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中国電力、広島で世界初の完全自立型EVシェアサービスの実証実験開始

2022年05月09日 12時00分更新

文● 近藤克己  編集●ASCII

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 中国電力は、太陽光発電と蓄電池、電気自動車を組み合わせたカーシェアサービス「完全自立型EVシェアリングステーション」の実証実験を4月4日から広島県でスタートした。また同時に、月々の電気使用料だけで太陽光パネルを搭載した駐車場用屋根を貸し出す「ソーラーカーポートPPAサービス」の商用化もスタートした。

中国電力が実証実験をスタートした「完全自立型EVシェアリングステーション」

系統接続されておらず、太陽光だけで動く

 完全自立型EV(電気自動車)シェアリングステーションは、広島県立広島産業会館(広島市南区)の駐車場の一角を広島県から提供を受けてスタート。機器構成は、屋根に11.88kWの太陽光パネルを搭載したカーポートに、容量合計38kWhの蓄電池(定置用蓄電池10kWh×3基、可搬型蓄電池8kWh×1基)、日産リーフとマツダMX-30 EV MODELの電気自動車2台、および非常用コンセント8口となっている。

完全自立型EVシェアリングステーションの機器構成と実証内容

 同ステーションは名前の通り、一般的な電源は接続されておらず、電力は全て太陽光発電によって賄われる。電気自動車などの制御システムを手掛けるベンチャー企業のAZAPAが開発したオフグリッド型蓄電・制御システムにより、太陽光発電状況やEV待機状況に応じてEVへの充電、蓄電池への充放電を制御する。

電線からの供給はなく、すべて太陽光発電で賄う。そのため、新たに開発したオフグリッド型蓄電・制御システムで発電・蓄電・放電を制御する

EVを接続すれば自動的に給電を制御

 中国電力では昨年10月から広島市中区にEVステーションを開設し、電気自動車のシェアリングサービス「eeV(イーブイ)」をスタートしている。法人・個人客に分単位・時間単位で電気自動車を貸し出しているものだが、同シェアリングサービスを今回の完全自立型EVシェアリングステーションにも導入、平日は近隣の法人、休日は個人客に電気自動車を貸し出す。利用料金は、15分220円から、6時間まで4400円から、12時間まで7150円から。

 また、同カーポートには可搬型蓄電池システムが搭載され、1kWhのバッテリーモジュールを8個内蔵。将来的には、太陽光発電によって充電したバッテリーを電動アシスト自転車や電動シニアカー、電動キックスケーター、軽トラックEVなど搭載し、さまざまな移動手段の脱炭素化を目指していく考え。

EVだけでなく、可搬型バッテリーモジュールでさまざまなモビリティに対応していく

カーポートの横に可搬型バッテリーモジュール1kWhを8個搭載

可搬型バッテリーモジュールは対応する電動アシスト自転車や電動キックボードに利用できる

可搬型バッテリーモジュールを複数使えば、電動軽トラックも運用できる

 可搬型蓄電池はスマホなどへの充電はできないが、非常時にはカーポート自体に装備した非常用コンセントを利用できるようにした。太陽光発電で1日あたり平均33kWhの電気が供給できるので、スマートフォンならば4400台、ノートPCならば350台、扇風機ならば300台、電気ポットならば9台が利用可能となる。

非常時にはカーポート非常用電源からスマホなどに給電できる

カーポート横に設置した定置用蓄電池(下の3基)

 同実証実験は、環境省が提唱する“ゼロカーボン・ドライブ”の実現に向けた取り組みでもある。脱酸素社会実現のためには、重点分野である運輸部門においてEV化の促進が欠かせない。しかし、EVは高額であり、充電施設設置の手間とコストも大きい。そもそも、電気自動車を動かすための電力を化石燃料を燃やして発電するのは本末転倒と言える。

 そこで、中国電力では導入コストの課題と使用電力の脱炭素化を同時達成するモデルとして、世界初の完全自立型EVシェアステーションを立ち上げ、商用化が可能か、どのような形で商用化すべきかを実証実験を通じて探っていく考えだ。なお、実証期間は5年程度としているが、中国電力では商用化の目処が立ち次第、商用サービスに切り替えていくとしている。

