グーグル・クラウド・ジャパン平手氏、「データとAIの民主化によるDX加速」などの注力点を挙げる
Google Cloud、2022年度は「トランスフォーメーションクラウド」深化へ
グーグル・クラウド・ジャパンは2022年4月6日、国内における2022年度の事業戦略について説明した。代表の平手智行氏は「企業のデジタルトランスフォーメーションを加速するための支援を全力で行う」と述べ、注力するポイントとして「データとAIの民主化でDX加速を支援し、SDGs推進を加速」「パートナー企業との協力拡大」「デベロッパー、スタートアップ支援を継続」の3点を挙げた。
2021年のグローバル業績は前年比47%増、国内実績も多数披露
昨年(2021年)のGoogle Cloudは、全世界の業績が前年比47%増の190億ドル以上となり、第4四半期も前年同期比45%増の55億ドルと高い成長を達成した。案件総数が80%以上成長したほか、1顧客あたり平均11製品以上を使用(2021年第4四半期時点)、さらに顧客の92%は「今後1年間でGoogle Cloudに対する支出を増やす」と回答しているという。
Google Cloudは現在、全世界に29リージョンを展開しており、今後さらに12リージョンを追加することが発表されている。各リージョンにはゾーンが展開されており、強固な可用性とセキュリティを実現している。これらのリージョンは19本の海底ケーブルを使って結ばれている。
日本においては、東京リージョンと大阪リージョンにそれぞれ3つのゾーンが配置されており、4本の海底ケーブルがつながっている。2023年には、5本目の海底ケーブル「Topaz」が日本(茨城県、三重県)とカナダ(バンクーバー)も新たに結ぶことも発表された。
2019年以降、Google Cloudの組織は全世界で3倍以上に拡大したほか、2018年以降で500万人以上の開発者トレーニングを実施している。
2021年には、総計で2000以上の新製品と新機能が発表されたという。その内容は多岐にわたる。
たとえば「Big Queryコネクタ」は、SAPユーザーの半数以上が抱える「データ統合が困難」という課題を解決するための機能。ほかにも、AWSやAzureなど他社クラウド上でも使い慣れたBig Queryを利用できる「Big Query Omni」、サーバーレスの変更データキャプチャ(CDC)/レプリケーションのサービスである「Datastream」を、東京リージョンと大阪リージョンで利用可能にした。
また「Distributed Cloud」は、Google Cloudの技術をユーザーのデータセンターやエッジに直接設置して、複雑化するIT環境においても変革の足かせにならない環境を実現できる。コンピュートエンジンでは「NVIDIA Ampere A100」GPUを搭載したインスタンス「A2 VM」の一般提供を開始した。さらに「Google Workspace」の新機能として「Smart Canvas」を発表したほか、新たなセキュリティサービスである「Work Safer」を発表。安全なコラボレーション環境を実現しているという。
平手氏は「日本においても幅広い業界でGoogle Cloudが活用されており、とくにマルチクラウドを検討する企業からの引き合いが多い」と語る。
コカ・コーラボトラーズジャパンでは、Big Queryを中心に据えて「Vertex AI」や「Auto ML」を利用する分析プラットフォームを構築。約70万台の自動販売機から収集したデータを分析して、管理業務の効率化を図った。「どの商品を、どこの自販機に置き、どのくらい並べれば、どれだけ売れるのか」といった予測モデルを作り、地図上にマッピングして分析できるようになったという。
NTTドコモでは、無料情報サービスアプリ「マイマガジン」を2021年11月にリニューアル。開発、運用プラットフォームにGoogle Cloudを採用することで、開発期間の短縮のほか、施策サイクルの高速化、パーソナライズ機能の強化など、メディアとしての基本的な価値向上を実現しているという。
同社 上級執行役員 パートナー事業本部の石積尚幸氏は、そのほかの国内顧客事例も紹介した。たとえば昨年は、みんなの銀行が基幹システムにGoogle Cloudを採用したことを発表している。
「(みんなの銀行の事例では)Spannerのマルチリージョン機能を活用することで99.999%の可用性を実現し、『銀行の勘定系業務を実現するのはこの仕組みしかない』という評価を得ている。現在まで安定した運用が行われ、日本のパートナー各社に対してもいい意味での影響を与えており、『GoogleであればSoEだけでなく、SoRの領域でも案件化できる』という話も増えた。今後、基幹システムでもGoogle Cloudの採用が増えると考えている」(石積氏)
