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アドビ日本法人設立30周年 今だから話せる日本語DTPの夜明け

PostScript、デジタルフォント、InDesign 日本語DTPを当たり前にしたアドビの技術

2022年03月24日 10時00分更新

文● 大谷イビサ 編集●ASCII

提供: アドビ

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三種の神器に入れなかったPageMaker 打開のきっかけは新DTPソフト

 一方、グローバルから見たPageMakerの最大の課題は、競合に大きくシェアを奪われた点だ。初の商用DTPソフトとして大きな成功を収めたPageMakerだが、多くのユーザーは機能的に優れた「QuarkXPress」にシフトした。PageMakerはバージョンアップを重ねても、Quarkとのシェアの差を縮めるのは難しく、アドビはピンチに陥っていた。そのため、Photoshop、Illustrator、QuarkXPressがDTPの三種の神器と言われるようになり、アドビとしてはなんとかページレイアウトの市場を巻き返したかった。

 そこで、シアトルにいたアドビのPageMakerの開発チームは、QuarkXPressとのシェア競争に勝つべく、新しい言語、新しいアーキテクチャを用いたDTPソフトの開発に乗り出していた。のちの「Adobe InDesign」となるこの新DTPソフトの開発において、単なるローカライズを超えた真の日本語対応を実現した立役者がプリシラ・ノーブル氏だ。

アドビ プリシラ・ノーブル氏

 ノーブルさんは東京生まれで、日本語も堪能。十代で北米に渡り、大学、大学院を経て、シアトルで小学校の教師として勤務していたという。ちなみにMacintoshを購入したのはこの教師時代。日本語を入力するために、ディスクをわざわざ増設し、26枚のフロッピーディスクに収められた日本語フォントをインストールしたという経験を持つ。生まれ故郷で使っていた日本語へのこだわりが強かったわけだ。

 その後、日本に関わる仕事をしたいという理由で友人のつてでアドビに入社。当時、多くのソフトウェア会社は、ヘッドクオーターのある北米でローカライズの作業を担っており、ノーブル氏もPageMakerの日本語版・中国語版・韓国語版のテストチームを担当することになった。日本の出版業界についてくわしいわけではなかったが、山本氏をはじめとする日本のメンバーとやりとりを繰り返すと、組版の品質で大きな課題があることがわかったという。

「PageMakerのテキストエンジンは欧文を前提としていました。だから、テキストの組版が美しくない。日本のメンバーからの意見を聞くと、『正直使い物にならない』という声まで上がってきました。私もPageMakerを担当して1年くらい経っていましたが、やるなら全部作り直した方がよいと思っていました」(ノーブル氏)

 新DTPソフトの計画に対して、最終的にアドビの経営陣はPageMakerの開発を6.5で終了し、InDesignにシフトする決断を下す。もちろん、決断に至るまでアドビ内に大きな不協和音を引き起こしていた。

「InDesign という新しいツールの開発チームにシフトしたメンバーとは別に、当然PageMakerを引き続き作り続けていたチームもありました。また、新しいツールについては、IllustratorやPhotoshopを開発しているサンノゼのチームから『どうせシアトルのチームは作れないのだから、こちらで開発してやる』という声も出ていました。社内でいろいろな噂や争いが絶えず、当時は大変でした」(ノーブル氏)

 そんな時期、InDesignの日本語版のプロダクトマネージャーとなったノーブル氏に強い助っ人が現れる。幼なじみだったリン・シェード氏だ。ノーブル氏は、アドビのデザインチームにUIデザイナーとしてジョインしたシェード氏とともに、日本語版の強化を実現すべく、製品開発のためのリクワイヤメント(仕様書)を提出することになった。これに対して、2人は日本の関係者と話し合いを続け、単なるローカライズにとどまらない日本語の組版に最適化したテキスト処理エンジンの開発を提案した。

InDesign日本語版の開発に関わったノーブル氏、山本氏、シェード氏

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