SORACOM Tech Days 2021キーノートは「壁の越え方」
ミクシィ村瀬氏とクレディセゾン小野氏が語る、これからのエンジニアと組織
バイモーダル組織、HRTの原則、伴走型内製開発
もう1つの大きなトピックが、小野氏がセゾン情報システム時代から手がけてきたバイモーダル戦略の推進だ。これは安定した開発を重視するモード1の組織と、迅速性を重視するモード2の組織をいかに協調させていくかという方法論と実践になる。
ウォーターフォール型開発、集中管理を重視するモード1はしばしば武士に例えられる。鎧をまとっているため武器に対しては強いが、動きは遅いという意味だ。一方、スピード重視で分散管理志向のモード2は、忍者に例えられる。「安全性はモード1、スピードはモード2。でもよく勘違いされるのは、モード1は終わったわけではないこと。金融の会社であるわれわれにとってモード1は絶対に必要。モード1をリスペクトしながら、モード2を取り入れるのが重要」と小野氏は指摘する。
もちろん、こういったバイモーダルが容易に実現すればよいが、両者は概して水と油で喧嘩しがち。モード1の人から見ると、「モード2の人はチャラチャラしている。画面をのぞきこむと、だいたいFacebookにいいねしているか、Slackでチャットしている(笑)。だいたい茶髪だし、うちの社風に合ってない」となる(らしい)。一方で、モード2の人からモード1の人を見ると、「頭が硬くて、上の人の話は絶対で、遅いし、慎重だし」となる。お互いのいいところが欠点のように見えてしまい、なかなかうまくなじまない。
両者をうまく共存させるために必要なのが、グーグルなどでも採用している「HRTの原則」だ。HはHuminityで謙虚さ、RはRespectで敬意を払うこと、そしてTはTrustで信頼すること。コミュニケーションにおいて、この3つを守れていれば、モード1とモード2は共存できるという。「ソラコムの話で言えば、ハードウェアとソフトウェアは同じエンジニアだけど、文化が全然違う。異なるモノを融合して行くと、必ず文化的な対立が起きる。こういう文化的な対立の多くには、このHRTの原則が当てはまると思う」と小野氏は指摘する。
実際、クレディセゾンのIT部門はモード1、モード2、どちらの案件にも対応可能な「グラデーション組織」として構成している。「ビジネス部門から来た案件で、ものすごく信頼性が重要な場合は、モード1カルチャーを組織を編成しますし、やってみないとわからないキャンペーンやスマホアプリのような案件は、モード2的なカルチャーでアジャイルに進めます」と小野氏は説明する。
また、開発に際しても伴走型内製開発を重視し、作る側のデジタル部門と臨む側のビジネス部門を完全に融合させる。ビジネスデジタル人材といっしょに業務を見せてもらい、なにを作るべきかを仲間として見定めて作っていくという。小野氏は「内製で作っているのでおおむねソフトウェアのコストは半分以下。自分たちに必要なシステムを見定めているので、社内でも好評」と語る。さらにCX施策に関しても、顧客の声を聞きながらアジャイル開発のサイクルを回している。最近ではサービス設計はもちろん、クレジットカードのデザインまで内製化しているという。
前者の村瀬氏がおもにエンジニア、後者の小野氏がおもに組織にフォーカスした内容だったが、両者に共通しているのが、今まで経験していない技術や人とうまく付き合うために、どのように壁を越えるか。IoTに関わりのないエンジニアにとっても有意義なセッションだったと思う。