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2022年の国内ビジネス戦略を説明、中小企業DX支援や製造業/OTビジネスをさらに強化

TeamViewerは情報共有ツールとして業務アプリに溶け込んでいく

2022年03月28日 07時00分更新

文● 指田昌夫 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 TeamViewerジャパンは2022年3月17日、2022年のビジネス戦略説明会を開催した。DXの取り組みが遅れる中小企業への支援、大企業へのプロフェッショナルサービスの提供、好調なOT(オペレーショナルテクノロジー)分野のビジネスをさらに強化する製造業へのフォーカスといったポイントを挙げている。

TeamViewerの製品ポートフォリオ。ITだけでなくOT分野のリモートアクセスもカバーしている点が特徴

TeamViewer APAC地域統括プレジデントのソジョン・リー(Soiung Lee)氏、TeamViewerジャパン カントリー・マネージャーの西尾則子氏、同社 ビジネス開発部 部長の小宮崇博氏

日本市場はAPACビジネスの3分の1を占める

 冒頭、同社 APAC地域統括プレジデントのソジョン・リー氏がビデオメッセージで登壇した。リー氏はまず「TeamViewerは、リモート接続管理とワークプレイスのデジタル化ソリューションを提供するエンタープライズカンパニーだということを覚えてほしい」と語った。

 同社が提供するリモート接続管理ソリューションは、PCやスマートフォンだけでなく、ロボティクス、医療機器など、あらゆるマシンをリモートでアクセス制御し、管理する接続プラットフォームである。これにより「国境を越えた専門知識の活用を可能にする」とリー氏は説明する。とくに自動車、石油・ガス、製造、ヘルスケア、物流などの産業で、同社のARソリューションの採用が進んでいるという。

 この2年間で、同社の製品ポートフォリオは大きく進化したとリー氏は語る。リモートサポートツールだけでなくワークフローの最適化など、あらゆる規模、業種のビジネスで、バリューチェーン全体のプロセスをデジタル化できるようになった。

 同社のAPAC地域への展開は、2011年の豪州アデレードの開設からはじまった。その後、2018年に日本、中国、インド、そしてシンガポールに相次いで営業拠点を開設。「APACではAR、AI、IoTなどの先進技術の導入が加速しており、TeamViewer製品はスマートファクトリーとインダストリー4.0を推し進める各国政府の意向にも沿うもので、大きな市場拡大が期待されている」(リー氏)

APAC地域における展開と2021年の事業総括

 APAC地域の市場成長に伴い、同社はシンガポールを中核拠点に設定した。「2021年までのAPACでの営業活動は、Webやインサイドセールスなどが中心だったが、2桁成長を続けてきた。これは、この市場の潜在能力の高さを示唆するものだ。2022年からは、パートナーエコシステムを強化してさらに成長を狙う」(リー氏)

 APACの中で、日本は成長市場であり、すでに「APACビジネスのおよそ3分の1を占めるほど」になったという。2022年度はより地域に密着したキャンペーンを実施して、顧客獲得を目指すとリー氏は語った。

テレワーク、OT市場の拡大で業績は好調

 続いて日本のカントリー・マネージャーを務める西尾則子氏が、国内のビジネス戦略を説明した。

 同社のビジネスは順調に拡大している。2020年後半に開始したパートナープログラムの登録社数は、2021年には144社に達した。「2021年にOT製品のパートナープログラムを開始したことも増加に寄与している」と西尾氏は語る。

 また、パートナー販売の成長率はプラス45%と高い。「2020年はコロナ禍のテレワークで当社の製品の需要が大きく伸びた。2021年はそれに加えて、OTでの採用が拡大して成長を持続している」(西尾氏)。全体の売上高成長率もプラス55%と高く、新規事例が前年の2社から6社に増加している。またCM施策によって、認知度も28%~56%へと倍増した。2021年はまさに同社にとって実績も認知度も大きく向上した年だったといえる。

 2021年は、3つのテーマでビジネスに取り組んできた。1つめがパートナーシップの拡充だ。現在4社のパートナーと深い関係にある。ソフトバンクC&S、ダイワボウ情報システムはリセラーとして協業し、LACからはセキュリティ面のサポートを受ける。またアウトソーシングテクノロジーズは、OT製品の技術支援、PoCの実施などで支援を受けている。

 2つめが認知度向上の取り組み。これはグローバルに展開している施策を紹介した。とくスポーツのスポンサーに力を入れている。F1メルセデスAMGチーム、フォーミュラEのメルセデスEQチームとのパートナーシップを継続中で、英国サッカーチームのマンチェスターユナイテッドのスポンサーも務める。国内向けには、俳優を起用したテレビCMを展開中だ。

国内市場における2022年のビジネス強化の取り組み

2021年度の国内ビジネスの振り返り

顧客事例:サービス、サポート人員不足の問題を解消

 そして3つめが、顧客事例の発信だ。西尾氏はその例として、以下の3社を紹介した。

 1社目は、検診用の車両などを製造する東京特殊車体だ。社名の通り特殊な車両を製造するため、製造過程で設計変更が頻繁に発生し、従来はその都度設計者が製造現場に出向かなければいけなかった。そこでTeamViewerを導入し、遠隔での確認作業を可能にし、設計者の在宅勤務にも対応した。将来的には顧客サポートにも利用する予定だ。

