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オヤジホビー-ワタシが好きな物はみんなも好き、かもしれない- 第318回

日本刀生産の技術を今に伝える、ちょっといい堺の包丁を買いました

2022年02月13日 17時00分更新

文● むきみ(@TK6506) 編集● ASCII

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刃物で有名な堺の包丁です

 もうカミさんと誕生日だのクリスマスだのとプレゼントを交換するような歳でもないんですが、日頃の趣味全振りな無駄遣いの数々をごまか……自らを戒めるため、何かしら贈っています。

 多いのはやっぱりピアスやネックレスなどのアクセサリーで、あとは服とか靴とか。たまにドライヤーや掃除機みたいな家電品をプレゼントすることもありますけど、このへんはもうプレゼントというより家の備品ですね。

 昨年のクリスマスにあげたのも完全に実用品でした。包丁です。

 何をあげようかなーと思ってネットであれこれ眺めていたときに、いい包丁を買ったという人の話を見かけて、これいいかもと思ったんですよね。

 ずっと使っている包丁は、素人が簡易シャープナーでシャシャッとやってるだけなので、だいぶ切れ味が落ちてきてしまっています。それはそれで愛着もあるのでそのうちきちんと研いでもらうとして、1本いいやつを買うのもいいかなって。

 それで選んだのがこれ。堺一文字光秀の家庭用包丁「FV10 玉研ぎ 三徳包丁」です。

ちょっといい包丁を買いました。堺一文字光秀って名前がいきなりかっこいい!

 堺一文字光秀って、なんか名刀っぽくてかっこよくないですか。堺は大阪府堺市のことで、新潟県燕市・三条市、岐阜県関市などと共に、包丁の主な生産地のひとつです。

包丁のルーツは日本刀

 日本の包丁作りは日本刀の生産と深く関わっています。

 日本刀には大和伝、山城伝、備前伝、相州伝、美濃伝という5つの大きな流派があって、これを五箇伝(ごかでん)と呼ぶんだそうです。それぞれの発祥地は大和国(現在の奈良県)、山城国(現在の京都府南部)、備前国(現在の岡山県東南部)、相模国(現在の神奈川県)、美濃国(現在の岐阜県南部)。数多くの刀工が所属し、地位もとても高いものでした。

 日本刀生産の文化が大きく開花したのは鎌倉時代。

 刀剣自体の発生はもっとずっと古く、弥生時代にはすでに両刃の剣があり、古事記には建速須佐之男命(たけはやすさのをのみこと、スサノオ)が退治したヤマタノオロチから草那芸之大刀(くさなぎのたち)が出た話が載っていたりしています。古墳時代にはすでに日本刀のような片刃の太刀が作られていました。

 ただ、その頃までの刀は刃が真っ直ぐな直刀で、日本刀の特徴であるスーッと反ったブレードになったのは平安時代後期のことだそうです。

日本一の生産量を誇る備前長船

 鎌倉時代になり、武士がグイグイ力をつけあちこちで争いが起こるようになると、日本刀は性能も生産量もアップしていきました。数多の名工、名刀が生まれ、現存する国宝に指定されている日本刀のおよそ8割が鎌倉時代のものなのだとか。すごいですね、鎌倉時代。

 鎌倉時代から室町時代を経て時は安土桃山時代。末期の慶長元年を境にそれより前の刀を古刀、それ以降の刀を新刀と呼ぶそうです。そんな区別ができる一つのきっかけとなったのは、ワタシでも聞いたことがある備前長船(長船派)。全国ナンバーワンの生産量を誇った備前国の中で、現在の岡山県瀬戸市である長船を拠点としていた超メジャーブランドです。

 この備前長船は鎌倉時代中期に初代の光忠が興したとされるブランドで、その技術は、長光、景光と受け継がれ、室町時代初期の南北朝時代には備前長船兼光が当時流行っていた相州伝の特徴を取り入れた相伝備前という様式をリリース。武士たちの間で大人気になったそうです。

幕府、日本刀の輸出で儲ける

 およそ240年続いた室町時代は南朝と北朝が争う南北朝時代から始まりましたが、室町幕府第3代将軍足利義満により南北朝の合一に成功。国内が安定し、しばし平穏な時が訪れます。それまでかっこいい! 漢らしい! 強そう! と人気だった長くて幅広の大太刀や野太刀は影を潜め、鎌倉時代の太刀を偲ぶような細身で優美なデザインがもてはやされるようになったとか。

 そんな風になったのなら刀の需要も減りそうなもんですが、この頃に日本で初めて刀の大量生産に成功した備前長船は、減産どころかむしろジャンジャン作りまくり始めました。足利義満が明との貿易を開始し、日本刀を日本の特産品として輸出するようになったのです。

 輸出用に作られていたのは「数打ち」と呼ばれる低品質のロープライス品で、なんでも明では10倍の値段で売れたのだとか。幕府ウハウハです。

日本刀が小型化

 室町時代後期になると応仁の乱を皮切りに再び争いが頻発するようになり、世は戦国時代に突入します。以前は騎馬状態で戦うことが多かったのが馬を降りて戦うようになり、日本刀の主流は太刀から打刀という小型の刀に。室内戦に対応するためより小さい脇差が作られたのもこのころで、時代劇でよく見る大小2本差しのスタイルになっていきます。

 こうして刀の需要が高まる中、美濃国も大量生産の技術を習得。備前長船とともに量産タイプのリーズナブルな刀がたくさん作られたそうです。

 1543年には種子島に鉄砲が伝来。日本刀の製造技術を応用して銃身などを作り始め、わずか8ヵ月後には国産化に成功しました。そして戦場での長距離兵器は弓矢から鉄砲へと移行していきます。

