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来春の大規模なガバメントクラウド入札案件に向け、デジタル庁専任チームを直接契約窓口に

日本マイクロソフト、デジタル庁向けに異例の「直販体制」を準備

2021年11月29日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 日本マイクロソフトが、2021年7月に発足したデジタル庁専任チームに「デジタル庁との直接契約の窓口」の機能を持たせる方針であることを明らかにした。2022年4月には大規模なガバメントクラウドの入札案件が見込まれており、これまでパートナーを通じた販売に特化してきた日本マイクロソフトが、デジタル庁の案件に関しては“異例”の直販体制を敷くことになる。

単独取材に応じた日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏

デジタル庁向けに“異例”の直接契約を可能にする体制を敷く

 2021年10月に行われた2021年度のガバメントクラウド入札では、Amazon Web Services(AWS)とGoogle Cloud Platform(GCP)が採択された。デジタル庁の牧島かれん大臣は10月26日の会見で、「クラウドサービスを運営する事業者との直接契約を行うことで、中間業者を介在させる間接契約と比較して、中間マージンなどの費用負担を軽減することも考慮をした」とコメントしている。

 これを受けて日本マイクロソフトでは、今後のデジタル庁に関する入札においても直販体制が前提になると判断。パートナーを介さずに、デジタル庁専任チームを通じて入札を行うことになりそうだ。日本マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター事業本部 デジタル・ガバメント統括本部長の木村靖氏は、「デジタル庁専任チームが窓口となって、直接契約を行うことができる体制を敷く。パートナーに変わって(デジタル庁との)受発注を行うことになる」と説明する。

 「デジタル庁との対話を粛々と進めており、技術面、契約面で(同庁の要望に)対応できるようにしたいと考えている。日本マイクロソフトは創業以来パートナービジネスを展開しており、直接販売は一切行っていない。2022年4月の政府調達に向けては、直接契約に関して、デジタル庁と丁寧に対話をしながら課題に対応していく」(木村氏)

 過去にも国内大手企業から「日本マイクロソフトと直接取引をしたい」という要望が出たことはあったが、その仕組みを構築することが難しく、直接契約を断ってきた経緯がある。ただし、来年のガバメントクラウド入札案件は中央省庁全体や全国自治体のクラウド導入案件にも及ぶ大規模なものになるため、これまでの案件とは異なると判断し、まさに異例ともいえる直販体制を敷くことになる。

日本マイクロソフトのデジタル庁専任チームの役割。さらに直販窓口の役割も果たす

国内データセンターでのサービス拡充、ISMAP登録なども進める

 また現時点では、マイクロソフトのクラウドサービスすべてが国内データセンターから提供されているわけではないが、木村氏は「デジタル庁や各省庁からは、日本のデータセンターだけの環境でサービスを利用したいという要望がある。2022年4月の入札時点では日本のデータセンターでサービスを行っていなくても、ロードマップとして時期を明確に示すことができればいいとは聞いている。基本的には、デジタル庁が活用したいと考えているすべてのクラウドサービスを日本のデータセンターに実装していく形で、善処したいと考えている」と述べた。

 なお日本マイクロソフトでは、2021年6月にISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)の登録を完了した。他社と比べて遅かったものの、Microsoft 365で25サービス、Microsoft Azureで206サービスと、登録サービス数としては最大規模となっている。また東日本リージョンの5データセンター、西日本リージョンの5データセンター、日本からの契約で利用できる全世界41リージョンでも取得が完了している。この部分についても、他社に比べて大きなコストをかけて監査を受け、登録を完了していると言える。

 「2022年春に迎えるISMAPの年次更新もしっかりと進めていく。更新については、最初の登録時のように数が多いために遅れることはないと考えている」(木村氏)

 日本マイクロソフトでは、デジタル・ガバメント統括本部の陣容を約25%増員しているが、この増員分にほぼ匹敵する人員が、2021年7月に発足したデジタル庁専任チームに投入されているという。

 デジタル庁専任チームは、製品に対する専門性を持っている社員だけでなく、クラウドアーキテクトやセキュリティスペシャリスト、エンジニアやアフターセールス担当者などで構成。米国本社との直接窓口を作ることで、機能に対する改善要求に対してもデジタル庁の声をストレートに反映し、いち早く対応できる体制を敷くという。

 「デジタル庁の主要メンバーとも定期的な会合を通じて、マイクロソフト本社が持つ海外の政府DX事例を紹介したり、AIやゼロトラストをはじめとした最新テクノロジーや、、DFFTや国民IDに関わる各国の最新トレンドに関するワークショップ、安全保障に関する情報交換なども実施していく。さらに、GitHubによる内製化支援やアジャイル開発支援を日本で展開していく」(木村氏)

 マイクロソフトでは、主要なユーザー企業に対してはグローバルアグリーメント契約を結び、本社開発部門と直接情報交換を行う体制や、専任の営業およびサポート体制を敷いており、日本でもトヨタ自動車などがその対象となっている。デジタル庁との契約に関しては、この契約を超えるような形で特別な体制を敷くことになりそうだ。