なお、パートナーからの案件創出は前年比70%以上の成長を実現したという。Google Cloudを専業とするパートナーも相次いで設立されており、AWSやAzureの認定技術者がGoogle Cloudの認定資格も取得するケースが増えて、認定技術者数は前年比60%以上増加した。ISV(ソフトウェアベンダー)がGoogle Cloud上でアプリケーションを稼働させる動きも加速しているという。「日本においては、引き続き“パートナーファースト”でビジネスを展開していく」(石積氏)。
パートナー、スタートアップ、コミュニティの新支援策を発表
今回、2022年度の新たな取り組みがいくつか発表された。
まずパートナー向け施策においては、SIパートナー向け、ISVパートナー向け、リセールパートナー向けにそれぞれプログラムを強化する。SIパートナー向けには教育支援、PoC支援、検証作業支援のほか、業界特化型SIソリューションの強化を推進する。ISVパートナー向けには、Google Cloudへのアプリケーション移行支援、マーケットプレイスへの登録促進に加えて、海外のISVソリューションの日本への展開強化を進める。リセールパートナー向けには、インセンティブプログラムの拡充、マーケットプレイスに関するリセラー向けの新たなプログラムを開始するとしている。
スタートアップ企業に対する支援策では、「Google for Startups」クラウドプログラムにより、1年目には最大10万ドルのGoogle Cloud利用料支払い免除、2年目には利用料の最大20%までをクレジット付与し、最大2年間で20万ドルぶんの支援を行うことを発表した。
コミュニティ支援策としてはまず、2020年12月に発足した「ジャガー」を紹介した。これはエンタープライズユーザーとパートナーが参加するコミュニティであり、2022年3月末時点で229社/937人が参加している。「データ利活用」から「人材育成」まで幅広いテーマで15の分科会が設置されており、今後もGoogle Cloudに関する知識や経験を共有する活動を積極化させるとした。
これに加えて、デベロッパーやエンジニア向けの新たなプログラムとして「Google Cloud Innovators」と呼ぶメンバーシッププログラムの開始も発表した。700以上のハンズオンラボや学習コースを用意した「Cloud Skills Boost」、KPIに則したシステム構築を短期間で実現するための特別プログラム「Tech Acceleration Program」も提供する。
「トランスフォーメーションクラウド」としての価値を強調
平手氏は、Google Cloudが「トランスフォーメーションクラウド」として、どのような価値を顧客に提供するのかを説明した。昨年から提唱しているトランスフォーメーションクラウドとは、顧客企業や顧客ビジネスの「データドリブンな変革」をうながすためのクラウドと位置づけられており、単に仮想マシンやITインフラだけを提供してきた従来のクラウドとは一線を画する。
「いまの時代は、既存能力を可視化し、セキュリティとプライバシーを徹底的に担保しながら、データドリブンなイノベーションに取り組み、業務の正確性、利用者の利便性、顧客体験の高度化を行えるクラウドが必要になった。Google Cloudでは、これをトランスフォーメーションクラウドと呼んでいる」(平手氏)
具体的には、事業活動に関するデータの可視化やAIによる高度な分析/予測を可能にする「データクラウド」、オープンなアーキテクチャでハイブリッド環境におけるアプリケーション利用を促進する「オープンインフラストラクチャークラウド」、組織内だけでなくサプライチェーン全体を結びつけて生産性/創造性を向上させる「コラボレーションクラウド」、システム、ユーザー、データの保護と安全性を確保するためにセキュリティと信頼性を確保する「トラストクラウド」の4領域で構成される。
平手氏は、オープンインフラストラクチャークラウド領域で提供する「Tau VM」について触れた。これはスケールアウト型のワークロードに最適化されたコンピュートエンジン仮想マシンであり、「ネットワークスループットは3倍、価格パフォーマンスが40%向上するといったメリットを提供する」(平手氏)という。またトラストクラウド領域では、セキュリティ対策に5年間で1兆円の投資を行っていること、日本でISMAPやFISC、NISCなどの認証を取得していること、MandiantやSiemplifyを買収したことなどを紹介した。
また、APIを活用してGoogleの各種サービス群を連携させる“Total Googleアプローチ”により、イノベーションを深化することもできると紹介した。たとえば「Google Lens」のAPIにより、画像商品検索からeコマースや物理店舗へと誘導してレコメンデーションの制度を高めたり、「Google Map」の到着予想時刻をもとに、API連携で配送最適化を実現して物流計画を高度化するといったことが可能になると語る。「YouTube」とeコマース、ゲームなどの融合で、現在注目を集めているメタバースの取り組みにも踏み出すことができ、「BtoBの変革支援だけでなく、BtoBtoCによる価値提案も進めていくことになる」(平手氏)としている。