月々の発電使用量のみでソーラーカーポートが手に入る

 一方、同時にスタートしたソーラーカーポートPPAサービスは、太陽光発電システムを搭載したカーポートを中国電力が設置、発電した電気はカーポートから事務所や店舗に引き込み、通常の電気として使用、ユーザーはその使用料金を支払う仕組み。ソーラーカーポートは中国電力が設置し、ユーザーは初期投資の費用負担は基本的に発生しない。

 ソーラーカーポートは車両4台モデルと2台モデルを用意し、4台モデルの太陽光パネルは11.88kW、パワーコンディショナー8.80kW、非常用コンセント2口×2個、2台モデルは太陽光パネル5.94kW、パワーコンディショナー4.40kW、非常用コンセント2口×1個。蓄電池は搭載しない。契約期間は15年間で、契約満了後はソーラーカーポートはユーザーに無償譲渡される。なお、同サービスを諒できるのは法人のみとなる。

ソーラーカーポートPPAは蓄電池は含まれず、太陽光で発電した電気はEVおよび母屋で使用する

 なお、ソーラーカーポートPPAサービスは、ユーザーに月々の発電使用量を請求するため、太陽光発電量の監視が必要となるが、パナソニック エレクトリックワークス社がその業務を担当している。遠隔で発電量を監視し、晴天なのに発電量が極端に落ちるなどのトラブル時には直ちにスタッフを派遣してチェック・修繕できる体制を構築している。

施工がしやすいソーラー専用のカーポートを開発

 また、両事業のスタートに際し、パナソニック エレクトリックワークス社は、太陽光発電パネル搭載に適したカーポートを新たに開発した。一般的な野立ての太陽光発電所の場合、太陽光パネルは架台に上からビス留めするが、その場合、足場を組み立てる必要がある。労働安全衛生規則において、高さが2m以上で作業する場合は足場の設置が義務付けられているからだ。しかし、足場を使うとその分のコストと設置・解体に時間がかかる。そこでパナソニックでは、屋根の裏からパネルをビス留めする裏留め工法を開発した。

太陽光パネルをカーポートの下から留める工法を開発。安全性と施工性が格段にアップした

 さらに、野立て太陽光発電の場合、雨水はそのまま隙間から垂れ流しになるが、カーポートならば屋根としての役割が求められる。そこで、屋根の役目を果たす背面カバーと雨水の排水機能をレールに一体化する機構も開発。これにより、車を雨や雪から守るというカーポート本来の機能を持てただけでなく、施工の迅速化も図れる。こうした太陽光パネル専用のカーポートの開発は、今後のソーラーカーポート普及には欠かせないだろう。

屋根の防水カバーと排水機能を一体化したレールも開発

2050カーボンニュートラル社会の実現に向けた取り組み

 政府が掲げる2050年カーボンニュートラル社会の実現には、太陽光発電の普及・拡大は欠かせない。しかし、大規模なメガソーラーは、環境破壊や建設コストの面から普及は難しいと言われている。そこで注目されているのが個人宅や店舗、ビルの屋根スペースを使った第三者所有モデル、PPAだ。既に、沖縄電力など各地で個人宅や店舗の屋根・屋上を間借りするPPAサービスがスタートしているが、今回、広島で事業スタートしたソーラーカーポートは、住宅の屋根に加えて、カーポートの屋根を間借りするという新たなビジネスモデルを作り出した。

 一方で、EVの普及という観点からも、今回のソーラーカーポートビジネスは注目されている。EVは価格の高さもさることながら、航続距離と充電にかかる時間の問題で長距離の運用には向かないことも普及を阻む課題の1つになっている。しかし、通勤や配達業務、エリア営業、農作業といった日常的な狭い範囲ならばEVでも運用は可能だ。こうした短距離運用の自動車をEVへと置き換えていく時、その電力を蓄電池搭載の完全自立型ソーラーカーポートから供給すれば、真の“ゼロカーボン・ドライブ”が実現することになる。

 さらに、蓄電池とEVを合わせた大容量バッテリーは災害時の非常用電源としても大いに活用できるなど、今回の広島の実証実験は多くの可能性を秘めており、多方面から注目されている。

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