業務効率化やDXを実現するビジネス導入事例も紹介、「Microsoft Base Festa 2023」
「Azure OpenAI Service」など、マイクロソフトが最新のAI動向を説明
2023年02月06日 09時00分更新
日本マイクロソフトが2023年1月にオンライン開催した「Microsoft Base Festa 2023」。同社 Azureビジネス本部 GTMマネージャーの小田健太郎氏は「Microsoft AIで実現する業務効率化とDX~AI/機械学習サービスの全容と最新事例」と題したセッションを行った。
ここでは開催直前に一般提供開始となった「Azure OpenAI Service」やそのビジネス導入事例も含め、マイクロソフトが展開するさまざまなAIサービスや将来的な狙いなどを紹介した。
「Azure OpenAI Service」でできることとは?
マイクロソフトでは、2019年からOpenAIとの戦略的パートナーシップを締結し、共同で自然言語処理を含むAIのアルゴリズム/モデル開発を行っている。OpenAIはプライマリークラウドとしてMicrosoft Azureを採用し、OpenAiの研究や製品、APIサービスなどあらゆるワークロードをAzureが支えている。
2023年1月には、両社のパートナーシップをさらに強化する発表も行われている。これはマイクロソフトが複数年にわたり、OpenAIに対して数十億ドル規模の投資を行い、AIの進歩を加速させるとともに、そのメリットを世界中で広く共有することに取り組むという内容だ。
このパートナーシップに基づき、マイクロソフトでは、OpenAIの研究を加速させる専用スーパーコンピューティングシステムの開発/展開投資を拡大。一方で、OpenAIが開発したモデルをマイクロソフトのコンシューマー製品やエンタープライズ製品に活用し、新たなカテゴリーのデジタル体験を実現していくという。
そうした取り組みのひとつが、Azure OpenAI Serviceだ。これはOpenAIが学習/開発した「GPT-3」「Codex」「DALL-E」を、Azureのマネージドサービスとして提供するもの。小田氏は「自然言語によるコンテンツや画像の自動生成、抽象要約、セマンティック検索ができる。ジェネレーティブAIを実現する最新のAIテクノロジーだ」と説明する。
GPT-3シリーズの最新版はGPT-3.5で、さらに学習が進んでいるところだ。最近話題を集めている「ChatGPT」でも見られるように、たとえば「アイスクリーム屋のキャッチコピーを考えてほしい」などと自然言語で質問文を記述すると、自然言語で回答文が得られるのが特徴。
GPT-3シリーズでは、用途に応じて複数の規模のモデルを用意している。「Ada」は最も初歩的な(規模が小さい)モデルで、簡単な文章の分類やテキスト解析、文法訂正などができる。そこから、セマンティック検索のランキングとやや複雑な内容の文章を分類できる「Babbage」、質問への応答やより複雑な内容の文章の分類ができる「Curie」と高度化していく。最も高性能とされる「Davinci」では、高度な利用シナリオでの文章の要約や、クリエイティブコンテンツの生成も可能だ。
Codexは、コードの自動生成を行うモデルだ。こちらも用途に応じて2種類が提供されており、アプリケーションを生成できる「Cushman-codex」と、高度なコード生成ができる「Davinci-Codex」がある。
最後のDALL-Eは、描いてほしい画像イメージを自然言語で説明すると、その説明文に沿った画像を生成する。現実には存在しえないようなイメージであっても、写真や絵のようなかたちで出力できる。
現在、Azure Open AI Serviceを利用するためには「利用用途」と「プロフィール」の登録が必要だ。申請からおよそ10営業日ほどで利用できるようになる。申請を必要とする理由について、小田氏は次のように説明する。
「『用途』と『プロフィール』の申請を行う仕組みとしているのは、マイクロソフトとして『責任あるAI』を実現するためだ。AIのビジネス実装が増えるなかで、AIの倫理やガバナンスも問題になっている。AI技術が悪用されたり、学習データにバイアスがかかったりするリスクがある点は、ほかのテクノロジーとは異なる部分だ」(小田氏)
マイクロソフトでは、責任あるAIを実現するための6つの原則として、「信頼性と安全性」「プライバシーとセキュリティ」「包括性」「アカウンタビリティ」「透明性」「公平性」を掲げている。小田氏は「技術的課題とともに、社会的課題も解決しなければならないのがAIの難しさ」だと述べ、こうした課題の解決にはマイクロソフト単独ではなく、他社や顧客とも連携していく必要があるとまとめた。