 2社目はリコー。全国のオフィスで稼働する同社のプリンターや複合機のカスタマーサービスが、熟練者の引退で人手不足となっていた。そこでオンサイトのサポート業務にTeamViewerの「Assist AR」を導入し、熟練技術者がサポートセンターから、現場の若手エンジニアが映す画像に対して指導できるシステムを作った。その結果大幅な効率化を実現。サポート1件あたりの時間を平均2時間短縮し、ベテランの技能をリモートで伝承することにも成功している。

 3社目が、コニカミノルタである。同社は医療機器の画像診断装置をグローバルに展開する際、サポートの負担が大きな問題となった。装置は病院で使用するため24時間稼働が必要で、サービス要員の確保やセキュリティの問題があった。そこで、TeamViewerを最初から製品に組み込んだ形で出荷し、サービス業務をリモートで実現。海外に輸出した製品についてもセキュアなサポートを可能にした。

顧客3社のTeamViewer導入/活用事例を紹介

DXに取り残される中小企業を支援する

 続いて西尾氏は、同社が2022年1月下旬に実施した独自調査の一部結果を説明した。この調査は日本企業を大手企業と中小企業に分け、「デジタル化」「コスト削減」「業務効率化」「付加価値向上」「事業構造変革」の5つの項目について進展度合いを聞いている。

 これによると、大手企業ではデジタル化、コスト削減、業務効率化については約6割が、付加価値向上、事業構造変革も半数が実現できている。その一方で、中小企業の達成度は大手企業よりも大幅に低く、5項目すべてで10~20%台にとどまっている。

中小企業のDXは「業務効率化」にとどまり、その先の「付加価値向上」「事業構造変革」には到達できていないことが明らかに

 なぜ中小企業でデジタル化が進まないのか。西尾氏は「コスト制約と人材の不足が要因だ」と話す。

 この課題を解決するため同社では、2022年の4つの重点施策の筆頭に、中小企業マーケットの強化を掲げた。

 「当社の製品は誰でも使いやすく、低コストで導入できる。そのため、既存顧客には中小企業も多い。調査でも出ていた遅れを取り戻せるように、TeamViewerを使ったDXを支援していく」(西尾氏)

 他方で大企業の導入も増えており、そちらに対応するプロフェッショナルサービスも提供していく。これが2つめのテーマだ。とくにOT製品の導入では、ワークフローの見直しなどのコンサルティングや、踏み込んだサポートが必要になる。「大規模な導入も増えてきており、トレーニングのニーズも拡大している」(西尾氏)。

 また、前年に引き続き、パートナービジネスの強化を図る。とくに同社が注力するOT分野のパートナー開拓に力を入れる。これが3つめである。

 そして4つめが、製造業へのフォーカスだ。自動車を中心に製造業が集中する東海地域、そしてそれ以西への対応を強化するため、名古屋オフィスを開設する。製品への組み込みビジネスの構築も進める。「2021年に名古屋で自動車製造業の展示会に出展した際、多くの問い合わせをいただいた。そこで、名古屋オフィスを開設してエンジニアを常駐し、対応力を強化していきたいと考えている」(西尾氏)。

「現場の人を助けるソリューション」を提供

 続いて、同社ビジネス開発部長の小宮崇博氏が、同社の最新の機能と製品ロードマップについて説明した。

 TeamViewerの製品のポートフォリオは、大きく「ITサポート」と「OTサポート」の領域に分かれるが、近年はとくにOTの領域でAR/MR(拡張現実/複合現実)による現場支援サービスに注力している。また海外では「Webカスタマーエンゲージ」として、販売現場の支援に使うようなサービスも提供しており、今後日本にも導入される予定だ。

 小宮氏は、「TeamViewerは、例えば製造業では製品の設計から営業、製造現場、検査、流通など、それぞれの現場で『人を支援する』ことを目的としたソリューションである」と語る。

TeamViewerの製品ポートフォリオは、製造業のバリューチェーン全体を包括するものとなっている

 例えば、同社がスポンサードするF1・フォーミュラEのメルセデスチームでは、マシン開発の現場と離れたエンジニアをAR技術でつなぎ、スピーディな開発や部品の調達にも利用している。

 「SAPの製品である『Field Service Management』と、当社のARソリューションFrontlineが連携して、サービス要員の計画と業務をリアルタイムに管理できる」(小宮氏)。今後は倉庫マネジメントなどとの連携も計画している。

 またSAPだけでなく、GoogleやMicrosoft、ServiceNowなどの業務アプリケーションとの連携を実現している。「TeamViewerをわざわざ呼び出すのでなく、通常使っている業務アプリケーションから自動的にTeamViewerの画面が出てきて、遠隔地と情報が共有されるような世界を目指している」と小宮氏は語る。

 さらに、この先のロードマップについて、小宮氏は「2022年は、当社がこれまで手を付けてこなかったAIを用いた製品が登場する。それが『AI Studio』だ。詳細は発表できないが、AIを使う場合でも、人を支援するという当社の基本方針は変わらない」と語った。

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