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「デジタルファーストの世界」とIT戦略、IT投資、IT市場の変化

IDC Japan「2022年 10大予測」発表、コロナ以後で注目すべきことは

2021年12月20日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 IDC Japanは2021年12月14日、2022年の国内IT市場において注目すべき動向から、主要な10項目の事象を取り上げる「2022年 国内IT市場 10大予測」を発表した。

 同社では、毎年12月に翌年の10大予測を発表している。2022年の傾向について、IDC Japan リサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏は「全体で見れば微増の成長率であるものの、デジタル、データ、変革に関わる市場は大きく成長し、それぞれ1ケタ後半から2ケタの伸びが見込まれる」と説明する。

 「企業は『コロナ後はコロナ前/中とは違う』ということを考え始めている。自動化、データ活用、新たな働き方、顧客との関わり方、インフラの持ち方など、多方面でどうするかという課題に直面している。企業規模、業種、地域によっても解決方法は異なる。2022年は、これを国内ベンダーやSIer、コンサルティングファームなどがサポートする動きがみられる1年になるだろう」

2022年に大きな成長が見込まれるセグメント

IDC Japan リサーチバイスプレジデントの寄藤幸治氏

 今回発表した10大予測は以下の通りだ。

IDC Japanが発表した「2022年 国内IT市場 10大予測」

●デジタルファースト

 2022年の国内ICT市場は前年比で微増に留まるが、サステナビリティやビジネス環境変化への適応、現場のエンパワーメントに向けたデジタルファーストの姿勢と投資が強まる。

 「データに関わるソフトウェア市場、5G関連市場、デジタル化に向けたコンサルティング、パブリッククラウドが高い成長を遂げるだろう。積極的にデジタルを活用するデジタルレジリエンシーの動きが加速することになる。外部環境を理解するためには、データ収集、管理、分析、活用がより重要になり、ローコード/ノーコードを活用して現場で新たなサービスを生み出すといった意識もより必要になってくる。デジタルファーストの世界において、賢いデジタル投資が企業間の競争になる」

●デジタルインフラストラクチャ

 分散、多様化するデータやインフラストラクチャのレジリエンシーを向上するためにデジタルインフラストラクチャへの変革が本格化。企業のDXが進むなか、デジタルインフラの構築が進むとした。

「パンデミックによる急激な変化について、部分的な対応に留まっていた企業も多い。(パンデミック発生から)1年半以上が経過し、根本的に変革を見直す動きが出てきている。とくにインフラをしっかりと構築しなおすという機運が高まり、変革が本格化する。一貫性のあるパフォーマンスの実現、セキュリティやコンプライアンスの確保、自律的な運用への投資などが広がることになる」

 とくに、特定のベンダーに対する戦略的な依存がデジタルインフラストラクチャ全体のレジリエンシーに及ぼす影響に留意すること、分散するデータに起因する運用の複雑性に対処することを指摘する。「ビジネスの成果に結びつくインフラ投資を重視することが大切だ」。

●ワークモデル

 顧客と従業員のエンゲージメントの大変革を経験した企業はクラウド型ツール、オートメーション、データ、AIを利活用した新しいワークモデル構築にまい進することになると指摘。「パンデミックを経て、顧客エンゲージメントは、BtoBもBtoCも、対面とITを活用した非対面のハイブリッドな手法が定着し、同時に、従業員エンゲージメントもハイブリッドになる。今後は、コロナ後を見据えた新たなワークモデルに向けた進化を遂げ、営業と顧客のコミュニケーションや製品への投資も進む。顧客エンゲージメントと従業員エンゲージメントは密接につながることになる。新しい働き方が新たな顧客との関わり方にもつながる」とした。

●データ共有の拡大

 企業においては「DataOps」の適用によって、機械学習ベースのデータエンジニアリングやビジネス分析、データクリーンルームの活用が進み、データ共有の適用範囲が拡大することになる。

●顧客エクスペリエンス

 オムニチャネルにおけるパーソナライズされた顧客エクスペリエンスを提供するため、動的な顧客理解の拡大に向けたCDP(カスタマ・データ・プラットフォーム)の構築が進むことになると予測する。

