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小島寛明の「規制とテクノロジー」 第188回

マイナンバーで買い物する日がやって来る?

2022年07月18日 09時00分更新

文● 小島寛明

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 政府はマイナンバーカードの普及に苦労している。

 総務省の発表によれば、2022年6月末時点のマイナンバーカードの交付率は45.3%だ。

 政府は、2022年度末までに「ほぼ全国民に行き渡ることを目指す」との目標を掲げているが、目標達成が危ぶまれる状況だ。

 一方で、マイナンバーのような「共通番号制度」で先行する国の事例を見ると、けっこう興味深い事例が複数ある。

 共通番号にひも付いたデジタルIDを、日常の買い物に使う仕組みが普及している国もある。

民間の銀行がつくった「マイナンバーカード」

 日本では総務省などの省庁がマイナンバーカードをつくり、自治体が窓口になっているが、スウェーデンでは銀行がつくったデジタルIDが普及している。

 スウェーデンのマイナンバーカードとも言える「BANK ID」は、2002年に銀行など金融機関7社が開発した。2019年の時点で国民の約8割が利用しているとされる。

 マイナンバーカードは、マイナンバー、氏名、生年月日、住所、電子証明書などが記録されている。

 一方、BANK IDは、個人識別番号、氏名、電子証明書などが記録されていて、銀行口座とひも付けられている。

 2003年にBANK IDの利用が始まっているが、当初は、ファイルとしてUSBメモリやパソコンのハードディスクに保存しておく形式だったこともあり、やはり普及には苦労している。

 利用が始まった2003年の利用者は10万人ほどにとどまっていた。

 しかし、2009年にスウェーデンの国税庁が、BANK IDなどを使った電子申告に対して税金を優遇するキャンペーンを行なうと、一気に普及が進んだと言われている。

買い物にも使われるデジタルID

 BANK IDの強みは、政府ではなく民間企業がつくったことにあるのだろう。

 行政手続きだけでなく、さまざまな民間の取引にも使われている。

 BANK IDのウェブサイトには、食器を販売する企業の事例が紹介されている。

 このスウェーデン企業のサイトの顧客は、BANK IDを使ってログインし、購入するものを決めたときも、BANK IDで決済する。BANK IDは銀行口座とひも付いているため、決済もこれで完結するようだ。

 住所変更のワンストップサービスもある。国税庁や郵便局、民間企業が連携して立ち上げたサイトで住所変更の手続きをすると、提携している銀行や証券会社などに登録している住所も自動的に変更される仕組みだ。

銀行になりすます詐欺師

 銀行口座とひもづいたBANK IDが普及すれば、当然、課題も問題も生じる。

 THE LOCALという地元のウェブメディアが、詐欺の手口を紹介している。

 まず、ターゲットにされた人のもとに、警察から電話がかかってくる。電話口で警察官を名乗る相手は、「あなたの口座がハッキングされたようだ」と伝える。

 少し時間をおいて、銀行員を名乗る相手から電話がかかってくる。

 電話口の詐欺師は、ウェブサイトに誘導し、個人番号とパスワードを入力するよう求め、被害者が入力したパスワードを盗む。

 個人番号とパスワードを手に入れた詐欺師は、被害者の口座から、自分たちの口座に残高を送金してしまう。

 デジタル化が進んだ社会に合わせてカスタマイズはされているものの、日本の「オレオレ詐欺」を思わせる手口が北欧でも横行していることに驚く。

 さらに、ほぼ独占状態と言えるほどBANK IDの普及が進んだことで、「企業が個人のセンシティブな情報を独占的に保有するのは問題がある」とする批判の声も出ているという。

民間にも広がるマイナンバー利用

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