元ウォーカー総編集長・玉置泰紀の「チャレンジャー・インタビュー」番外編

六本木アート・トライアングルで歌枕から現代美術まで巡ろう

文●玉置泰紀(LOVEWalker総編集長、一般社団法人メタ観光推進機構理事)

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 国立新美術館、サントリー美術館、森美術館の3館が結成したネットワーク、六本木アート・トライアングル(略称あとろ)をご存じだろうか。アートで六本木を活性化することを目的にしている。各館で開催している展覧会チケットの半券提示で、他の2つの美術館の観覧料が割引になる「あとろ割」や、アート情報を載せた「あとろマップ」の配布などを実施している。勿論、この3つの美術館がいつも同じスパンで開催されているわけではなく、各館の中でも時期がずれた展示もある。しかし、同時開催になることもある。それが2022年6月29日から開催された3つの展覧会だ。

■国立新美術館
『ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡‐市民が創った珠玉のコレクション』
6月29日~9月26日

■森美術館
『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』
6月29日~11月6日

■サントリー美術館
『歌枕 あなたの知らない心の風景」
6月29日~8月28日

 3館の展覧会のスタートがそろったことにより、普通は開催初日の前日に行われるプレス向けの内覧会も6月28日に一斉に行われた。そして、トライアングルだけあって、時間が少しづつずらしてあって、無事、筆者もすべて回ることができた。

 六本木アート・トライアングルだが、森美術館の開館が2003年、サントリー美術館が東京ミッドタウンに入居しての再オープンが2007年3月、国立新美術館の開館が2007年1月という事で、サントリー美術館の再オープン後、六本木に3つの美術館がそろったことから、2007年にスタートし、当時、筆者が編集長だった大人のウォーカーで、その最初期の記事を作ったのを覚えている。夏本番の六本木だが、歩いてもそう遠くない3館、巡ってみてはいかがだろうか。

国立新美術館の内覧会会場にて、来日したルートヴィヒ美術館館長のイルマーズ・ズィヴィオー氏(左)、展覧会オフィシャルサポーターのトラウデン直美さん(中央)、国立新美術館学芸課長の長屋光枝氏。背景はカーチャ・ノヴィツコヴァ『近似(ハシビロコウ)』2014年

六本木アート・トライアングルのマップ。国立新美術館にて

国立新美術館:20世紀から現代までに特化した世界有数のルートヴィヒ美術館の至宝に触れる

 ルートヴィヒ美術館は、20世紀から現代までに特化した世界有数の美術館で、本展では、ルートヴィヒ夫妻などコレクターたちに焦点を当て、ドイツ表現主義や新即物主義、ピカソ、ロシア・アヴァンギャルド、ポップ・アートなど、絵画、彫刻、写真、映像を含む代表作152点を展示している。ドイツ第4の都市、ケルン市が運営しており、コレクションは、市民からの寄贈をもとに形成されてきた。

 館長のイルマーズ・ズィヴィオー氏は、今回の展覧会の意義について以下のように語った。

「東京に来れて光栄です。作品を持ってこれて嬉しく思っています。内容は、強力で美しく、メッセージ性が強い。一般市民が協力してどうやって、このようなコレクションを作り上げたか。

 開館は1986年ですが、その構想は、美術コレクターとして名高いペーター&イレーネ・ルートヴィヒがケルン市に約350点の作品を寄贈した1976年に遡ります。また、同じくケルン市立のヴァルラフ=リヒャルツ美術館からは、ケルンの弁護士、ヨーゼフ・ハウプリヒが1946年に寄贈したドイツ近代美術のコレクションを含む1900年以降の作品が移管され、ルートヴィヒ美術館の基盤が整えられました。

 今回の図録の表紙は、パブロ・ピカソの『アーティチョークを持つ女』(1941年)。『ゲルニカ』と同じ時期に描かれた作品で、やはり、反戦をイメージさせる作品。今、この時に(ウクライナ侵攻のさなか)展示する意味がある。繊細な絵なので、基本は外には出さないのだが、この時期だから例外的に貸し出しました。アンディ・ウォーホールなども初めて日本に貸し出す作品で、非常に美しく強力な展示になったと思います」

マックス・ベヒシュタイン『緑の家』(1909年)右、エルンスト・ルートヴィヒ・キルヒナー『ロシア人の女』(1912年)左

カシミール・マレーヴィチ『スプレムス38番』(1916年)右、アレクサンドル・ロトチェンコ『宙づりの空間構成10番(光反射面)』中央、アレクサンドラ・エクステル『コンポジション(ジェノバ)』左

ミュージム・グッズのデザイン性が高い

音声ガイドはこれが初挑戦の、展覧会オフィシャルサポーター、トラウデン直美さん。アートにはあまり詳しくなかった、とのことだが「父が美術館と同じケルン出身。今回の指名にはびっくりしました。このように、素敵なアートのお仕事をもらえるとは思ってなかった。自分の感覚が高められるのを感じます。素人ながらに楽しんでいます」と手応えを話した

■開催概要
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
会期:2022年6月29日~9月26日
開館時間:10:00~18:00 金・土は20:00まで*入場は閉館の30分前まで
休館日:火曜日
観覧料:一般2,000円 大学生1,200円 高校生800円 中学生以下無料
*日時指定券が必要:購入サイトは https://www.e-tix.jp/ludwig/
公式サイト:https://ludwig.exhn.jp/

