佐々木喜洋のポータブルオーディオトレンド 第165回
Bluetoothで192kHz/24bitのロスレス伝送に対応するOPPO「MariSilicon Y」とは?
2022年12月21日 16時00分更新
OPPOが12月14日に開催した自社製品イベント「Inno Day 2022」でオーディオ向け独自Soc「MariSilicon Y」を発表した。Bluetoothで192kHz/24bitの伝送を可能にし、AI技術も取り入れている。
OPPO独自チップの第2弾
MariSiliconはOPPO独自設計の「OPPOシリコン」と言うべきチップだ。カメラ機能向けの画像処理用ニューラルネットチップ「MariSilicon X」が発表済みで「OPPO Find X5 Pro」に搭載されている。第1弾のMariSilicon Xは昨年のInno Day 2021で発表されたもの。MariSilicon Yは、それに続く独自チップとなる。
OPPOは独自チップの開発について以下のように述べている。「近年ではBluetoothオーディオの高音質化が求められている、またAI技術によってより没入感がある音楽体験ができるが、それはデバイスのコンピューティングパワーを必要とする。MariSilicon Yはその制約を解決するものだ」
高い伝送性能、AI技術による付加機能
MariSilicon Yの特徴は、伝送性能の高さとAI技術をワイヤレスオーディオに活用している点だ。
MariSilicon Yは上述の192kHz/24bit伝送に加え、OPPOの独自技術「URLC」(Ultra Resolution Lossless Codec)でロスレス再生を可能にしている。Bluetoothの伝送速度は世界で初めて12Mbpsを達成したという。URLCはアダプティブかつスケーラブルなコーデックで、伝送品質によって48kHz/16bitの80Kbpsから、192kHz/24bitロスレスの10Mbpsまでデータレートを可変できるとしている。Inno Day 2021においては"ロッシー"の192kHz/24bitと"ロスレス"の192kHz/24bitの聴き比べもでき、LDACなど既存ハイレゾコーデックを意識しているようにも思える。
さらにMariSilicon Yは、Bluetooth SoCにおいて初めて内蔵された590 GOPSのニューラルネット処理力を持ち、AIの力をBluetoothオーディオ伝送に活用したSoCでもある。Music Extraction(音楽抽出)とSpatial Rendering(空間レンダリング)を通じて、音楽のボーカルや楽器パートを抽出し、仮想空間に再配置、さらにパーソナライズされた空間オーディオにも対応するとしている。発表の説明から推測すると、パーソナライズは個人の耳の形に合わせるのではなく、あたかもレコーディング・エンジニアがミキサーを操作するように、抽出した楽器音などを、ユーザーの好みで空間に再配置できるという意味のようだ。
小型で電力効率が高いチップ
また、TSMCの無線チップ向け最新プロセス技術を使った「N6RF」を用いている。従来品よりも消費電力効率が66%向上し、サイズは33%縮小。これによりデザインを損なうことなく、高いオーディオ性能を発揮できるとしている。N6RFは、TSMCが昨年6月に発表した5G用無線チップ向けの製造プロセス技術だ。MariSilicon Yの発表数値はTSMCの発表に基づいていると思われる。
このほかMariSilicon Yは、LE Audioにも対応しているようだ。内容の詳細についてはR&D向けに近日公開するとしているが、伝送性能の高さもさることながら、AIをワイヤレスオーディオに大きく取り入れている点が興味深い。またアップル以外のスマホメーカーがこうした独自チップの製造に向かっているという点にも注目すべきかもしれない。

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