備前長船の壊滅から生まれた新刀

 続く安土桃山時代。このあたり、時代の呼び方が重なっていて歴史が苦手なワタシにはややこしいところもあるんですけど、ざっくり戦国時代の後半といえばわかりやすいですかね。織田信長&豊臣秀吉の時代です。

 その後期、1590年(という説が有力です)に、刀業界に激震が走ります。備前国、現在の岡山県東部を流れる吉井川の氾濫により、なんとあの備前長船派が壊滅状態に陥ってしまったのです。これにより備前の刀生産がストップ。

 各地の大名はもうひとつの大量生産可能な産地である美濃国の刀工を召し抱えるようになりました。そして大名が国替えで別の土地に移動するのに同行したため、美濃伝が急速に全国的に広まっていきます。

 そして1596年(慶長元年)。この頃から各地に散った刀工たちの間で新技術や独自デザインを取り入れた自由な作風が生まれ、新たな様式の刀へと変化を遂げていきました。新刀の誕生です。

 天下統一により物流が発達したため同一品質の鋼が全国で手に入るようになり、それまでの各地の特色ある鋼に比べて地鉄の地域差がなくなりました。

日本刀生産から各種刃物生産へ

 江戸時代に入ると刀はすっかりサブ武器というか武士のステータスシンボル的なものになっていきます。そして大火、飢饉、悪政、参勤交代などの影響もあり、財政難になった藩も多く、そのような地では、武士は刀を新調するどころではなくなってしまいました。

 その後、武芸奨励により需要の掘り起こしを試みるも、美術品のような物になってしまったため大して売れ行きの回復にはつながらず、ナタなどの農作業用刃物や包丁やハサミなどの家庭用刃物の製造で生計を立てることを余儀なくされる刀工も出てきました。日本刀が各種の刃物生産につながるのはこの頃ですね。

 幕末になるとまた世間がバタバタし始めて刀需要が出てきますが、それは一時的なもの。明治時代の廃刀令で日本刀生産はいよいよ行き場を失います。

堺の特色は打刃物

 こうしてさまざまな刃物生産へとシフトしていった日本刀生産の技術。堺では室町時代にタバコの葉を刻むための煙草包丁が作られたり、鉄砲伝来後は鉄砲生産をしたりもしていたそうです。

 現在の堺は刃物の三大産地のひとつとなっていて、その特徴は職人が鋼を叩いて作る鍛造による打刃物。包丁は刃が両面についている両刃と片面だけの片刃があり、堺の打刃物は片刃なのが特徴で、プロの料理人向けの包丁としては国内9割のシェアを誇っているそうです。

 片刃は出刃包丁や柳刃包丁のような高性能和包丁に採用されることが多く、両刃はオールマイティー。片刃に比べると性能は劣るものの使いやすさでは両刃が上で、一般家庭で使われている包丁はほとんどが両刃になっています。

 素材は鋼かステンレスが主流で、日本刀の流れを汲む鋼は切れ味が鋭いですがサビやすい、ステンレスは逆にサビにくいけど切れ味では負けるという感じです。

家庭用の三徳包丁にしました

 堺一文字光秀の包丁は大きく分けて和包丁、洋包丁、家庭用包丁、専用包丁、和牛刀があり、選んだのはごく一般的な家庭用包丁。万能タイプの三徳包丁というやつです。鋼に惹かれますけど自分がちゃんとメンテナンスできるとは思えないので、素材はステンレスにしました。

家庭用の三徳包丁。ブレード長は175mmです

 ステンレスにもさらに種類があって、また迷ってしまうところなんですが、V金10号という鋼材です。

 どんな素材なのか気になったので調べてみると、武生特殊鋼材という会社の製品らしく、成分組成は鉄に炭素1%、クロム15%、モリブデン1%、バナジウム0.25%、コバルト1.55%。炭素が多く含まれていることでかなり硬度が高くなっているようです。

 ステンレスはクロム含有量10.5%以上、炭素含有量1.2%以下とされているので、まさしくステンレス。クロム含有量が高めなので、よりサビにくいのかもしれません。モリブデンとバナジウム、コバルトも強度、耐摩耗性の向上につながるみたいです。

刃の素材はV金10号。素材が付きにくいディンプル付きにしました

 玉研ぎというのは刃のところにあるへこみのこと。ここに空気が入るため切るときの抵抗が下がり、切り終わった後も食材が離れやすくなります。

柄は木製。傷んでしまうので食洗機に入れるのは避けたほうがいいみたいです

 柄の部分は木製なので食洗機には向きません。刃が欠ける可能性もありますし。冷凍食品などのめっちゃ固い物も、刃こぼれするかもしれないので不可です。

洋白銀製の口金

 口金はステンレスかと思いきや洋白銀。ちょっとおしゃれですよね。

本刃付けはしなくても大丈夫そう

 購入時には「本刃付け」という作業を頼むこともできます。職人さんが手作業で薄く研いでくれるもので、より切れ味が増しますが、その反面刃こぼれしやすくなります。

本刃付けはしていませんが、切れ味は抜群。潰れがちなトマトがスッと切れるのって気持ちいいです

刃に食材がくっつきにくいのも◯

魚もスパスパ切れます

ロゴの「SWORD」がかっこいいのです

 本刃付けはやらないと刃がないわけではなく、デフォルト状態でも鋭さは十分。一旦使って慣れてから好みに合わせて刃付けをすることをおすすめします……とのことだったので、これは頼みませんでした。実際、そんな必要は全然ないほどの切れ味です。

 希望すれば無料で名入れをしてくれたり、使用期限なしの研ぎサービス1回無料券も付いていたりとサービスも充実。いつか切れ味が悪くなったら職人さんに研いでもらおうと思います。いい砥石も欲しくなってきました。 

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