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協力会社や発注者も同じテナントで情報共有 大成建設のLINE WORKS活用

2023年02月09日 09時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 大手建設会社の大成建設は、現在、現場単位で情報共有を図るため、LINE WORKSを活用している。長崎県の大規模な作業所においても、社員のみならず、100社を超える協力会社、発注者(クライアント)に対して、LINE WORKSを用いて必要な人に必要な情報をタイムリーに提供する体制を整えている。長崎県の作業所を中心に九州でのICT導入と運用をサポートする大成建設の神山淳一氏に話を聞いた。

大成建設 ICTキャラバン デジタルマネージャー 神山淳一氏

建設現場にLINE WORKS導入 100社以上の協力会社が参加

 「ICTキャラバン デジタルマネージャー」という肩書きを持つ大成建設の神山氏は、ICT部門とは異なる立場で現場をサポートする役割だ。「デジタル技術を活用した施工管理のツールやサービスは世の中に数多く出回っています。でも、現場監督の方が実際にそれらを使いこなせるか?というと、なかなかハードルが高いので、導入や運用をサポートしています」と神山氏は語る。現在は、大成建設の九州支店に所属しており、長崎県の作業所で業務を遂行しているが、他の九州支店内の現場もサポートしているという。

 大成建設の本社では、従来から全従業員がMicrosoft Teamsを利用している。しかし、現場での連絡は直接の対話や電話、メールだけだった。しかも、個人で情報を保有していたため、情報共有自体が困難であったという。以前担当していた別の現場で「ビジネス版のLINE」であるLINE WORKSと出会った神山氏は、その操作性のよさに惹かれ、長崎の作業所ではLINE WORKSの運用をさらに拡大してみることにした。導入背景について神山氏は、「写真を撮って、送って、メッセージを入力するというチャットの使い勝手が非常によかったからですね」と語る。

 特徴的なのは、建設現場単位で新しいLINE WORKSテナントを導入していることだ。建設現場単位と言っても、神山氏が運用する長崎の作業所では約800のアカウントが付与されており、かなり大規模。しかも、作業所のトップである作業所長、所員、協力会社の現場責任者である職長、作業員まで、すべて同一のテナントに所属している。「以前の現場では大成建設の社員しか利用していませんでしたが、この作業所では協力会社などの関係者にも利用してもらうことにしました」(神山氏)。現在はこの作業所だけで100社以上の協力会社がLINE WORKSに参加しているという。

 協力会社だけでなく、建設を依頼している発注者も参加しているのもユニークだ。「発注者様との情報共有も、メールや定例会議だけだったので、タイムラグが生じやすい状況でした。そこで、発注者様にも依頼して、LINE WORKSを利用してもらうことにしました」とのこと。もちろん、セキュリティや情報管理にも配慮されており、協力会社と発注者に対してアドレス帳や掲示板に閲覧制限を設定しているという。

業務目的ごとにグループを作成 導入効果は伝達スピードと周知の確実さ

 LINE WORKSのグループは、組織単位ではなく、業務目的ごとに作っている。正直言って、かなりの数だ。「建設現場は、情報が非常に多い。1つのグループにすべての情報を集約すると必要な情報を引き出すのが大変なので、業務目的ごとにグループを作ることにした結果、数が増えてしまいました」と神山氏は語る。

 これらのグループはほぼ現場のリクエストで作られている。「こちらが提案しても、実際に利用者が納得して積極的に活用しないと意味がありません。依頼に応じてその都度作成しています」(神山氏)。

依頼によりトークグループを作成・管理することで、組織ごとのグループが乱立することなく、業務目的に応じたグループのみができあがる

 多くのユーザーは「ビジネス版のLINE」と言えば、すぐに利用してくれたという。LINEということで、「ハードルの低さ、受け入れやすさはあります。そのため、特に細かい使い方を教えたこともありません」と神山氏は振り返る。利用する端末も、会社支給や私物とさまざまだという。

 たとえば、職長会幹部の会合で手配する弁当をLINE WORKSのアンケートで集計するという使い方は、職長自身の発案によるものだ。「各協力会社に、作業所の休憩室で座席がいくつ欲しいかという要望もアンケートで集計していました」(神山氏)。また、会議室の予約は設備予約ではなく、使いやすい共有カレンダーを用いている。

弁当発注のアンケート。数百人規模の回答収集も簡単で集計も瞬時に完了する

各協力会社に休憩室の座席数の確認もアンケートを活用すれば一社ずつ聞いて回る必要がない

カレンダーは個人の予定ではなく、会議室の予約確認に活用。共有カレンダーを使用することで、誰でも使用予定の登録・確認・修正・削除が可能になる。

 LINE WORKS導入による最大の効果は伝達のスピードだ。「大きい現場は、敷地も広大で、建物も高いので、特定の人を探すのが大変で、電話に出られないときもあります。打合せなどの時間を調整するのも一苦労。でも、LINE WORKSを利用してチャットで連絡しておけば、それぞれが空いている時間に読んでくれます。だから、伝達のスピードは以前に比べて何倍にも向上しました」と神山氏は語る。

 また、各種情報の全体への周知も確実になったことも大きい。「全体周知できる場は限られています。工事の進捗状況によって全員が集まるスペースを確保できないときもあります。今では全員が所属しているグループにチャットで情報を送ることができ、確実な情報伝達や安全性の確保など、リスクヘッジにもつながっています」(神山氏)。

建設現場で重要なピンポイント天気予報もLINE WORKSへ

 最近、実証実験としてスタートしたのは建設現場で使われている気象予測解析配信システム「防災盤」との連携だ。防災盤は500mメッシュという狭い範囲の天気予報を掲示するサービス。開発元のシスメットは、建設現場に特化したピンポイントな天気予報を提供している。

 今回の連携では、防災盤で風の強さや雨量の予測が設定した「しきい値」を超えると、メールが発信され、その予測値がLINE WORKSの掲示板やグループに掲載されるという仕組みになっている。神山氏がシスメットと交渉し、LINE WORKSとの連携を実現。現場で必要な情報を伝達スピートが速いLINE WORKSに集約することで、価値をますます高めている。

風の強さや雨量の予測、気象予測解析配信システム「防災盤」で設定した「しきい値」を超えるとLINE WORKSのトークや掲示板に掲載される

 神山氏は、「少なくとも、この作業所に関してはLINE WORKSがないと効率よく仕事が進まないまたははかどらないくらいのレベルにまで浸透しています。新しい協力会社が入場して来たら、まずはLINE WORKSを導入してくださいという流れになっています」と語る。

 今回の事例は長崎の大規模作業所に焦点を当てたが、大成建設の各建設現場ではかなり水平展開しており、現場のリクエストに応じて本社のICT部門(ICTキャラバン隊)がLINE WORKS導入をサポートする体制もできつつある。また、大成建設のプロジェクトに関わった協力会社や発注者が自社でLINE WORKSを使い始めるという流れも生まれているという。

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