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SORACOM Tech Days 2021のラストはSORACOM活用のLT大会

必要はIoTの母? 身近な課題を解決した6つのIoTチャレンジがすごい

大谷イビサ 編集●ASCII

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穀物乾燥機の稼働状態や異常をいち早く知るためのIoT

 5番手は「米農家がチャレンジ!稲作IoT」という農業IoTネタ。登壇した竹内稔さんは愛知県の稲作農業で、数年前から電子工作にチャレンジしている。昨年の2月にSORACOM Device Meetupに登壇しており、そのときは「春編」だったが、今回は「秋編」だ。

 稲作の過程においては、稲を保存するために乾燥させる作業が必要になる。従来は屋外に干していたが、現在はコンバインで収穫した籾を穀物乾燥機で乾燥させている。日中に収穫し、夕方に乾燥機に入れ、夜通し熱風を当てて乾かす。ほとんどは設定すれば、翌朝の乾燥終了まで自動で行なわれるが、トラブルがあると米の品質に関わり、翌日の作業にも支障があるため、運転状況や異常がすぐわかるIoTを作ろうと思い立ったという。

 実はこの手のものは既製品が存在しているが、メーカーごとの専門端末・専用クラウドで、対応はほぼ最新機種のみでWiFiも必要。なにしろ値段が高価だった。そこで、竹内さんはESP32マイコンで自ら作ることを思い立ち、子機(13台)から熱風温度、モーター稼働、警報ブザー等を親機に送信する仕組みを構築した。1分ごとに子機から集めたデータを親機がSORACOMのLTE-M経由でクラウドに送信しているという(関連記事:ESP-NOWを使ってGateWay方式でSORACOMへ送信する~機械のIoT化を低コストで)。

子機で熱風温度やモーター稼働などを収集し、SORACOMで送る

 稼働状況はSORACOM Lagoonのダッシュボードで確認しており、時系列でも温度変化を把握できるという。また、異常時にブザーが鳴った場合は LINEに通知が来るという。1シーズン使ってみると、利用料は月330円/1ヶ月で収まった。SORACOMは月300MBまでは定額だが、実際使ったのは40MB程度。可視化で用いたSORACOM Lagoonも無料枠で収まったという。

 今はモーターのオンオフだけだが、今後は水分値も把握していく予定。既製品向けの通信コネクタは用意されているのだが仕様が不明なので、既存装置の液晶画面をAIカメラで読み取らせてみたが、なかなか苦労しているようだ。また、熟睡しているとLINEの通知に気がつかないため、LINEの通知音に自分の声を設定し、Alexa経由でルンバを動かして、自身を起すという荒技も試しているという。

カメラと画像認識で子豚の出産通知 3つの課題はこうやって超えた

 最後に登壇した赤平剛文さんは子豚の出産通知という畜産IoTのネタを披露してくれた。赤平さんは宮城県大崎市在住のシステムエンジニアで、趣味がラズパイで遊ぶこと。ラズパイコンテストでソラコム賞を受賞し、今回の登壇に至ったという。

 システムを開発したきっかけは、養豚業を営んでいる奥さまの実家で「生まれたばかりの子豚が、寒さを防ぐための保温箱に入らず、そのまま冷たくなってしまうことがある」という話を聞いたことに端を発している。赤平さんは、豚舎に電源があるので、ラズパイとソラコムを組み合わせればできそうと感じ、さっそく子豚の出産通知システムにチャレンジしたという。

 具体的には30分周期で豚舎の画像を撮影し、撮影した画像をLobeというツールで作ったTensorFlow Lightで画像認識。判定結果を画像を記載し、GoogleDriveに送信。子豚が生まれていたら、URLをLINEに送信するというものだ。赤平さんは、このシステム開発で直面した3つの課題について説明した。

子豚の出産を画像認識し、写真を送信するIoT

 1つめは、画像が真っ暗になってしまうこと。監視したい時間はおもに夜なので、照明を点けてもらったが、ずっと点けてもらうのは農家とっても迷惑だし、親豚のストレスにもなりそう。そのため、カメラを赤外線カメラに変更し、暗いところでも子豚を認識できるようにしたという。

 2つめの「画像がいつの情報かわからない」という課題に関しては、ファイル名や更新日時で確認するのではなく、画像に撮影日時を書き込むことにした。「温度と湿度、子豚の認識率も画像に書き込んで、1枚でわかりやすくしました」(赤平さん)

 3つめは親豚が複数いるため、設置位置が定まらないという課題。カメラを移動させながら使いたいのだが、移動するたびに設置位置がずれてしまうので、画像認識の精度が安定しなかった。そこで画像に目印を置いて、起動時に通知するようにした。これにより、設置位置のずれに気づくようになり、対象の親豚が違っても一定の位置で設置できるようになったという。まだまだ課題は残っているが、とにかく現場で使い始めたことで気づくことが多いと、赤平さんはまとめた。

 話を聞いた二人も、現場ならではの知恵と工夫に感心。松下MAXが、「画像に情報を入れるというのは、まさに現場を経験したからこそ」とコメントすると、今井ファクトリーは、「使ってみてでてきたフィードバックを受け入れて、改修を重ねているのは本当に素晴らしい」と応じる。
 

 どの事例も、まさに「必要はIoTの母」と呼べるような身近な課題がIoTに結びついており、納得感が高かった。また、さまざまな分野で応用可能な工夫やアイデアが数多く盛り込まれているのも特徴。IoTの最初のハードルを越えることで、どんな世界が見えるのか多くの視聴者に伝わったと思う。

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