まつもとあつしの「メディア維新を行く」 第76回
〈前編〉アニメの門DUO キャラクター・データバンク陸川和男社長が語る
プロが語る「コロナ禍のアニメとキャラクタービジネス」
2022年08月26日 18時00分更新
すでにZ世代は「キャラクター=アニメの登場人物」に
まつもと 今日は「コロナ禍はキャラクタービジネスにどのような影響を与えたのか?」をうかがっていきます。さっそく「そもそもキャラクタービジネスとは?」から入っていきましょう。
キャラクタービジネスと聞いて、まあなんとなくイメージはつくのだけれど、ではどこからどこまでを指しているのかといった具体的な定義までイメージできる方って案外少ないと思っていますので、まずは陸川さんにキャラクターの定義からお話いただければと思います。
陸川 みなさん「キャラクター」と聞いて何を思い浮かべますか?
最近、Z世代の方々を集めたグループインタビューで「好きなキャラクターは?」と聞くと、アニメのキャラクター以外出てこないというぐらい「キャラクター=アニメ」になっているんです、実は。
下の図にありますように、キャラクターの定義という側面で見ると、漫画・劇画、アニメーション、絵本、小説など――いわゆる著作物ですね――に登場する、人物、動・植物あるいは想像上の生物。こういったものを我々はキャラクターとして認識しているのだと思います。
そして、それらは大きく3つに分けられます。まず漫画、アニメーションなどの視覚的表現を伴う著作物の登場人物、これは「ファンシフルキャラクター」というふうに呼ばれています。ファンシフルは「架空の」という意味ですから、つまり「架空の登場人物」ということですね。
そして2つ目。これはまさに日本特有と言ってよいのかもしれませんが、商品化などの目的で単体で創作され視覚的に表現されたキャラクター、これを「オリジナルキャラクター」と言います。我々が「キャラクター」と聞いて思い浮かべるのは、このファンシフルキャラクターとオリジナルキャラクターでしょう。
そして最後に、小説などの視覚的な表現を伴わないものもキャラクターと呼ぶわけで、それは「フィクションキャラクター」とか「文学的キャラクター」と呼ばれていますが、我々がキャラクタービジネスと言ったときには、最初の2つを指しているとご理解いただければと思います。
まつもと なるほど。
陸川 次に見ていただきたいのは「狭義な意味でのライセンスビジネスの対象」です。
キャラクタービジネスは、正確に言うと「キャラクターライセンスビジネス」だと思っています。ライセンスとは「許諾する」という意味です。まあ、あまり日本語でも「許諾する」という言葉は使いませんが、希望や願いを聞いてあげる、ということです。
では、キャラクターライセンスビジネスの許諾対象は何かと言うと、著作権や商標権の対象になっているもの、となるわけですね。もちろん、自社で商品を作って自社で販売するなど、ライセンスという手法を使わないパターンもありますし、それも広い意味でのキャラクタービジネスの範囲に入れて良いと思いますが、基本的にはライセンスという手法が使われています。
「コンテンツ産業およびその他の関連産業における著作権、商標権を中心とした“権利ビジネス”」。これを、狭義な意味でのライセンスビジネスと呼んでいます。
そして、その対象になるのがIP(Intellectual Property=知的財産)ということになります。下の図に狭義な意味でのライセンスビジネスの対象になるものが書いてありますが、キャラクターからセレブリティまで、広く商品化などに使われています。
さらに「世界におけるライセンスビジネスの市場規模」を見てみましょう。コロナ前の2019年の数字なのですが、国際的なライセンスビジネスの団体であるLicensing Internationalの調査によると2928億ドル、つまり30兆円を超えるマーケットになっているということです。
そしてこの数字は毎年4~5%ずつ伸び続けています。「音楽」「ファッション」など10カテゴリーあるなかで「キャラクター」は全体の半分近くにあたる44%、ざっと13兆円くらいのマーケットです。なお、国別の市場規模を見ると日本はこのキャラクターが全体の77.7%まで占めているのが特徴的です。
まつもと ファッションや音楽、アートなど10カテゴリーの市場を調査した上で、それでもキャラクターの市場が飛び抜けて大きいというのは世界的にも独特ですよね。
ここまでのお話をまとめると、まず「ライセンスビジネスという巨大なビジネスジャンルがあり、音楽やファッションなどカテゴリー別に見ると特に強力なのが“キャラクター”」。そして、「キャラクターのライセンスビジネスは世界的に大きいものだけれど、日本ではケタ違いの存在感がある。それらを扱う商売は“キャラクタービジネス”と呼ばれる」と、こういった理解でよろしいですかね。
陸川 そうですね。まあ正確に言うと、まつもとさんはご存知のように、商品化だけではなくて当然、映像などもライセンスはされていくわけですが、ここに挙げさせていただいた数字は商品化に限っていますので、「商品化の規模のみで30兆円もある」というふうにご理解いただければと思います。
まつもと わかりました。ここまで「キャラクタービジネスとはなんぞや?」というテーマでしたが、次は「アニメとキャラクタービジネスの関係」を陸川さんと深掘りしていきたいと思います。
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