ロシアのウクライナ侵攻から2ヵ月が経とうとしている。ハイテク企業ではマイクロソフトやアップルなどがロシアでの事業を停止しており、通信業界も同様の動きが見られる。しかし、インフラだけに事情は少し複雑だ。今回は、ウクライナ情勢を受けての通信機器や端末メーカーの動きを見てみたい。
エリクソンとNokiaが続けてロシア市場から撤退
通信機器大手のエリクソンは4月11日、ウクライナ侵攻とそれにともなう欧州の制裁を受けて、ロシアの顧客への事業を無期限で停止すると発表した。マイクロソフトなどの米ハイテク企業は3月初めに対応を発表していたことから、遅れた印象は拭えない。エリクソンは2月末にはすでに、ロシアの顧客に対する、すべてのデリバリーを停止していたと付け加えている。
その翌日、Nokiaが同じような内容の発表をした。Nokiaも「すでに数週間前に、ロシアでの新規販売を停止しており、研究開発活動を制限している」としながら、今回は「ロシア市場から撤退する」と記している。
Nokiaは同時に、「人道的な理由から、西側諸国の政府はロシアにおける重要な通信ネットワークインフラに支障がでるリスクを懸念している。インターネットはロシアに住む人々にロシア外の視点を提供する役割があり、そのインターネットへのアクセスと継続的な情報の流れがあることを確実にすることが重要であることも強調している」とも記す。ロシア市場から撤退はするものの、ネットワークを維持するのに必要なサポートを提供するために、制裁に準拠するためのライセンスを申請しているという。
ファーウェイは現時点では、ロシアにおける事業についてリリースを出していない。3月末の決算発表時、輪番会長のGuo Ping(郭平)氏は、ロシアについて「政策と対策を慎重に検討中」と語るにとどめていた。だが、Forbes Russiaがファーウェイがロシア支社の社員を1ヵ月帰休させること、ロシアでの販売を停止したことを自社取材として報じている(https://www.forbes.ru/tekhnologii/461929-huawei-otpravil-cast-sotrudnikov-rossijskogo-ofisa-v-otpusk-na-mesac)。
フィンランド企業であるNokiaにとってのロシアとの関係
ロシアの通信機器市場(RAN)は、エリクソン、Nokia、ファーウェイでほぼ占められている。ファーウェイが33%以上で、残りをエリクソンとNokiaが残りを分けているようだ(Forbes Russia報道)。固定通信網では、中国勢が占めており、Nokiaが唯一西側のサプライヤーとなっている。
そのNokiaについて、ロシア政府の監視システムに接続する部分で同社製品が使われており、Nokia側もそれを認識しているというスクープがNew York Timesに出た(https://www.nytimes.com/2022/03/28/technology/nokia-russia-surveillance-system-sorm.html)。ロシア政府は「SORM(System for Operative Investigative Activities)」という通信傍受システムを構築し、通話や電子メール、SMSなどの傍受、ウェブサイトの閲覧履歴などの情報を取得できるようになっているという。Nokiaは、このSORMに接続するための機器をロシア最大のISPであるMTSに提供しているという内容だ。
New York Timesは入手したNokia社内の書類とともに報じている。Nokiaはこの報道を否定しており、SORMの機器やシステムの製造、設置などには関与していないとしている。Nokiaによると、売上に占めるロシアの比率は2%以下とのことだ。
ご存じのようにNokiaはフィンランドに本社を置く企業だ。世界地図でのフィンランドの位置を思い出してほしい。隣は「北欧」としてひとくくりにされることが多いスウェーデン(ライバルEricssonの本拠地)だが、反対側のお隣はロシア。ロシア第2の都市・サンクトペテルブルグまでわずか300km、ストックホルムより近い。
スウェーデンもロシアもともに「大国」であり、フィンランドはその歴史において両国からの支配を受けている(それゆえ、サッカーなど国代表のスポーツの試合で、フィンランド対スウェーデンは大いに盛り上がる)。1917年に独立する直前までは、ロシア領だった。ちなみに、Nokiaの創業は1865年、今のフィンランド共和国よりも長い歴史を持つ。
今回のNokiaについての報道の真偽はわからないが、歴史上、フィンランドの人と企業にとってロシアとうまく付き合うことは生き残る術だったのも確かだろう。

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