 「製品ロードマップの提供やトラブルシューティングへの対応なども行っていく。米本社側にも専任の担当者を配置するなど、デジタル庁からの要望を踏まえて柔軟な形で対応し、新たな提案を行っていきたい」(木村氏)

GovTech分野の新たなプログラム、「Microsoft Base」での取り組みも

 一方、GovTech(政府自治体向けテクノロジー支援)の新たな施策として、地方自治体のDX推進をスタートアップ企業とともに支援する「Microsoft Enterprise Accelerator GovTech」プログラムを開始する。

 これは全国1700以上の自治体を対象に、行政のデジタル変革や、地域のDXに取り組む自治体を支援することを目的にスタートアップ企業と協業するもの。自治体に対するAIなどの最新テクノロジーの導入支援を行う。

 現時点ではMaaS Tech Japan、エーティーエルシステムズ、Momo、エムティーアイ、VOTE FOR、ヘッドウォータースの6社が参加。今後、参加パートナーを拡大していくほか、これら企業との共同提案や共同マーケティングも実施する。

Microsoft Enterprise Accelerator GovTechの参加企業

 Microsoft Enterprise AcceleratorプログラムはすでにFinTech(金融向け)、InsurTech(保険業向け)が先行スタートしており、成果も上げている。

 日本マイクロソフト デジタル・ガバメント統括本部 インダストリーアドバイザーの藤中伸紀氏は、GovTech分野でスタートアップと協業する意味合いを次のように説明する。

 「金融分野向けのブログラムでは、目的や用途がはっきりしており、プロダクトをパッケージ化しているスタートアップ企業の参加が多い。一方でガバメント分野は、技術はあるが製品化まで至っていなかったり、行政のなかでは役立ちそうだが提案のきっかけを持ていなかったりというケースが多い。技術を持っているスタートアップ企業と、イノベーションのケーパビリティを活用して、新たな提案に乗り出したい地場パートナーなどとの連携によるエコシステムづくりを推進したい」(藤中氏)

 また木村氏は、全国の自治体が業務の中で同じ課題を抱えており、その課題解決やDX推進においては「面で展開する必要がある」と述べ、地場のパートナーやスタートアップとの連携が重要であるという認識を示した。

 「岸田首相が掲げる『デジタル田園都市国家構想』の実現においても、スタートアップ企業の活用が盛り込まれており、自治体、スタートアップ企業、日本マイクロソフト、地場パートナーが一緒になって、課題を解決し、これを横展開できるエコシステムを構築したい」(木村氏)

 また、日本全国に展開している物理拠点「Microsoft Base」を活用した自治体向け提案も加速する。Microsoft Base Kanazawaを運営しているシステムサポートでは、日本マイクロソフトとともに、金沢市との包括連携協定を2020年11月に締結。金沢市が設置した有識者会議には、日本のマイクロソフトの伊藤かつら執行役員がアドバイザーとして参加し、金沢市のデジタル戦略を支援したり、デジタル人材の育成などで成果を上げている。

 金沢市の山野之義市長は「2021年3月に金沢市デジタル戦略を策定し、『誰ひとり取り残さないデジタル戦略都市・金沢』を目指している。その実現に向けては、職員一人ひとりの情報リテラシーを高めることが大切だ」と述べる。金沢市の一般職員2000人を対象とした2年間に渡るデジタル研修を実施し、そのうち20~40代を中心とした100人にはおよそ200時間のデジタル行政推進リーダー育成研修も実施したという。初年度は各部署のデジタル行政推進リーダー(20人)を市長が直接任命。さらに、DXアドバイザー、DXスペシャリストといった専門職員も育成している。

 日本マイクロソフトの藤中氏は「金沢市では、将来目指すべきデジタル人材像を策定することからスタートし、デジタルスキルだけでなく、変革コンピテンシーを持った人材を育成することも目指している点が特徴だ」と説明する。Power Platformを活用したローコード/ノーコード開発による住民サービスの実現にも着手しており、そのプロトタイプとして「セーフティ通学路マップ」「町会マッチングシステム」を、職員が半年間で完成させたという。

 「サービスデザイン思考により、住民目線で行政の課題を再定義し、部門横断で取り組めるアイデアを、プロトタイプにして実証を行うという取り組みも開始している」(藤中氏)

金沢市における住民サービスのローコード/ノーコード開発事例

 そのほか、総務省が2020年12月に改定した「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に基づく「三層の対策(マイナンバー利用事務系/LGWAN接続系/インターネット接続系)」へネットワーク環境移管が本格化することへの対応、DX人材強化への支援、データ利活用に向けた国内外事例紹介などを通じて、データ利活用基盤の提案なども行っていく姿勢だ。

 「自治体向けには、パートナーとの連携強化が重要になる。自治体の強靭化に向けて、クラウド利用の促進、Office 365の活用提案、総務省との連携強化による自治体のフォローアップなどに取り組みたい」(木村氏)

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