Quark誕生秘話
試作品をなんとなく製品化したものだった
そもそもなぜQuarkが生まれたかと言う話だが、どうも「たまたま作ったものがそのまま製品にさせられてしまった」らしい。当時インテルはIoTの市場で出遅れていた。IoTといってもエンドノードからクラウドまで構成要素は多々あるが、インテルはクラウドやエッジにはなにかしら顧客の要求に応える製品を出せるにしても、エンドポイントに対しての製品がまるっきりなかった。
そんなときに、たまたまアリゾナで、P54コアを使っていろんなものを作ってみていた中の1つにQuarkがあったらしい。というか、実はQuarkそのものは、2010~2012年ごろに、Douglas L. Davis氏(2019年までIoT Solution Groupと、2017年からはAutomotive Groupの両方のトップを務めていた)が、当時の上司だったKrzanich氏と一緒に作ったものだったらしい。
もちろんこれは目的があって作ったというよりは、P54コアでなにかできないかいろいろ試してみたうちの1つということらしい。ただ当時組み込み部門を率いていたTon Steenman氏には評価されず(冷静に考えれば正しい)、ところがKrzanich氏がCEOになってDavis氏が組み込み部門を統括することになったことで「とりあえず他にないし、いいやこれ出しちゃえ」みたいなノリで投入されたらしい。
案の定ブチあげた物の、誰にも使ってもらえない状況が続いた。いや、これを使えと言われてもそりゃ困るよな、という代物である。冒頭に紹介したEdisonも、2013年のIDFの段階では、500MHz駆動のQuarkをベースに構築されていた。ただ性能が低いということになり、その後Atomベースに切り替わったという経緯がある。
一応2014年8月には、もう少しI/O周りの速度を改良したGalileo Gen2ボードが発表になったが、根本的な問題は全然解決せず、しかも大型化したとあっては「誰が使うんだ?」状態はまったく変わらなかった。
改良を加えたQuark SEを投入
本腰を入れてIoTビジネスに参入かと思いきや……
以上のようにQuarkは見事にコケたわけだが、だからといってインテルはIoT向けに製品を出せませんとは言えない。そこでQuarkをベースにもう少しなんとかしたのがQuark SEである。このQuark SEは、P54Cに加えて32MHz駆動のSynopsys ARC v2 DSPコアを内蔵しており、ArduinoではこのARCコアを利用してSketchを処理するようになった。
加えてADCやコンパレーター、PWMやタイマーなどMCUで一般的に利用される周辺回路を搭載したことで、だいぶ使い勝手も良くなり、性能も向上した。ただこうなるとP54Cコアを搭載した理由がもうさっぱりわからない。ARCコアだけでいいのでは? という気がしなくもないのだが、P54Cを抜いたらそれはインテルのCPUでなくなってしまうのが嫌だったのかもしれない。
Quark SEは2015年1月に開催されたCESにおける基調講演でCurieというモジュールとしてまず発表され、ついでArduino LLCと共同でArduino 101/Genuino 101というArduino Uno互換ボードが2015年10月に発表された。
Arduino 101/Genuino 101はかなり使い勝手の良いボードであり、やっとインテルは本腰を入れてIoTのビジネスに参入したのだな、と喜んだのもつかの間。2017年7月にインテルは突如Curieの生産終了を発表。これによりArduino 101/Genuino 101も生産終了となってしまった。
これに先立ち、2017年6月にはGalileo/Galileo 2やEdison、さらには2016年に投入されたEdisonの後継であるJouleまで生産終了になっている。
プロセッサーそのもので言えば、QuarlやQuark SEは2019年7月で受注停止、2022年7月に出荷終了であるが、生産そのものは2019年1月に完了した格好だ。この直後にインテルはIoTグループのエンジニアを大量リストラしたと報じられている。
この当時のインテルはKrzanich氏が会社をあらぬ方向に突進させていた最中であり、コストをかけてQuark SEを作ったものの売上の伸びは芳しくなく、「もうヤメ」で一気に方向転換したのだろうが、これに付き合わされた同社の組み込み向けパートナー企業はたまったものじゃない。
これ以降、インテルはIoTの中でも、特にエンドノードに対応した製品は一切提供できていないが、仮にまたなにか作ったとしてもパートナー企業がそっぽを向くだろう。
上層部の定見のなさと言うか、とりあえずあるもの出しましたという舐め切った商品設計が、Quarkを黒歴史入りさせた最大の要因だと筆者は考える。

この連載の記事
-
第852回
PC
Google最新TPU「Ironwood」は前世代比4.7倍の性能向上かつ160Wの低消費電力で圧倒的省エネを実現 -
第851回
PC
Instinct MI400/MI500登場でAI/HPC向けGPUはどう変わる? CoWoS-L採用の詳細も判明 AMD GPUロードマップ -
第850回
デジタル
Zen 6+Zen 6c、そしてZen 7へ! EPYCは256コアへ向かう AMD CPUロードマップ -
第849回
PC
d-MatrixのAIプロセッサーCorsairはNVIDIA GB200に匹敵する性能を600Wの消費電力で実現 -
第848回
PC
消えたTofinoの残響 Intel IPU E2200がつなぐイーサネットの未来 -
第847回
PC
国産プロセッサーのPEZY-SC4sが消費電力わずか212Wで高効率99.2%を記録! 次世代省電力チップの決定版に王手 -
第846回
PC
Eコア288基の次世代Xeon「Clearwater Forest」に見る効率設計の極意 インテル CPUロードマップ -
第845回
PC
最大256MB共有キャッシュ対応で大規模処理も快適! Cuzcoが実現する高性能・拡張自在なRISC-Vプロセッサーの秘密 -
第844回
PC
耐量子暗号対応でセキュリティ強化! IBMのPower11が叶えた高信頼性と高速AI推論 -
第843回
PC
NVIDIAとインテルの協業発表によりGB10のCPUをx86に置き換えた新世代AIチップが登場する? -
第842回
PC
双方向8Tbps伝送の次世代光インターコネクト! AyarLabsのTeraPHYがもたらす革新的光通信の詳細 - この連載の一覧へ














