Vketは「上級者向け」「入門者向け」の2つに
いまHIKKYではさらに2つのアプローチからバーチャルマーケットを展開しようとしています。
1つはVRChatを中心に展開されているVRデバイス向けのVket。こちらは体験の良さは確実にあるのですが、VRハードを持っていないと十分に楽しめないという限界を抱えています。デスクトップからも参加できますが、体験の満足度は相対的に低いという傾向があります。また、普段ゲームを遊ぶユーザーならまだしも、そうではない人にとってVRChatに参加するハードルは非常に高いんです。なので、もっと簡単に色々な人がメタバースに参加できて、その上ビジネス展開もできるようにということで開発しているのがスマホ向けのライト版Vket「Vket Cloud」。
HIKKY独自のメタバースエンジンを使って、ウェブ上にメタバースのサービスを拡張しようとしているものです。現在はβ版を公開していますが、Twitterに貼られたリンクを叩くだけで、すぐにメタバースに入れるような環境です。ユーザーが好きなようにメタバースのワールドを作れるようにして、そのなかでコマースをしてもいいというレギュレーションになっています。
Vket Cloudを導入するのは、HIKKYだけでパラリアル都市を作るには年に数都市程度という限界があるためでもあります。各自治体とその地元企業がVket Cloudを利用して、独自のメタバース(ワールド)を作れる環境を整えていこうともしてます。
たとえば今年10月開催のイベント「バーチャル沖縄」。沖縄県が開催する大きなイベントに合わせて「バーチャル首里城」を作るなど、官公庁からの発信をして、かなりの成功をおさめました。しかし、ここにHIKKY社が関わっていたのは技術提供のみ。実際にVket Cloudで開発・運営をしたのは地場のIT企業だったんですね。
こうして「1人1メタバース」を持てるくらいの環境を作ることで、バーチャルマーケットを、ハイエンドユーザー向けのVket、ローエンドユーザー向けのVket Cloudという2つに分けようとしているというわけです。
さらにもう一歩踏み込んでやろうとしているのはリアルとリンクさせたイベントです。来年の「Vket 2023 Summer」に合わせて開催を予定しています。規模感はまだ調整中のようですが、「ニコニコ超会議」のようになるのかもしれません。
これまで、「Vket 2022 Summer」でも、実験的にリアルとリンクさせた展示をやったこともありました。JR西日本が「バーチャル大阪駅」のなかに吉本興業のライブ会場を作ったんですが、そこでお笑い芸人さんがライブをするときには、Questをかぶってバーチャルとリアルに同時に出てくるということをしたんです。
バーチャルがリアルを排除するのではなく、補完していくんだという関係性を見せた形ですね。
これほど有名企業が付いたメタバースイベントは世界初
ユーザーのアバターニーズに始まり、企業出展へと広がっていたVket。それなりに回数を重ねていますが、まだ若いイベントであることには変わりありません。
ただし、数時間をかけて一般ブースを歩き回ってみると、そこには今後広がりそうなイノベーションの種を感じ取ることができます。加えて、これだけのナショナルブランドともいうべき有名企業がスポンサーについているメタバースイベントは、世界全体を見渡してもありません。
そんなVketの注目点は、展示会ビジネスとして安定的に収益が出るようになっていることです。これまでメタバースの収益はB2Bがメインでしたが、適確に社会に受け入れられることでしっかり経済圏を作れるという可能性が見えたなと感じています。
筆者紹介:新清士(しんきよし)
1970年生まれ。「バーチャルマーケット(Vket)」で知られる株式会社HIKKY所属。デジタルハリウッド大学院教授。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲームジャーナリストとして活躍後、VRゲーム開発会社のよむネコ(現Thirdverse)を設立。VRマルチプレイ剣戟アクションゲーム「ソード・オブ・ガルガンチュア」の開発を主導。著書に8月に出た『メタバースビジネス覇権戦争』(NHK出版新書)がある。
※お詫びと訂正:初出時「VRスタートアップVLEAPの新保正悟CEO(現在)が大学院生だった2019年」としていましたが、正しくは大学生でした。関係者の皆様にご迷惑をおかけしたことをお詫びするとともに訂正します(12月30日13時16分)
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