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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第161回

“人をだます”プロが解説、2022年に警戒すべき詐欺とは?

2022年02月22日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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バイラルな犯罪になった、特殊詐欺

 観客から借りた指輪が消えて、別の場所から出現する……。もちろん、そんなことは現実には不可能ですが、「人をだます」ことで、楽しんでもらうのがマジックです。

超能力のショーと境界が曖昧な時代の透視マジックのワンシーン

 一方で、人をだまし、金品などをだまし取るのが詐欺。残念なことに、携帯電話やインターネットを使った詐欺は、偽のメールなどを送信するのが簡単なので、ウイルスが広がるように被害が増え続けています。「バイラルな犯罪」になったといえるかもしれません。

 この手のネット詐欺に、年々、新しいタイプの手口が現れるのはご存知の通りです。2021年11月には、NASDAQに上場している企業からおよそ700万人の個人情報が流失したばかり。コンピューターセキュリティー会社などは、そんな流失情報を悪用した詐欺がこれからも増加すると予測し、警鐘を鳴らしています。

手口は変わっても「だましの本質」は変わらない

 なぜ人々はだまされてしまうのでしょうか? 実は、マジックにしても、詐欺にしても、人間にとってだまされやすい「弱点(ウィークポイント)」を利用しているからです。

 マジックなら「不思議な力があると信じたい」「こんなことが起きるはずがない(起きたら驚く)」など、観客の夢や希望を頼りにトリックが作られています。あるいは、「思い込みを利用する」と言ってもいいかもしれません。

 たとえば、20世紀初頭に舞台で演じられた「象が消えるマジック」があります。ステージ上の巨大な箱にゆっくりと歩いて入る象を見て、観客は「象の動きは遅い」と思ってしまいます。

 しかし、普段はゆっくりと動いている象も、外敵と争うときなどはすばやく動ける……。実は、あの巨体ながら、象は時速40km程度で走れるのです。テレビのない時代では、そんな習性はほとんど知られていませんでした。「象の動きは遅い」という“思い込み”が、そのマジックの本当の秘密だったのです。

 詐欺なら、多くの人が持っている「怖い思いをしたくない」「恥をかきたくない」「トラブルに巻き込まれたくない」「誰かを助けたい」など、そんな感情や、そこから生じる思い込みを悪用しているといえるかもしれません。

ギャンブルでのイカサマをデモンストレーションするためのカジノ用トランプ

 今回は、多くのサイトで解説されているような「手口」を解説するのではなく、「なぜ、そんな手口にだまされてしまうのか」に焦点を当てて、考察してみることにします。

思い込みと恐怖心につけ込むテクニカルサポート詐欺

 たとえば、近年被害が増加しているテクニカルサポート詐欺。その手口は、PCやスマホの画面に「お使いのデバイスに問題が発生しました」などと表示させ、偽のサポートに電話をさせてから、リモートデスクトップツールを使って、ネットワークコマンドなどを実行します。

 そこから、個人情報を窃取したり、PCの中にマルウェアを仕込んだりといった手口に移行します。ウイルスに感染しているなどと虚偽の説明をすることで、必要のないサポート料を支払わせることもあります。中には、偽のサブスクリプションを契約させて複数回、架空のサポート料を詐取する場合があるというから驚きです。

 この詐欺に引っかかってしまう原因は「PCの管理は複雑で難しい」「(普段から)警告の文章がわかりにくい」「ウイルスに感染したかも」という“思い込み”と、「PC(スマホ)が使えなくなると困る」という“恐怖心”のコンビネーションです。

 そんな思い込みがあると、PCが苦手な人なら「表示されたサポートに電話して……」と、助けを求めてしまうのは当然のことかもしれません。

 さらに詐欺に引っかかり、支払いをしても、すぐに「だまされた」と気が付きにくい、その巧妙さも特徴です。届出がされていない被害も多いと推測されています。

TVCM撮影のワンシーン。撮影ではCGは使わず、ズルはなし

 対策としては、警告画面が表示されても、画面に表示されている指示にすぐ従わないことです。画面が消えない場合は、ブラウザを強制終了するか、パソコンを再起動しましょう。

 また、記載されている電話番号にすぐに電話をかけたり、犯人側が要求するソフトのダウンロードやインストールをしたりするのもNGです。電話などで状況を確かめたい場合は、メーカー公式サイトなどに掲載された番号にかけるように。

