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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第160回

人気ゲーム「VAMPIRE SURVIVORS」に見るコンテンツ作りのヒント 何を残し、何を新しくするか?

2022年02月08日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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トリックの創作はゲームから

 筆者はマジックを仕事にしているせいか、「アート(芸術、芸能)」と「テクノロジー(技術)」の関係をよく考えます。演劇やショーを観るのはもちろん、とりわけ、ゲームをよく参考にしています。

 その理由は、ゲームでは画面の美しさやストーリーなどのアート部分と、CGやUXなどのテクノロジー部分とを分けて考察しやすいから。これは、筆者が電気系の学校に通っていたオタクだったからかもしれません。

2022年、ゲーム界のダークホース!? 「VAMPIRE SURVIVORS」

 今回ピックアップするのは「VAMPIRE SURVIVORS」(開発元:poncle)。Steamでリリースされており、公式の説明によれば「a gothic horror casual game with rogue-lite elements」。プレイするたびにランダム生成される環境や、死ぬと最初のレベルに戻される設定など、いわゆる「ローグライト」と呼ばれるジャンルに位置づけられています。価格は300円。

 プレイヤーは、ヴァンバイアハンターを操作。周囲から迫りくるゾンビやガイコツなどの軍団を退治しながら、夜明けまでの30分を生き残るだけ。敵が落とす宝石を拾って経験値を集め、レベルが上がると、プレイヤーの武器をアップグレードできます。ただし、時間が経過するごとに、敵の量、強さも上がります。

 特筆すべきは、ゲームパッドを使えばジョイスティック1つだけでフィールドを歩き、敵を倒せること。攻撃はすべてオートで、片手、ほぼ指1本で遊べるシンプルな操作性です(他のPCゲーム同様、キーボードでの操作も可能)。

 プレイヤーがやることは、移動と、レベルアップ時のアイテム選択のみ。そのため、ローグライトというより、自動で攻撃できる全方位型のシューティングゲームのようだと感じる人もいるでしょう。

ノスタルジーを感じるドットで描かれたキャラクター

 リリースされてからおよそ1ヵ月で1万件以上のレビューがあり、「圧倒的に好評」と絶大な評価を得ています。早期アクセス価格300円、たった200MB弱のサイズのゲームですが、プレイすると「数時間が、あっというまに溶けてしまう」、不思議な魅力があります。

VAMPIRE SURVIVORSにハマる要素

 このシンプルなゲームに、なぜ魅力があるのでしょうか。筆者が分析した要因は、以下の5つです。

1、「追い詰められる恐怖」で快楽を味わえる
 古くから、娯楽の隠れた魅力は「恐怖」だといわれています。初期の映画の人気コンテンツは「観客に向かって走る列車」の映像でした。音声もなく、モノクロだったにもかかわらず、それを観た人々は「上演されていたテントから、あわてて逃げた」なんてエピソードも残されています。

 古典的なものでいえば、大ヒットアーケードゲーム「スペースインベーダー」もそう。左右に動き、プレイヤーを追い詰める演出で、日本中にブームを巻き起こしました。

 VAMPIRE SURVIVORSも、全方位から敵が襲ってきます。逃げ場なしの追い詰められる恐怖が、とてもわかりやすく演出されています。

2、「移動」1本のシンプルな操作
 操作が複雑なFPSやTPSと違い、プレイヤーが操作するのはキャラクターの移動のみというシンプルさ。スタートやアイテム選択などにはボタン操作が必要ですが、片手にグラスを持ちながらでもプレイできるのが、現代では逆に新鮮です。

3、序盤のストレス、終盤のリラックス(苦しいピンチから無双状態へ)
 エンターテイメントの基本は「緊張と緩和」。苦しいピンチから無敵に成長するのはゲームの定番ですが、VAMPIRE SURVIVORSでは、そんな変化を数分〜30分で味わうことができます。

 ゲーム開始直後は非力な攻撃しかできない主人公ですが、宝石を拾うことでレベルが上がり、獲得できるアイテムで強くなっていきます。それだけでなく、フィールドには回復アイテムや画面内の敵を一掃するアイテムもあり、後半にはパワーアップした主人公で敵を倒すカタルシスも味わえます。

ゲームの後半は無双、無敵状態になって気分がいい

4、すきま時間に遊べる手軽さ
 ゲーム時間は最長で30分。ゲームのストーリーでは「夜明けまでの30分を生き延びる」という演出にのっとっています。とても素晴らしいアイディアでもあり、現代のライフスタイルにあったゲーム時間なのでしょう。

5、スタンドアローン、2D、ドット絵という発想
 プレイ中はネット接続も必要ありません。ノスタルジックな気分さえ感じるドットで描かれたゲームシーンは、4Kや高フレームレートがトレンドの現代のゲームからは、逆張りの発想です。

 もちろん、あえて2D画面、ドットにこだわったゲームは、現在でも多数リリースされています。しかし、VAMPIRE SURVIVORSはグラフィックだけでなく、内容もシンプル。その組み合わせがプレイに集中できる要因になっています。

長く愛された普遍性とミニマリズム、新しいインフラ

 ゲームの製作は、ブームの流れに乗ろうとすると、どうしても二番煎じになってしまいがちかもしれません。その理由は「ゲーム製作には時間がかかるから」です。

 しかし「ゲームを作る」を考えるのではなく、「ゲームを編集する」と考え、何を残し、何を新しくするかに集中できれば、個性的なゲーム作りの可能性は大きく広がるでしょう。

 VAMPIRE SURVIVORSは、内容もグラフィックも、決して斬新に作られたものとはいえないかもしれません。先述したように、過去の名作ゲームに見られるような普遍的な要素も多くあるほか、いさぎよく編集された内容はミニマリズムさえ感じさせます。

 ただ、このゲームをとりまく環境の新しい部分として、注目すべき点が2つあります。YouTubeなどでのゲーム中継配信者のプレイで爆発的に認知されたこと。世界中にゲームのダウンロード販売のチャンネルを持つSteamのインフラがあったこと。

 それが新しいヒットの要因になったと、筆者は推測しています。さらに「早期アクセスゲーム」という、ゲーマーの所有欲、新しいものに触れたい好奇心を刺激していることもあるかもしれません。

コンテンツ作りは「何を残し、何を新しくするか」

 筆者がクライアントや観客からよく受けるのは、「トリックは自分で考えるのですか?」という質問です。

 その答えは「古い娯楽を研究して、現代風にする」です。ポイントは「昔から人々に愛される要素の何を残して、どの部分を新しくするか」。そして、そのコンテンツが時代の流れにマッチしたとき、ヒットが生まれると思っています。

 VAMPIRE SURVIVORSにも同じことがいえるかもしれません。古くから愛されているゲームの要素を編集してシンプルにまとめ、それを新しいインフラにのせることで、気軽にプレイしてもらえる、実況も盛り上がる……という、今の時代の流れにうまく噛み合ったのでしょう。

 ご興味のある方は、ぜひVAMPIRE SURVIVORSをプレイしてみてください(なお、1月31日に公開されたパッチノートで、2月中に日本語を含む多数の言語への対応が予告されています)。ただし、ハマってしまうと、何時間もプレイしてしまう中毒性があることを、あらかじめ警告しておきます(笑)。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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