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未来を感じさせるメタバース上での3Dモデリングも披露

創業40周年を迎えたアドビ デジタル社会の未来を考えるラボを設立

2022年12月02日 09時30分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

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 2022年12月1日、アドビは創業40周年目を迎えるのを機に、事業説明やビジネスアップデートを披露する記者説明会を開催した。登壇したアドビ代表取締役社長の神谷知信氏は、デジタルが生活やビジネスの基盤となる昨今、クリエイティブ、ドキュメント、マーケティングの3分野で事業を展開する同社の立ち位置を改めて説明するとともに、デジタル社会の将来について考える「アドビ未来デジタルラボ」の設立を発表した。

アドビ代表取締役社長の神谷知信氏

PostScriptから始まり、PDF、デジタルマーケティング、サブスクへ

 12月2日はアドビ創業の日で、今年で40周年を迎えた。日本法人の設立も今年が30周年とのことで、2022年は「アドビ周年」となっている。登壇した神谷氏は、参加者にこれまでの感謝を伝えつつ、過去の実績と市場動向について披露する。

 今からちょうど40年前、ページ記述言語PostScriptからスタートしたアドビ。デジカメの未来すら予見されていなかった時代にPhotoshopやIllustratorを世に送り出し、その後もDTPやWebオーサリング、動画などさまざまなメディアの制作や編集に欠かせないツールを手がけてきた。以降、デジタルクリエイティブソフトウェアの先駆者となり、今も他社の追従を許していないのはご存じの通りだ。

 一方で、PostScriptをベースにしたPDFフォーマットの編集ツールとしてAcrobatを投入して、ドキュメントのデジタル化にも取り組んできた。そして、2009年にはオムニチュアを買収し、新たにデジタルマーケティング領域に進出している。

 2012年にはCreative Cloudで業界に先立ってサブスクリプションを導入。そのサブスクリプションの販売やマーケティングをアドビのツールで実施し、自らがデジタルマーケティングの先駆者としてテクノロジーを実証してきたという。変化の大きいIT業界において、同社は長期にわたって堅調な業績を上げ続けており、2022年度の売上は日本円でおよそ2兆4000円となる176億ドルを予想する。このうち売上の約95%はサブスクリプションでの収益になるという。

堅調な業績を上げ続けるアドビ

デジタル前提の社会とビジネスを3つのプロダクトで支える

 記録的なインフレと景気の減速が伝えられる最中だが、アドビの調査では先頃のサイバーマンデーは史上最高となり、記録的なEコマース売上となった。プリンター出力を制御する技術からスタートしたアドビが生まれて40年、デジタルの存在はますます大きくなり、人々に新しい生活やビジネスをもたらしているのは事実だ。

 こうしたデジタル社会をアドビはどう捉えているのか? 今ではデジタルコンテンツやアプリが爆発的に増加・消費されるようになり、日本では動画の伸びが顕著になった。また、コロナ禍を経てハイブリッドな働き方やデジタルなコラボレーションが必須になり、創造力が生産性を左右するようになっている。そして今やすべてのビジネスでは、パーソナライズされた顧客とのエンゲージメントが重要になり、AIや機械学習によって、イノベーションが生まれ、さらに加速している現状だという。

デジタルが実現する生活やビジネス

 こうした市場動向の中、アドビの日本法人では「心、おどる、デジタル」をテーマに、クリエイティブ(Creative Cloud)、ドキュメント(Document Cloud)、デジタルマーケティング(Experience Cloud)の3本柱で事業を推進している。

 まずCreative Cloudではサブスクリプション化で機能強化が加速する一方で、誰もが簡単にデザインできるテンプレートベースの「Adobe Express」も登場。クリエイティブを補完する「Adobe Sensei」のAI技術はますます洗練されたほか、先日のFigmaの買収でチームによるコラボレーション領域も一気に強化された。

 また、Document Cloudの事業はテレワーク導入に必須となるペーパーレス化の流れで一気に拡大したという。メールやWeb、クラウドで扱われるPDFの数は数兆におよび、電子サインの導入で契約応答の時間は80%も削減されるという。

 さらに、Experience Cloudを活用した顧客体験の向上はあらゆる業界も拡がっている。製造業や消費財、エネルギーといった分野でもコンシューマーへの直接的なアプローチが始まり、小売においてもエクスペリエンス主導型のコマースが主流に。メディアやエンターテインメントの業界ではデジタル配信とファンエンゲージメントが当たり前となっている。2016年は160億ドルだったデジタルマーケティングの市場規模は、2022年は440億ドルにまで膨らんでいる。

専門者、アドビ、SNSの声でデジタル社会を考える「アドビ未来デジタルラボ」

 現在、アドビ日本法人は「相談できるアドビ」をテーマに、データ×クリエイティブを一気通貫で支援する体制を整えているという。「どこからDXを始めればいいのかわからない。アドビの製品は難しいと言った声に応える体制を作っている」と神谷氏は語る。

 そして、今回設立を発表したのは、日本のクリエイターやマーケターの力を解き放ち、わくわくする日本のデジタル社会の未来を描く「アドビ未来デジタルラボ」。テクノロジーとコンテンツの関係やプライバシー問題、言語や文化の壁について議論する「テクノロジーの未来」、クリエイティブへのAIや3Dの影響、コンテンツ立国としての日本の発信、地方の地域性や伝統の強みを検討する「コンテンツの未来」、未来の働き形や生活の場所、時間の使い方、デジタルツールと教育、求められるデジタルコンテンツなどを考える「ライフスタイルの未来」の3つが活動テーマ案として挙げられた。

 プロジェクトに参加する専門家は、開発者の及川卓也氏、ITエバンジェリストの若宮正子氏、AR/MR研究開発者の伊藤武仙氏、UI/UXデザイナーの深澤貴之氏、産学連携を手がける長田新子氏、動画クリエイターの明石ガクト氏、経営コンサルタントの馬淵邦美氏などのメンバー。こうした専門家の意見とアドビメンバー、SNSの声などを踏まえ、調査、討論、実証実験、提言を進めていくという。

アドビ未来デジタルラボの主要メンバー

 発表会では、メタバースでの3Dモデリングのデモも披露された。これはメタとのパートナーシップで実現した「Adobe Substance 3D Modeler」で、Questプラットフォームとの統合が予定されている。

 デモを行なったアドビ 3Dビジネスディベロップメント テクニカルアーティスト/エバンジェリストの福井直人氏は、まずPC上でおおまかな3Dモデリングを施し、途中からヘッドマウンドディスプレイを装着して、メタバース上での作業に切り替え、立体造形物のディテールを仕上げていく。これからのクリエイターのスキルを考えさせられるデモンストレーションだった。

3Dモデリングを行なう3Dビジネスディベロップメント テクニカルアーティスト/エバンジェリストの福井直人氏

奥行きのあるメタバース空間上で3Dモデリング

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