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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第205回

仮想通貨市場に激震──FTX経営破たん

2022年11月14日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 仮想通貨(暗号資産)市場が揺れている。

 11日のニューヨーク・タイムズによれば、仮想通貨取引所FTXが巨額の負債を抱え、米連邦破産法の適用を申請した。

 10日のブルームバーグは、FTXは最大で80億ドル(約1兆1700億円)の資金が不足していると報じていた。

 8日には、世界最大級の取引所バイナンスがFTXの買収を発表するなど、経営再建を目指す動きもあったが、バイナンスが翌日に買収を撤回する事態になり、かえって危機は深まった。

 同社の破たんをきっかけとした仮想通貨市場の危機は、「外国の話」にはとどまらない。

 経営危機の可能性が浮上した7日以降、ビットコインを始めとした主要な仮想通貨の価格は大きく値下がりしている。

 日本時間11日朝の時点で、FTXの日本語のサイトを開くと、「出金サービスを停止しております。入金を控えていただきますよう、お願いいたします」とのメッセージが表示されていたが、その後、出金が再開されたとみられる。

 日本の金融庁は10日、暗号資産交換業者FTXジャパン(FTX Japan)に対し、ユーザーから預かっている証拠金などを速やかに返還できる態勢となるまで、業務を停止するよう命じている。

「仮想通貨のリーマン?」

 取引所の経営危機、大規模なハッキングや価格の乱高下など、仮想通貨市場は常に激動してきた。しかし、浮き沈みに慣れた市場であっても、今回のFTXの経営危機は業界全体を大きく揺るがす事態と受け止められている。

 9日のニューヨーク・タイムズは、世界的な金融危機の引き金となったリーマン・ブラザーズの経営破綻を引き合いに「仮想通貨にとってのリーマン?」の見出しで解説記事を掲載した。

 FTXは、バイナンスと並ぶ、「世界最大級」の取引所として知られている。

 仮想通貨は誕生してから14年ほどの若い市場だが、FTXは2019年の設立で、比較的新しい企業だ。

 バハマに本社を置いているが、アメフトのスーパーボウルでCMを放映するなど、米国内での知名度が高いと言われている。

 ソフトバンクも出資者の1社として名を連ねており、1月には、企業としての評価額が4兆円を超えると高い評価を受けた。

 2月には、日本の暗号資産交換業者Quioneの親会社リキッドグループ(Liquid Group)を買収し、日本の仮想通貨市場に本格参入した。

 30歳の創業者サム・バンクマンフリード氏は、8月に米FORTUNEで「次のウォーレン・バフェット」との見出しで紹介されていた。

独自の仮想通貨で生じた問題

 FTXの経営危機のきっかけとなったのは、FTXが発行する独自の仮想通貨FTTトークンだ。

 バイナンスの創業者ジャオ・チャンポン氏は、FTXの株式を保有していたが、2021年にFTXに売り戻し、代金の一部をFTTトークンで受け取ったとされる。

 11月2日、米国の仮想通貨専門ニュースサイト「コインデスク」は、バンクマンフリード氏の運営するヘッジファンド「アラメダ・リサーチ」が、大量のFTTトークンを保有していると報じた。

 10日のロイターによれば、5月と6月に巨額の損失を出したアラメダを支援するため、バンクマンフリード氏は、FTXの資産の一部をアラメダに移した。その大部分は自社が発行するFTTトークンであったため、アラメダが保有する資産の健全性に疑問符がついた。

 コインデスクが報じたニュースをきっかけに、バイナンス側がFTTトークンを売却すると発表したため、FTTトークンの価格は暴落した。

 この騒動でFTXに口座を保有する投資家から、出金の要求が相次ぎ、資金不足に陥ったというのが、おおまかな流れだ。

陰謀説呼んだバイナンスの動き

 FTXとライバル関係にあるとされるジャオ氏率いるバイナンスが、今回の経営危機の引き金を引いたとも受け取れるが、バイナンスがFTXの救済に動いたことが疑念を呼んだ。

 11月8日には、バイナンスがFTXを買収するとして、両者が拘束力のない合意文書に署名したとTwitter上で発表した。

 しかし翌日には資産査定の結果、バイナンスはFTXの買収から撤退することを決めたと発表している。

 バイナンスが疑惑のあるFTTトークンの売却を決めたことで、結果として出金騒ぎの引き金を引き、一時はFTXの救済に乗り出したものの、翌日には撤回している。

 こうした一連の流れは、ライバルを攻撃するためバイナンス側が仕組んだものだとの陰謀説まで飛び交った。

市場全体の危機

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