 「BtoCだけでなく、BtoBでも顧客接点が大きく変容している。機能や価格が差別化要因にはならない時代が訪れており、企業が発信するメッセージが共感や支持を生み、ブランド価値の向上や顧客ロイヤリティが高まることになる。そのためにはデータの活用が重要であり、個々の顧客に対して、適切なエクスペリエンスを提供することが大切になる。顧客に関するリアルタイムのデータを活用する重要性も高まる」

●トラスト

 企業のセキュリティやリスク管理、トラスト対応に関する信頼指標が、企業のブランド評価を測るネットプロモータースコアとして活用されるようになる。

●新たなオペレーション

 効率性向上だけでなく、社会的責任の遂行、従業員エクスペリエンスの向上などを志向したリモートオペレーションの実現に向けた新たなプロセスの開発が進むと指摘。

 「これまでのリモートオペレーションはオフィスワーカーが中心になっていたが、これが現場にも広がっていくことになる。ITベンダーだけでは解決できないことも増え、OTのノウハウを持ったベンダーとの連携も増える。プライベート5Gなどの活用も広がっていくだろう」

●エコシステムプラットフォーム

 企業の強みとしてのデータ、アプリケーション、オペレーションを競合他社や異業種と共有するエコシステムプラットフォームの構築が加速する。

●ネットワーク

 企業活動の分散化に対応しながら、ワイヤレス主導とクラウドドリブンなネットワークに向けて、企業のネットワークと運用の最適化に関する検討が進むことになるとした。

 「5Gのエリアが広がり、これを社内のネットワークにどう結びつけるかが重要になる。従業員全体へのモバイルネットワークの付与などを通じて、どこからでも働ける環境の構築が必要。インターネットの重要性の増大とSD-WANの拡大といった動きや、AIを活用したネットワーク運用管理により、可用性を高めるといった動きもみられる」

●イノベーション

 DXを推進するために、企業のソーシング戦略の見直しが本格化することになる。

「フューチャーエンタープライズ」実現に向けたアドバイスも

 寄藤氏は2021年の振り返りも行った。パンデミックによるIT支出の落ち込みは、結果としてそれがデジタル技術の適用を促すことになったためにゆるやかなマイナスにとどまったと指摘する。

 「2009年のリーマンショックでは、国内IT支出がGDPよりも大きく落ち込んだ。しかし今回のパンデミックでは、IT支出のマイナスはゆるやかなものに留まり、回復も早かった。パンデミックによって、在宅勤務に関わるネットワーク整備、ビデオ会議導入、ワークフロー見直しなど、デジタル技術の適用が進み、IT投資を下支えしたことが要因だ」

今回のパンデミックはデジタル技術の業務適用を推し進め、IT投資の減速を軽微なものにする要因となった

 また、これからの企業が向かうべきゴールとして「フューチャーエンタープライズ」というキーワードを掲げ、そこへ向かう道筋としてデジタルレジリエンシーの獲得などの取り組みが必要だとアドバイスした。

 「外部環境が短期間で劇的に変化するネクストノーマル(ニューノーマル)と、その時代を生き残るための能力であるデジタルレジリエンシー、その組織能力を身に着けるためのデジタルトランスフォーメーションという行動や方法論を活用。それによって実現されるフューチャーエンタープライズが到達点となる」

 このフューチャーエンタープライズは、組織内部の論理ではなく、市場などの外部環境にすべての意思決定の起点を置き、データを活用して、ビジネス開発や意思決定を行う企業を指すという。「1、2年前ならばコンセプチュアルなものに聞こえたかもしれないが、パンデミックを通じて、データを活用し、外部環境に適用することで新たな成長を遂げる企業体に生まれ変わらなくてはいけないという意識を持った企業が増加している。個別の部分をデジタル化するのではなく、すべてのものをデジタル化するという流れが生まれている。フューチャーエンタープライズに向かっている企業が増えている」。

デジタルレジリエンシーとDXの取り組みでフューチャーエンタープライズを実現する

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