 “思い込み”と“恐怖心”のコンビネーションにつけ込むテクニカルサポート詐欺は、2022年に警戒すべき詐欺の1つといえます。実のところ、国内でも被害が増えており、警視庁なども注意を呼びかけているのです(参考:ウイルス感染の警告とサポートへの電話番号が表示された 警視庁)。

人間の弱点別、ネット詐欺のタイプ

 今回は手口別ではなく、人間が持っている弱点別にネット詐欺の被害を下に分類してみました。

●脅し系詐欺:「違法なので警察につかまる」「利用料不払いで裁判になる」「ウェブカメラをハッキングして撮影した動画を拡散する」など、さまざまなストーリーがありますが、その多くは「社会的な評価が下がる」という“恐怖心”に訴えるタイプの詐欺です。2021年12月には、女性向けであろう、「あなたのトイレを盗撮した」としてビットコインを要求する詐欺メールも報告されています。

●後で不便系詐欺:アマゾンやメルカリを装い「アカウントを停止する」「継続に問題がある」といったフィッシング詐欺サイトなどに誘う手口。コロナ禍以降、本物と誤解しそうな偽メールの受信が報告が増えています。「利用できなくなると不便だなあ」という心理につけこんだタイプです。

●情報確認、お願い系詐欺:大手ファイナンス会社を装い、「クレジットカードのセキュリティを強化するためアンケートをお願いします」「情報確認をお願いします」とメールでフィッシングサイトに誘う手口です。「企業や誰かの助けになれば……」という、ユーザーの義務感を悪用したタイプの詐欺。筆者は、おせっかいな上に、車を買う時に自動車会社系クレジットカードを作ったので、そんなメールが来たら、ついだまされてしまうかもしれません。

●お金がもらえる、儲かる系詐欺:「○○に当選しました!」という古いものから、人助けを混ぜた、さらに古典詐欺の「慈善事業に財産を譲りたい未亡人からのメール」という手口まであります。

 とくに最後の「儲かる系詐欺」のメールは長文で、「これにだまされるの!?」と思うようなストーリーですが、文面をコピーして大量に送付できるメールだと、こんな古典的な詐欺メールが世界中で送信され、今でも誰かをだましています。もし、そんな文面にご興味があれば「テレサハイジ夫人」で検索すると、英語や日本語の詐欺メールを見ることができます。

水際対策も大事……しかし、人間の弱点を自覚しておく

 これらの詐欺にだまされないようにするにはどうしたらいいでしょうか。ウイルス対策ソフトの導入やスパム防止フィルターなど、水際対策が大切なのは言うまでもありません。

 しかし、インターネットやIT機器が登場する前から存在していた詐欺の被害に遭わない1番の方法は、「人間にはだまされやすい弱点がある」と常に気をつけておくことだと筆者は思っています。

 「怖い思いをしたくない」「恥をかきたくない」「誰かを助けたい」「不便になりたくない」「楽して儲けたい」は、大小こそあれ、誰もが持っている普通の感情……。

 そんな感情に触れるメールが送られてきたら、まずは公式のサイトから確認したり、すこしPCに詳しければメールヘッダーのリターンパスをチェックしたり、PCに詳しい友人などに相談したり……それらを習慣にしておけば、ほとんどの詐欺被害をさけることができるはず。「○○時間以内に」など、焦らせるフレーズがあったら、まずは冷静になることも大切です。

「ほぼ日の學校」ではマジックや詐欺の歴史を解説しました

「マジックを見破れる」という危うさ

 たまに「マジックのタネを見破れる」なんて人に遭遇することがあります。ショーでのトラブルを避けるため、筆者自身は、その真偽を確認したことはありません。

 しかし、人前で「自分は頭がよい」とアピールする危うさを考えると、その人が詐欺に合わないか(もしくは、すでに被害にあっていないか)が、いつも心配になります。なぜなら「(自分は)人よりも頭がよいと信じたい」もまた、人が陥りやすい弱点でもあるわけですから……。

 本当に頭の回転が速い人や、社会から天才と呼ばれるような人は、謙虚なことがほとんど。「平家物語」にある「驕れるもの久しからず(自信過剰な人は、すぐにダメになる)」は、やっぱり正しい。それが、僕がマジックと詐欺の歴史を研究して学んだことです。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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