すでにビジネス導入も始まっているAzure OpenAI Service
コンテンツ生成、要約、コード生成、セマンティック検索など、ビジネスにおけるOpenAIの想定導入事例も示した。
現実に導入事例も出てきているという。たとえばコンテンツ生成の分野では、米中古車販売会社のカーマックスが、中古車のレビュー文を要約したWebコンテンツをAIに自動生成させている。11年ぶんの中古車データをわずか数カ月間でWebコンテンツに変換し、SEO対策にも活用している。
要約機能の活用事例としては、全米女子プロバスケットボールリーグ(WNBA)が紹介された。WNBAでは、刻々と変化する試合状況を伝えるために、実況者の言葉を要約した途中経過の記事を自動生成させている。これにより、試合が終了した時点で試合全体の要約記事がすぐに見られるという。
「これまでのAIによる要約では、フレーズをそのまま抽出するものにとどまっていた。OpenAIの場合は、フレーズをもとに適切な言葉を新たに導き出し、その言葉を要約のなかに使う点が異なる」(小田氏)
コード生成機能では、自然言語とSQL/クエリの変換のほか、現在12種類以上のプログラミング言語で自然言語による命令をコード変換できる。実際にカナダのトレレントではコードの自動生成を行っており、エンジニアの生産性を向上させている。また、Codexを統合した「GitHub Copilot」では、JavaやPythonで自動生成したコードのおよそ35%が、そのまま実用できたという実績も出ている。
セマンティック検索の活用事例としては、ニュージーランドの農産物事業者であるファームランズが、「Dynamics 365」に蓄積された顧客データを横断的に検索し、商談状況を可視化して商談の成功率を高めているという。
日本国内では、コールセンターにおける会話の自動分析の提案を進めている。通話記録の音声データをSpeech-to-Textでテキスト化し、これをOpenAI Serviceで抽象要約したうえで、ほぼリアルタイムに「Power BI」で可視化したり、CRMなどに詳細な商談記録として追加したりできるという。
「Azure AI」だけでなく、より広範な「Microsoft AI」の取り組みも
AI戦略に言及する際、マイクロソフト社内では「Microsoft AI」と「Azure AI」という言葉を使っている。一見その違いはわかりにくいが、小田氏によると、実はここには明確な区分があるという。
Microsoft AIのほうは、マイクロソフトがAIに関して取り組む幅広い戦略全体を指す広義の言葉だ。たとえば、マイクロソフトリサーチが取り組む社会課題解決を目指す取り組み「AI for Good」のほか、AI活用を目指すビジネスパーソン向けの無償オンライン学習コース「AI Business School」、AI関連の認定資格「AI-900/AI-102」、さらに前述した「責任あるAI」なども含まれる。
これに対してAzure AIは、Azureで開発者やデーサイエンティスト向けに提供するAIプロダクト群を指す、狭義の言葉だ。シナリオベースのサービスである「Azure Applied AI Service」、カスタマイズ可能なAIモデルである「Azure Cognitive Service」、機械学習プラットフォームである「Azure Machine Learning」などがここに含まれる。
さらにこのAzure AIのなかに、APIやモデル、SDK、ユースケース別製品が用意されている。前述したAzure OpenAI Serviceのほか、Vision/Language/SpeechといったSDKやBot Service、Form Recognizerなどのユースケース別製品がある。
小田氏は「マイクロソフトリサーチが研究開発しているモデル、OpenAIの技術などは、すでに多くのマイクロソフト製品のなかに組み込まれて提供されている」と述べた。つまり、Azure Cognitive ServicesやAzure Applied AI Servicesを通じて、ユーザーはすでにマイクロソフトが持つ最新のAI技術を利用可能になっているというわけだ。
「たとえばOffice製品では、スパムメールの自動仕分け機能、メールのスペルチェック機能、執筆アシスタント機能などで利用している。Teamsでも、オンライン会議時のノイズキャンセリング機能、バーチャル背景の設定などに活用されている。Xboxユーザー向けにはゲームタイトルのお勧め機能にもAIが活用されている」(小田氏)