森美術館:パンデミック以降の新しい時代をいかに生きるのかを問う16名のアーティスト・約140の作品

 ”パンデミック以降の新しい時代をいかに生きるのか、心身ともに健康である「ウェルビーイング」とは何か”をテーマに、美術館ならではのリアルな空間での体験を重視し、インスタレーション、彫刻、映像、写真、絵画など、国内外のアーティスト16名による約140点の作品を紹介する。現代アートを含むさまざまな芸術表現が、かつてない切実さで心に響く今、現代アートに込められた多様な視点を通して考える。「よく生きる」ことへの考察。

 本展のタイトル「地球がまわる音を聴く」は、オノ・ヨーコのインストラクション・アートから引用している。意識を壮大な宇宙へと誘い、私たちがその営みの一部に過ぎないことを想像させ、新たな思索へと導く。パンデミック以降の世界で、生を本質的に問い直すとき、イマジンのような、こうした想像力が、未来の可能性を示してくれる。

ヴォルフガング・ライプ『ヘーゼルナッツの花粉』(2015〜2018年)。ライプは、花粉や蜜蝋、牛乳など身近なものを使って、生命のエッセンスを、シンプルかつ美しく提示してきた

青野文昭『僕の町にあったシンデンー八木山越路山神社の復元から2000~2019』(2019年)、『八木山橋』(2019年)

ツァイ・チャウエイ(蔡佳葳)『子宮とダイヤモンド』(2021年)手前、『5人の空のダンサー』(2021年)奥

■開催概要
会場:森美術館(六本木ヒルズ森タワー53階、東京都港区六本木6丁目10番1号)
会期:2022年6月29日~11月6日
開館時間:10:00~22:00(最終入館 21:30)
     ※火曜日のみ17:00まで(最終入館 16:30)
休館日:会期中無休
料金:専用オンラインサイトでチケットを購入すると( )の料金が適用される。
[平日]
一般 1,800円(1,600円)
学生(高校・大学生)1,200円(1,100円)
子供(4歳~中学生)600円(500円)
シニア(65歳以上)1,500円(1,300円)

[土・日・休日]
一般 2,000円(1,800円)
学生(高校・大学生)1,300円(1,200円)
子供(4歳~中学生)700円(600円)
シニア(65歳以上)1,700円(1,500円)
※本展は、事前予約制(日時指定券)を導入。専用オンラインサイトから「日時指定券」を購入する。
※専用オンラインサイト:https://visit.mam-tcv-macg-hills.com/
※当日、日時指定枠に空きがある場合は、事前予約なしで入館可能。
公式サイト:https://www.mori.art.museum/jp/exhibitions/earth/index.html

サントリー美術館:どうしたらそこへいけるのだろうか。歌枕

 日本人の心の風景となっている歌枕。美術とも深い関わりをもち、実景以上に歌枕の詩的なイメージで描かれてきた名所絵や、歌枕の意匠で飾られたさまざまな工芸品などに、歌枕が日本美術の内容を如何に豊かにしてきたかに気づかされる。しかし、和歌や古典が生活の中に根付いていない現代を生きる私たちにとって、歌枕はもはや共感することが難しい。この展覧会では、かつては誰もが思い浮かべることのできた日本人の心の風景、歌枕の世界を紹介し、日本美術に込められたさまざまな思いを再び共有することを試みる。

 和歌とは、自らの思いを、移り変わる自然やさまざまな物事に託し、その心を歌に表わしていた。そして、日本人は美しい風景を詠わずにはいられなかった。そうして繰り返し和歌に詠まれた土地には次第に特定のイメージが定着し、歌人の間で広く共有されていった。ついには実際の風景を知らなくとも、その土地のイメージを通して、自らの思いを表わすことができるまでになる。和歌によって特定のイメージが結びつけられた土地、それが「歌枕」。

 展示は5章からなる。

第一章:歌枕の世界
第二章:歌枕の成立
第三章:描かれた歌枕
第四章:旅と歌枕
第五章:暮らしに息づく歌枕

会場は既に歌枕の世界に

『吉野図屏風』(室町時代、16世紀)

4階から3階の展示場へ階段を降りると空間を活かした設えが

尾形光琳画、尾形乾山作『銹絵雪景富士図角皿』(江戸時代、18世紀前半)。『日本のやきもの千二百年 奈良三彩から伊万里・鍋島・仁清・乾山』(サントリー美術館、2001年)によると、見込に銹絵で、暗い空に浮かぶ雪の富士山と麓の集落を描いている、という

■開催概要
会場:サントリー美術館(東京都港区赤坂九丁目7番4号、東京ミッドタウン ガーデンサイド)
会期:2022年6月29日~8月28日
開館時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00)
    ※7月17日、8月10日は20時まで開館
    ※いずれも入館は閉館の30分前まで
    ※開館時間は変更の場合がある
休館日:火曜日
    ※8月23日は18時まで開館
入館料:一般1,500円
    大学・高校生1,000円
    ※中学生以下無料
    ※障害者手帳をお持ちの方は、本人と介護の人1名のみ無料
[チケット販売場所]
サントリー美術館受付(火曜日、展示替え期間中を除く)
サントリー美術館公式オンラインチケット
公式サイト:https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2022_3/index.html