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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第203回

音楽レッスンも、著作権使用料の支払い対象に。最高裁判決に残る疑問

2022年10月31日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 音楽は楽しい。楽器を演奏するのは、もっと楽しい――。

 子どもたちに、そう思ってもらうにはどうしたらいいだろうか。

 音楽の教師や演奏者たちは工夫をこらす。

 子ども向けのクラシックの演奏会で目にするのは、『となりのトトロ』のテーマ曲「さんぽ」を子どもたちと一緒に歌い、オーケストラが「ドラゴンクエストⅠ」の序曲を演奏するといった場面だ。

 子どもたちに楽器を教える教師たちも同じだろう。子どもたちも、知らない昔の曲を「練習しなさい」と言われるよりも、大好きなアニメやゲームのテーマ曲を練習するほうがきっと楽しいはずだ。

 2022年10月24日、音楽のレッスンで演奏される楽曲の著作権料をめぐって、注目度の高い裁判があった。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)と音楽教室の運営会社などが争った裁判で、最高裁第一小法廷は、音楽を教える教師からは使用料を徴収できるが、生徒の演奏については徴収の対象にはならないと判断した。

 この最高裁判決で、音楽教室で演奏される楽曲の著作権をめぐって、裁判所の判断が初めて確定したことになる。

 本稿では、著作権法の第1条に「著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする」と規定されているが、今回の判断はこの目的に合致するのか、という問いについて考えてみたい。

約250社がJASRACを提訴

 著作権をめぐるJASRACと音楽教室の争いは、およそ5年前にさかのぼる。

 JASRACが、音楽教室で演奏される楽曲の著作権の使用料として、受講料収入の2.5%を徴収する方針を音楽教室側に示した。

 これに対して、音楽教室を運営するヤマハ音楽振興会や河合楽器製作所などが「音楽教室での練習や指導のための演奏は該当しない」と激しく反発し、2017年2月、「音楽教育を守る会」を結成した。

 音楽教室の運営企業など約250社・団体が2017年6月、JASRACを相手に、東京地裁に訴えを起こし、教室での演奏については著作物使用料の請求対象にはならないとの確認を求めた。

 2021年3月18日、知的財産高等裁判所は、音楽のレッスンで教師が演奏する楽曲については、使用料を支払う必要があるが、生徒の演奏については支払う必要がないと判断した。

 双方が、教師の演奏については使用料を支払う必要があるとした知財高裁判決の一部を不服として、最高裁に上告していた。

原告も被告も「文化の担い手」

 悩ましいのは、「音楽教育を守る会」が音楽教室、JASRACは音楽クリエイターの利益を代表している点だ。

 音楽クリエイターは、著作権法第1条に書いてある「文化の発展」の担い手だ。

 著作権の使用料が増えれば、クリエイターの収入の増加につながる。

 このためJASRACは、テレビやラジオに始まり、カラオケボックス、音楽教室など段階的に使用料徴収の対象を広げてきた。

 JASRACが徴収対象の範囲を拡大する動きを続ける中で、音楽教室との激しい摩擦が生じた。

 原告となった音楽教室もまた、「文化の発展」の担い手だ。

 音楽との関わり方は人それぞれだが、少なくともクリエイターとして活動するには、ギターやピアノなど、何らかの楽器を演奏できる必要がある。

 音楽教室に通う子どもたちの中から、将来、優れたクリエイターが出てくるかもしれない。

すっきりしない思いが残る

 今回の最高裁判決に対して釈然としない思いが残るのは、JASRACと音楽教室がいずれも音楽を生み出すエコシステムの中で、重要な役割を担っているからだろう。

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