データがとれない、機器が壊れたなどのトラブルを乗り越えて
すいか栽培の温度管理や土壌測定にSORACOMを使ってみたら?
農業IoTにフォーカスしたSORACOM UG Online #7。2番手として登壇した知野雄二さんは「すいか農園期」というタイトルですいか農園でのIoT活用事例を披露した。うまくデータがとれない、機器が壊れたといったトラブルもあったが、3年間の取り組みで遠隔管理のメリットをきちんと得られるようになったようだ。
まずは育苗ハウスの温度管理からスタート
登壇した知野雄二さんは長野県長野市に在住しており、日本システム技研という会社でWebエンジニアとして働いている。今はSORACOM UG農業活用コミュニティのコアメンバーとなっているが、もともとは知野さんは農業と関わりはなく、今回の事例でハードウェア開発を手がけたぶどう狩り農園の観光農園「雅秋園」園主の浦野さんが関わるきっかけを作ってくれたという。
さて、今回IoTを導入したのは長野県松本市にある「土肥農園」だ。規模は育苗ハウスが1つ、畑が5つ(すいか畑が4つ、野菜畑が1つ)。ここでとれるすいかは「どすいか」と呼ばれているとのこと。2月ぐらいから育苗ハウスで苗を育て、春に苗を畑へ定植させ、7・8月頃に収穫するというのがすいか栽培の大まかな流れ。ちなみに土肥農園ではすいかのシーズンが終わると、秋野菜も出荷している。
2019年は、このうち育苗ハウスの温度管理からスタートした。育苗は温度管理が重要で、15~30℃を保たないと、すぐに葉が黒くなってしまう。そのため、Sens'it V2という通信可能なセンサー内蔵デバイスを育苗ハウスの1つに設置し、取得したデータを送信してSORACOM FunnelからAWS IoT Coreへ。温度はWebから監視できるほか、しきい値を超えたらLINEに通知される。
結果、2019年のシーズンではセンサーの精度も問題なく、育苗ハウスの温度を感知することで、他の作業を安心してできることがわかった。「定期的に見にいっていたけど、その手間がなくなった。寒い時期にヒーターをつけてないことにも気づけたという声をいただいた」と知野さんは振り返る。
ただ、残念ながらSens'it V2は故障してしまった。というのも、育苗ハウス内は湿度がほぼ100%になるのだが、Sens'it V2は防水でなかったからだ。ナイロン袋に入れたり、サランラップを巻いてみたが、結局壊れてしまったという。路地でも結露で水が溜まるのでやはり要注意。さらにバッテリがいったん切れると送信開始されるまで時間がかかるため、一定の数値を下回ったら充電する必要があったという。
翌年は畑の温度管理や土壌管理にもチャレンジ
2020年は温度管理を行なう育苗ハウスの数を増やすべく、センサーの値をTWE-LITEで飛ばすことにした。TWE-LITEは小型・省電力でありながら、長距離の通信が可能な通信デバイス。防水対策でタッパに収納したTWE-LITEからいったんゲートウェイとなるラズパイにデータを送り、そこからSORACOM Funnelへ。バックエンドのシステムは昨年と基本的に同じだ。
ただ、夜になると温度がときどきクラウドへアップされていないという事象が発生した。これは防寒対策のために、夜は昼間よりハウスにかぶせるものが増え、TWE-LITEの電波強度が落ちてしまったことが原因だという。そのため、今までセンサー本体含めて育苗ハウスに入れていたが、温度計のみをハウスに入れるようにした。
2020年は畑の温度管理にもチャレンジした。寒い日や霜が怖いため、ビニールトンネルを開閉する必要があるのだが、約80列と数が多いため、とにかく開閉が面倒だった。しかも、複数の畑で、それぞれに高低差があるため、気温も変わってくる。そのため、すいかを育てているビニールトンネル内の温度を管理し、開閉が必要かを判断したいというのが今回の要件だ。
こちらはあまり湿度が高くないので、畑に1つの割合でSens'it V2を設置し、温度を測ることにした。ビニールハウスでの直射日光を防ぐため、Sens'it V2に傘をかぶせて設置するといった工夫も行なったという。
さらに、ビニールトンネルでは土壌のPF値も取得するようにした。こちらはWio LTE JP Version+Wio Extension、RTC(リアルタイムクロック)、モバイルバッテリを組み合わせてボックス化して、PF測定機と接続した。
ただ、常時起動しているとあっという間にバッテリがなくなってしまうため、RTCで1時間ごとに起動、クラウドにPF値をアップ>電源OFFを繰り返すようにしたという。また、試運転中には高温でモバイルバッテリの温度保護が働いてしまい、電源が落ちてしまうことがあった。そのため日射を遮るカバーを付けて、ボックス内の温度を測るように改良したという。
2020年のシーズンとしては育苗ハウスも畑もおおむね順調に稼働。「自宅と畑、畑同士も離れているので、遠隔監視により、別のところを確認しながら今の作業をできるようになった。また、今まで経験値でやっていたことが、数字を見られるようになり、根拠を持って水やりやビニールトンネルの開閉ができるようになった」というフィードバックを得られたという。
「去年よりおいしいのができたよ」の声が聞きたくて
2021年は要件は変わらないため、基本的には2020年をアップデート。今シーズンは通知のしきい値設定をWebサイトから行なえるようにしたので、土肥さん自身がいろいろ調整できるようになったのがメリットだ。
ただ、土壌センサーに使っていたWio LTE採用のボックスはRTCが故障したせいか、久しぶりに起動したら、電源がオフにならない不具合があったという。昨年の2台をそのまま利用したが、結局元に戻らず、RTCボートを交換することで復帰したという。ちなみに、質疑応答では、RTCが動かなくなった件について、「RTC自体の電池切れでは?」という有力情報がもたらされた。
今年に関しては、フィードバックはこれからだが、「去年よりおいしいのができたよとか言われたらうれしい」(知野さん)とコメント。既製品やIoTデバイスを使ったり、組み合わせることで、位置から作成するより、労力も少なく、スピード感をも導入試せるとまとめた。