりと近い位置(2012~2013年はSr. Manager/Architect, IC Design、2014~2016年はDirector, IC Design/Architect)で仕事をしており、ある意味よく知った仲間であったからこそ実現できたことかもしれない。
こうした人材の拡充と一緒に、Tenstorrentの方向性もまた少し変わってきた。2022年1月に開催されたTSMCのOpen Innovation Summitにおける基調講演にKeller氏がTenstorrentのCTOとして講演したのだが、次世代の製品であるBlackholeはTSMCのN6で製造され、しかもTensixコアに加えてRISC-Vのコアと、さらにはSiFiveのX280ベクトルコアを搭載することを明らかにしている。
実は昨年からTenstorrentのProductsページにRISC-Vが加わっており、無償で提供されている4命令のアウト・オブ・オーダーコアのOcelotというコア以外に商用で2/3/4/6/8命令デコードのアウト・オブ・オーダーのAscalonというRISC-Vコアを開発しているとしている。D5というのはこのうち6命令デコードのコアの模様だ。
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RISC-VコアのAscalon。Vector Unitも搭載しているのだが、X280とどう併用させるつもりなのかは不明
ちなみにTenstorrentはRISC-Vのみでもビジネスする気が出てきたのか、最大8命令同時デコード、11命令同時発行のコアや、そうしたコアを集約するCoherent Clusterを用意し、これとTensixコアを組み合わせた構成やAscalonだけを128コア組み合わせた構成なども示されているが、これはあくまでも可能性を示したレベルであって、これで現実に製品を提供するというつもりはなさそうである。
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左側の中の“Ascalon Clusters 32 Cores”の内訳が右側。この右側のものが2つで、1つの32コアクラスターを構成するのだろう。ちなみにAscalonクラスターそのものは1つのシリコンを前提にしているが、こちらはAegis CPUという名称で、チップレットベースになるとの説明がある
ただこれまではTensixコアで高効率にAIワークロードを処理する方向だったのが、Tensix+汎用(RISC-V)コアで、高効率に処理する方向に変わってきており、またKeller氏の基調講演の内容は、複数のネットワークモデルを同時に(Blackholeに)載せて、最適なものを利用するといった方法だったあたり、同社の方向性そのものが以前から少し変わってきた気がする。
サーバー向けのRISC-VコアやチップレットベースCPUなどもラインナップしているあたりは、もう単にAIのスタートアップというよりは、もっと幅広い市場に食い込むことを考えているのかもしれない。
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