アカザーの不自由自在

Vol.2 車いすと手動運転装置とオレ

文●文●アカザー 編集●北島幹雄/ASCII STARTUP

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この記事は、国土交通省による歩行空間データの活用を推進する「バリアフリー・ナビプロジェクト」に掲載されている記事の転載です。

 どうもアカザーです! 2000年にスノーボード中に脊髄を損傷して以来、21年以上車いすユーザーのオレです。この21年間の車いすユーザー生活で「これサイコーにいいね~!」と思ったガジェットのひとつに、自動車を手だけで運転できる“手動運転装置”があります。

脚が動かなくても、手だけで車を運転することが可能になる“手動運転装置”。

 そうなんです! 実は脚の動かない車いすユーザーでも、車を運転するコトができるんですよ!

 社会のバリアフリー化が進んでいるとはいえ、二足歩行前提でデザインされた“街”という空間は、車いすの移動にはまだまだ不便な面も多いです。でも、自動車なら条件は同じ。車いすユーザーにとっての自動車は、さまざまなバリアを飛び越えられる“長距離移動用車いす”なんですヨ。

手だけで車を運転できる“手動運転装置”との出会い

 オレと“手動運転装置”との出会いは病院のリハビリルーム。そこは主に事故や病気などで障害を負った人が、障害を持ちつつも社会復帰するためのリハビリを行なう場所。

 その病院に入院する前は、リハビリと聞くと骨折なんかをした人が、“以前と同じように体を使えるようになるためのトレーニング”的なイメージを持っていました。でも、そうではなく“障害と共生しつつ社会で生きて行くためのリハビリ”ってのがあるコトをその時に知りました。

 脊髄を損傷したオレがその病院で受けたリハビリは、“残りの人生を車いすで生きて行く”ためのリハビリ。そこで、バリアフリーな病院内での車いすの扱い方でだけではなく、車いすを自分の脚がわりに、バリア溢れる街へと出て行くのに必要なコトを多く学びました。

 今では教えてくれないような、車いすでのエスカレーターの利用法や(21年前はエレベーターがない駅なども多く重宝しました)、自力での階段の上り下り(上りは3段くらいでしか使ったコトないです)などの裏技的なものまで教わりました。そういや、車いすでの廃タイヤ引いて、“巨人の星”になる方法も教わったな~(笑)。

寝たきりで落ちた体力を取り戻し車いすを漕ぐために、廃タイヤをつけてのリハビリトレーニング。

 そんな社会復帰メニューのひとつに、手だけで車を運転する“手動運転装置付き車”の教習がありました。

 怪我をする前から自動車の運転免許は持っていたので、正確にはこの免許を“手動運転装置付きの車に限る”ものに書き換えるための訓練です。目が悪い人の免許証に追記されている“眼鏡等”と同じような感じです。免許センターでの免許更新時に「免許の条件等」の欄にその一文が書き加えられれば、晴れて手動運転装置付き車の車を路上で運転できるようになります。

 しかし、20年前は手動運転装置を付けた車で教習をしてくれる場所は皆無といっていいほど。車いすの先輩たちは、人のいない深夜の駐車場や河川敷などで練習したと聞きました。オレが入院したリハビリ施設にあったのはラッキーでした。でも、最近は取り外しが自由な携帯型手動運転装置「ニコドライブ」などを常備した教習所も増えてきたようで、手動運転装置はさらに身近なものになってきています。

ニコドライブ
4つの蝶ネジで取り外しが可能な携帯型手動運転装置「ニコドライブ」。慣れれば5~10分で脱着が可能。最近では常備してある教習所もある。

手動運転装置ってどうやって使うの?

 手動運転装置と聞くと、何やら複雑怪奇な響きですが、操作や仕組みは超が付くほど単純なもの。

 オレの愛車「レガシィ2.0R specB」に取り付けている手動運転装置は「APドライブ オーエックスバージョン」(現在は廃盤)です。コイツの基本的な操作は、運転席の左側に取り付けたレバーを押すとブレーキ、引くとアクセルというもの。レバーの先端にはいろいろとスイッチが付いており、レバーを操作しながら、片手でホーンやウインカーの操作まで可能です。

 ちなみにオレの「APドライブ オーエックスバージョン」にはシフトアップ&ダウンのスイッチも付いており、パドルシフトが付いている車ならこのボタンでシフト操作することもできます。

(イラスト:水口幸広)
ハンドルとATシフトレバーの間にあるのが手動運転装置のレバー。これを引くとアクセル、押すとブレーキがかかる仕組み。

 アクセルとブレーキを左手で操作するために、基本的にハンドル操作は右手1本での操作になります。なので、ハンドルを持ちかえるような操作はかなり苦手。車庫入れ時の切り返しや、Uターン時などは、ハンドルに取り付けた旋回ノブ(トラックやフォークリストのハンドルについているようなノブ)を握ってステアリングを回します。とはいえ、手動運転装置ならではの特長的な操作はほぼこれだけ。

 仕組みはもっと単純で、手動運転装置から伸びたリンケージやケーブルが、物理的にアクセルやブレーキを踏んでいるような構造。なので、運転中に足元を見るとアクセルやブレーキが動いているのが見えます。さらに、切り替えスイッチひとつで普通の車と同様に、脚で操作するコトも可能に! オレは出先で疲れた時や一杯ひっかけたいときには、家族や友人に運転を変わってもらったりもします。そういう意味でも手動運転装置はバリアフリーなアイテムなんですよね。

 手動運転装置が最初から装着されたメーカーコンプリート車もありますが、その多くはフツーの車に後付けする感じ。基本的には車を購入したディーラー、もしくは手動運転装置メーカーに車両を持ち込んで取り付けてもらいます。気になる価格は10~15万円ほどです(※補助金適用後の自己負担額)。

フロア固定タイプの手動運転装置は、対応車種にあったアダプターなどを使い、職人さんが半日ほどで取り付けてくれる。

仕事の相棒としても心強い手動運転装置

 担当編集者として同行する、体験レポート漫画「カオスだもんね!」の取材では、手動運転装置を取り付けた愛車は“ケンちゃんカー”として、漫画内にも登場しまくり。毎週いろいろな場所に取材に行っていました。車いすになって20年近く、健常者に引けをとらずに頑張ってこられた(気がする)のは、この手動運転装置つきのケンちゃんカーがあったことも大きいです。

https://weekly.ascii.jp/elem/000/002/612/2612411/
2代目ケンちゃんカーことスバルフォレスターでも、いろんな場所に行ったな~。(イラスト:水口幸広)

 公共の交通機関だけでの移動だと、かかる手間や時間という目に見えないバリアの前に心が折れて、20年も通勤や取材活動を続けられていない気がします。急いでいるときに限って地下鉄のエレベーターがメンテナンス中!とか超あるあるなんですよ~。

 あと、雨の日に車いすでタクシーに乗ろうとすると、めっちゃスルーされるのもよくある話(でも東京オリパラ以降は減った気がします)。雨のなか空車表示のタクシーに5台連続でスルーされたときにはさすがに乾いた笑いが出ました(笑)。ていうかタクシー乗り場で乗れよ>オレ。

 でも、数年前から配車アプリを使い出してからは超快適になりました。そんな公共の交通機関での体験談はまたの機会に!

アカザー(赤澤賢一郎)

週刊アスキーの編集者を経て、現在は車いすのフリー編集者・ライターをやっています。2000年にスノーボード中の事故で脊髄を損傷(Th12-L1)。車椅子ユーザーになって21年です。2018年に札医大で再生医療の治験を受け、2020年に20年ぶりに歩行!!!

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