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アイキューブド研究所が動絵画展を開催、映像処理で実現する新しい現実を提示

2021年12月05日 13時00分更新

文● ASCII

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 アイキューブド研究所は11月30日、「動絵画展」と称し、同社の映像処理技術を活用した映像の新しい可能性を提示する試みを披露した。

 この展示会は、2019年に銀座の画廊で実施した施策をより進化させたもの。表示する4Kディスプレーは絵画のように額縁に収められ、固定カメラで収められた映像そのものを鑑賞する趣向になっていた。パンフレットには「これまでとは全く違う、非日常的な映像を体験して下さい」というメッセージが記されている。

 アイキューブド研究所は技術詳細についてはほぼ何も語らない企業だ。これまでの発表会/デモでも、まず最初にどのような方向感を目指すかという、映像処理に対する抽象的なコンセプトが示され、あとはその成果を受け手が自分の目で見て感じてほしいというスタンスを取ってきた。動絵画展もその延長線上にある。映像の持つ力にどういった可能性があるか、展示される空間の中でどのような表現ができるか、それを観た受け手がどのような感想を得るかを大切にした展示会だと感じた。

 動絵画展では4つの作品が展示されていた。動絵画IIとして、一般向けに初公開となったのは、浜辺の広がりを示した「海原」(2020年)、朝日に照らされた池と白鳥をとらえた「朝来」(2021年)だ。ほかに青空の下で鮮やかに咲く桜の木を収めた「春光」、水槽の中を泳ぐ熱帯魚をとらえた「漆黒」があり、2年前の展示でも公開されていた。

海原

朝来

 動絵画IIは連作の形式になっていて、海原では大型のディスプレー3枚、朝来では小型のディスプレー5枚をディスプレーを横に並べ、それぞれ異なるアングルで捉えた映像を表示。離れて観るとそれがつながって見え、壁の背後にシームレスに広がる風景があることを感じさせる内容になっていた。これらの映像は単にアングルが異なるだけでなく、違和感なくつながり、かつそれぞれの映像の内容に最適な信号処理が細かく適用されているとのことだ。

 表示するディスプレーや撮影するカメラに特別な製品を使わず、信号処理でここまでの表現ができる点を示すデモでもある。同社がこれまでも取り組んできた、人間の脳の感じ方を加味しながら、原信号の持つ情報量を極限まで引き出すことで、一般的な映像では得られない精細感や立体感、そして没入感のある再現をする点は圧巻だった。

春光

 一般的な映像が画素=点によって表現されるのに対して、絵画は筆を使い線として描かれる。動絵画は筆で描くような情報の連続性を動画の再現にも応用したものだという。映像には圧倒的な精細感があり、画素によって構成されたテレビの映像という人工感がない点はひとつの特徴だ。例えば、桜をとらえた春光では花びらのディティール、それが風になびいて動く様がノイズなく細やかに描かれていた。

 また、平面の映像であるにも関わらず、画面の奥に広がる空間、画面の外側に飛び出してくるような迫力ある存在感など、極めて立体的な表現になっている点も特徴だ。面白いのは、正面だけでなく左右から眺めても被写体の位置関係が保たれ、遠近感が損なわれない点。また、近寄って一部分に注目すると、実世界と同様に映像内のどの部分にもフォーカスを当てられる。離れても近づいても、眼前の風景に対する発見がある。そんな圧倒的な臨場感が動絵画展に展示された映像にあった。

 アイキューブド研究所はソニー出身の近藤哲二郎氏が2009年に立ち上げた企業。ソニー時代は1990年代のWEGAに搭載されたDRC(Digital Reality Creation)に取り組み、独立後は、ICC(Integrated Cognitive Creation)、ISVC(Intelligent Spectacle Vision Creation)、ICSC(Interactive-Cast Symbiosis Creation)といった映像処理技術を開発。I3Cとして集大成してきた。そのノウハウの一部はチップ化され、シャープが2013年に発売した液晶テレビ「ICC PURIOS」に採用されたこともある。

 従来のI3Cのデモでは、リアルタイムの映像処理が用いられてきたが、動絵画(Animated Painting)は、映像処理を突き詰めたらどこまで行けるかにチャレンジし、映像ごとに作り込んだものだそうだ。例えば、漆黒ではその名前の通り、暗部に浮きあがる魚や水草の対比が特徴だが、撮影時に入る水槽のガラスへの映り込みなども丹念に消しているという。また、連作の朝来では色調については変えないものの、水面のきらめき、太陽の反射、遠景のディティールなどアングルごとに微妙に異なるソースの条件に合わせて適切な画像処理を加えて、並べた際に違和感が出ない映像に仕上げている。

漆黒。異なる画像処理を加えた3つの映像が展示されていた。

 この映像がどうやって実現されたかは秘密。また、どのような機器に応用される可能性があるかも公表されていない。

 絵画は一般的に作者の目線で世界を切り取るものだ。モチーフを決め、そこに自然に視線が導かれる構図が選ばれ、光や色彩の表現やディティールの描き込みもそれが際立つようにコントロールされている。一方、動絵画は眼前に世界そのものが再現され、鑑賞者は映像の中の見たい場所に注目して観ることができる。その意味では、絵画というよりも仮想現実に近い表現と言えるかもしれない。動絵画は空間との調和をコンセプトにしているが、そこに高い没入感や再現性が加わることで、新しい映像の可能性が出てくるかもしれない。

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