新たな歩行空間

都市の変化に伴いつつ、ニーズに合わせた桜木町駅前交通広場のリニューアル

文●ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 横浜市にある桜木町駅前交通広場が今年4月にリニューアルされました。スムーズな交通の導線や歩行者の安全など、リニューアルの狙いやポイントについて取材しました。

 コスモワールドやワールドポーターズ、ハンマーヘッド、赤レンガ倉庫、カップヌードルミュージアムなど、横浜屈指の観光スポットを擁するみなとみらい21地区。このみらとみらい21地区の新たな移動手段として2021年4月、都市型ロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN」が開業しました。桜木町駅とワールドポーターズ直結の運河パーク駅をつなぐこのロープウェイは、運河の上を通り、周囲の景観を楽しみながら両駅間を約5分で結んでくれます。

2021年4月に開業した都市型ロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN」。キャビンや駅舎が夜になるとライトアップされるといったエンタテインメント性も魅力のひとつです。

 そして2022年4月、YOKOHAMA AIR CABINの発着場所でもある桜木町駅前交通広場がリニューアルしてより美しく、より機能的になりました。

 このリニューアルにおいて、横浜市が掲げるポイントは次の6点です。

・路線バス待機場の増設
・シャトルバス乗降場の拡大
・路線バス乗降場の再編
・障害者用停車施設の新設
・タクシー乗り場の桜木町駅改札側への移設
・車両導線の変更及び広場内横断歩道の廃止

 車両や歩行者の導線を再編することによって、広場の利便性や歩行者の安全性が向上したといいます。本リニューアルはいかにして達成されたのでしょうか? 工事期にプロジェクトを担当した横浜市都市整備局企画部企画課の池田直紀さんに話を聞きました。

リニューアル後の桜木町駅前交通広場。路線バス/シャトルバス/タクシーと、歩行者の導線が整備されたことによって、効率的かつ安全な交通を実現しました。

乗降場や通路の再編によって導線を整備して歩行者の安全性も確保

 「もともと交通広場が整備されたのが1989年。その後、2002年の日韓ワールドカップに合わせて改修を行いましたが、みなとみらい21地区の発展に伴って交通事情が変化して、従来の構造では対応しきれなくなってきていました」と池田さん。

 その状況に対して横浜市が動き出し、関係各所との協議や設計などを経て、実際に着工したのは2021年。

 数ある課題の中で最初に取り組んだのは、バスの待機場所が不足していたという点です。

 「交通面から考えると路線バスには2種類あります。あるバス停で乗客を乗せて降ろす通過型は大きな問題にはなりません。しかし桜木町駅は交通の要所で、乗客を降ろしたあとに待機していなければならない発着型のバスが多いです。しかし、リニューアル前はそのための路線バスの待機場が2台分しかありませんでした。

 待機場に入れなかったバスが時間調整のために広場の外に出てしまっていて、これは周辺道路の交通量渋滞の面でも運行の定時性という面でもいいことではありませんでした。そこで、植栽帯を減らすなどスペースを再配分して、路線バスの待機場を8台まで増やすことにしました」

リニューアル前の駅前交通広場。
※出典:令和3年2月15日 横浜市会 建築・都市整備・道路委員会資料

リニューアル後の駅前交通広場。タクシー乗車・降車場と駅前歩行者空間をつないでいた横断歩道の撤去によって歩行者が安全にバス停に迎えるようにしています。

 また路線バスだけではなく、シャトルバスの乗降場も問題点のひとつだったと池田さんは言います。

 「駅には近隣の結婚式場をはじめ、さまざまな施設のシャトルバスがやって来ます。その乗降場が2台ぶんしかなく、路線バスと同じ待機のための場所がないという問題を抱えていました。さらに、シャトルバスとタクシーの利用者が急ぐあまり、タクシーの待機場と待機しているバスの合間を縫って道路を横断してしまうことが多々ありました。これは大変危険です」

横断歩道をなくし、歩行者と車両の流れを別々に

 「そこでポイントとなったのは、各種乗降場の再編とシャトルバス乗降場へと続く横断歩道の撤去です。横断歩道をなくして歩行者空間にすることによって、タクシー客やシャトルバスの乗降客に自然な導線を与え、歩行者と車両の接近がなくなるようにしました。

 それでもどうしても無理な横断をされてしまいそうな場所には、柵を設けるなど道路を横断することが難しい構造になる工夫を施しました。これらによって歩行者の安全がかなり確保されたと思います」

歩行者用の導線の確保だけではなく、危険な乱横断を防ぐため、案内標識による誘導も。

乱横断が発生しやすい場所には柵を立てて、物理的に渡れない工夫もされています。

 また、新たに作られた通路部分は、それまでなかった障害者用停車施設として利用することもできて一石二鳥だったとのことです。

新設された「障害者用停車施設」。この場所から駅に向かっては低木を中心とした植栽にして見通しをよくし、目指すべき場所がすぐにわかるようになっています。

歩行者の視線誘導も考慮して導線を構成

 次のポイントとして、タクシーの降車場乗り場をロープウェイ駅舎の下というJR桜木町駅から近い位置に移動しました。

  「実はロープウェイの駅舎下はJR桜木町駅の出口から直接は見えないのですが、タクシーの乗車場には通常5台まで車両が待機して並ぶことができます。このことで、並んでいる列の先を見れば、どこに乗り場があるか自然と理解できるという目論見がありました」と池田さん。

JR桜木町駅南口から見た「YOKOHAMA AIR CABIN」。乗り場自体は見えませんが、タクシーが並んでいるため向かうべき方向がわかるつくりになっています。

実際のタクシー乗り場。副次的な効果として、ロープウェイの駅舎下になるため、大きな荷物を持っていても少々の雨では濡れることなく乗車できるそうです。

 池田さんいわく、今回の駅前広場リニューアルは「全員が全員100点満点というわけにはいきませんが、総じて計画通りにうまくいった」とのことです。さらに現在は、桜木町駅周辺エリア全体で、歩行者の導線を2Fデッキで確保する新たなまちづくりを進めている最中だそうです。歩行者の導線を地上から2Fに移すことによって、道路を走る車両と導線を切り分ける狙いがあるとのこと。今後の進化にも期待したいですね。

横浜市都市整備局企画部企画課の池田直紀さん。桜木町駅前は当然市民の日常に結びついているため、工事にあたって路線バスやタクシーなどの導線を止めることはできず、どのエリアをいつ制限して工事するかの調整がいちばん大変だったそうです。

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