ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第665回
Windowsの顔認証などで利用されているインテルの推論向けコプロセッサー「GNA」 AIプロセッサーの昨今
2022年05月02日 12時00分更新
Ice Lake以降のクライアント向け
プラットフォームにGNAを搭載
さて、ICASSP 2017時点でのGNAはまだプロトタイプというか研究開発の産物であって、量産製品に組み込む品質ではなかったと思うのだが、2019年にこれがGNAとしてIce Lakeに組み込まれることになった。
この時点ではGNA対応アプリケーションなどは皆無だったが、この手の話は卵が先か鶏が先かで、まずプラットフォームを用意しないと誰もアプリケーションを作ってくれない。かくしてインテルはIce Lake以降のクライアント向けプラットフォームにGNAを搭載する。
この時点でGNAの位置づけは、オーディオ・ビジュアルに向けたニューラルネットワーク処理の一番端を担うポジションになった。
Ice Lakeに搭載されたものがGNA 1.0で、ついでTiger LakeのGNA 2.0、Alder Lakeの3.0と来て、最新のものはClover Fallsに搭載されるGNA 3.1となる。
Clover Fallsという名前は2021年のCESで発表になったものだが、ジサトライッペイ氏のレポートから省かれているので説明しておこう。
これはノートPCと組み合わせる、新しいセンサー処理プラットフォーム(正式名称はVCS:Intel Visual Sensing Controller)である。デモの動画が公開されているのでこれを見てもらう方が早い気もするが、待機状態のノートPCの前に利用者が移動すると、ノートPCがそれを認識してWindows Helloを起動、認識されると直ちにロックを解除して稼働状態に持ち込む。
また利用者がノートPCの前から離れると、即座にロックして省電力モードに入る。これにより、省電力化とセキュリティー対策が容易になるわけだ。
ここでClover Fallsがなにをしているかというと、「カメラの前に人が移動した」ことを検知する処理している。ご存じの通りWindows Helloでは顔認証でロックを解除できるが、これを常時利用しているということはカメラだけでなく顔認識のロジックがずっと動き続けることになる。これは省電力に効果的とは言えない。
そこでWindows Helloを呼び出す前段階としてカメラとGNAを接続、このGNAで「カメラの前に人が移動してきたかどうか」だけを検出するという処理が行なわれる。
この際にCPUは休止しており、Windows Helloも稼働していない。必要となるのはカメラとGNAだけ(そのカメラも、可能なら解像度を落として省電力で動作する)であり、ここでGNAは個人識別ではなくあくまで「人がカメラの前に居るかどうか」だけを判断する。これだと消費電力はmWの程度に抑えられるからだ。
そして、人が移動してきたと判断したらClover FallsはWindowsを待機状態から稼働状態にするべく通知、稼働状態になったWindowsはWindows Helloを起動し、ここで初めて個人識別が行なわれることになる。
Windows HelloそのものをGNAが処理するのは負荷が高すぎるし必要もない。まずは人が居るかどうか、というレベルで認識できれば十分というわけだ。このClover FallsというかIntel Visual Sensing Controllerは、Intel Evoのハードウェア要件にオプションとして定義されている。
ちなみにこれは映像の例だが、スマートスピーカーなどでも役に立つ。スマートスピーカーでは常時マイクを稼働させているのは当然だが、そこで入ってきた音声を片っ端から分析していたら、どうやっても処理負荷が上がることは免れない。
そこで、まずGNAを使って入ってきた音を分析し、人間の音声かどうかを判断。人間の音声と判断されたときだけ、その音声データを後段に渡すようにすれば、無駄に消費電力を増やすことなく音声操作が可能になる。
このような具合に、音声や映像の一番入り口での認識をするためのプロセッサーとして開発されたのがGNAだ。実際製品のターゲットは、処理性能よりも低消費電力に焦点を置いたものになっている。
ちなみにGNAはIPの形で提供されている。このため、CPUに組み込む形と単体のアクセラレーター的に使う形の両方が可能であるとされている。
おそらくGNA 1.0~3.0は左側の構図で、VCSに実装されているものは右側の構図になっているものと考えられる。
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