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前田知洋の“マジックとスペックのある人生” 第149回

2021年、最新の詐欺の手口をマジシャンが解説

2021年09月07日 16時00分更新

文● 前田知洋 編集●ASCII

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「人をだます」手口には共通することがある

 筆者の趣味は「世界中の詐欺の手口を研究すること」。マジックという「人をだます職業」をしているので、一応は仕事の範疇でもあります。

 詐欺の歴史や多くの手口を調べていくうちに、詐欺に共通する2つのことに気がつきました。1つは「人はみんなだまされやすい」ということを、だます側が理解していること、もう1つは「自分だけがラクしたい」「得をしたい」など、誰もが持つ欲求を利用していること。後者のパターンでは、「誰かを助けたい」という親切心を巧妙に悪用した詐欺もあります。

 そんな理由から、詐欺の被害に合わないベストな解決法は「すべての欲求を捨てること(無欲になること)」なのですが、それは筆者を含めて、なかなか難しいのが正直なところでしょう。だからこそ、昔も今も詐欺はなくならず、僕らにできるのは、冷静に考えたり、あらかじめ対処法を知っておいたりすることだと筆者は信じています。

 今回は、そんな詐欺でも「これは新しい手口かも」と筆者が感じた最新版の詐欺をピックアップして、その対処法を合わせて紹介してみます。

タイムリーな話題を利用する:
ワクチン予約詐欺

 ここ最近のタイムリーな話題の一つに、新型コロナワクチンがあります。そんな中で報告されているのは、SMSなどを使い、ワクチン接種の予約申し込みサイト(偽装サイト)に誘導し、生年月日などの個人情報を入力させる、フィッシング詐欺と呼ばれる手口です。

 「個人情報だけで被害になるの?」と疑問を持つ方もいるかもしれませんが、スマホなどの端末情報を盗むフィッシング詐欺の被害額は、過去一年の220億円と推定されています。

対処方法:「荷物をお届けしましたが、不在でした」など、宅配業者になりすましたフィッシング詐欺も同じですが、「SNSに表示されたリンクを押さないこと。もし確認したければ、SNSなどに記載された、企業や、自治体などに問い合わせてみる」が一番確実です。面倒にも思えるかもしれませんが「急がば回れ」は詐欺に遭わないための名言でもあります。

 マジシャンがセリフを作ったり、演出を決めたりするとき、よく使うのがタイムリーな話題をモチーフにすること。たとえば「今日、この会場に来るときにスリに遭ってしまい……」というセリフは、多くの観客を惹きつけたオランダのマジシャン、トミー・ワンダーの名文句です。「今、起きていること」を観客と共有して、自分の世界に引き込むのです。

マジックでも、人を惹きつけやすい身近なセリフや道具を使う。写真は名刺を使ったトリック

現代版「うまい話がある」:
支援金、給付金詐欺

 この詐欺も、最初に紹介した詐欺と同じ、タイムリーな話題を利用した詐欺です。さらに非常事態宣言などで「みんなお金に困っている」という状況との合わせ技ともなっています。

 手口としては「給付金が支給されます」というメールやSNSを送って、記載された番号に電話させたり、偽の申請サイト(偽装サイト)に誘導したりする方法。ATMに誘導して銀行口座からお金を振り込ませる手口もありますのでご注意を。

対処方法:メールでもSNSでも、そんな連絡があったら無視をするのが一番。「もしかしたら、もらえるかも」と思うなら、まず関係省庁、警察などに相談してみること。

 マジックでも、古くから、お金が消えちゃうマジックより、お金が増えるマジックのほうがウケるんですよね。

キャッシュレス時代の犯罪:
PayPayの支払い音を偽装

 いや〜、この詐欺事件の報道を聞いたとき、「その才能を、もっとクリエティブな別のことに使えばいいのに……」と残念に思いました。この詐欺の手口は、コンビニなどでの会計時に、スマホから偽の決算音を鳴らし、店側をだます方法です。

 これを読んで、初めてその手口を知った方も、うっかり「おもしろそう」などと思わず、「バカだなあ、防犯カメラなどですぐ捕まっちゃうのに」と客観的に判断し、悪の道に身を落とさないことを願っています。

対処方法:店などを運営している方は、必ず決済音だけでなく、決済画面のご確認を忘れずに。レジに防犯カメラの設置も、犯人逮捕や犯罪の抑止力に有効です。

 マジックの世界でも、トリックを考えた本人が「すごいアイディア!」だと思ったとしても、あとで考えたら「ダメなアイディアだった……」なんてことは、筆者を含めて日常茶飯事なのです。

新聞などにのるなら、事件ではなくクリエイティブなことのほうがいい

在宅生活を狙い撃ち:
リモートアクセス詐欺

 在宅ワークやネットショッピングなど、PCを使う機会が以前より増えています。詐欺師は、そんなニーズや環境変化を利用して、ユーザーが使うPCが「ウイルスに感染している」と誤解させたのち、PCのサポートを偽って、OSのリモートアクセス機能をオンにさせたり、リモートアプリをインストールしたりすることを促します。

 その後の展開は大別すると2種類あり、クレジットカードを使ってサポート料を詐取するものと、ユーザーのPCにマルウェアなどを仕込み、クレジットカード番号や、オンラインバンキングなどのIDとパスワードを詐取するものに分かれます。

 この手口そのものは数年前から存在しましたが、オフィスとは異なり、在宅生活という同僚に相談しにくい環境を狙って急増しています。コロナ禍で外出が減り、オンラインになっている人が増えた状況を狙い撃ちしているのです。

対処方法:PCへのウイルス感染が疑われたら、まずはネット検索をしてみたり、PCメーカーやセキュリティソリューションのメーカーなどへ質問したりすること。エラー画面に表示された電話番号ではなく、メーカー公式が掲載している番号にかけることが肝心。

 マジシャンから見ると「自分はだまされない」と信じている観客は、意外にだますのが簡単です。「自分は頭がいい」と信じている人もリスキーでしょう。聡明な人は「人間はだまされてしまう弱さがある」と思っているものです。

プラットフォーム内でのリンク付きコメントに注意:
ゲームや動画配信のフィッシング詐欺

 オンラインゲームにあるチャット画面を悪用した詐欺が増加中です。スクウェア・エニックスも今年8月に、MMORPG「ファイナルファンタジーXIV」内でフィッシング詐欺が増えていることを注意喚起しています。

 その手口は、ゲーム内のチャットで偽のサポートセンターや偽の公式サイトに誘導。その後に、IDやパスワード、生年月日を要求するという方法です。

 また、ゲーム配信サイトのSteamのサポートを名乗る人物から「お金を振り込まないと、永久にBANされる(凍結される)」と警告されたり、Steamの購入履歴を求められたりする手口も報告されています。

 これは、Steamでは、パスワードを忘れた場合、購入履歴からパスワードを変更できる機能を悪用した詐欺。「趣味のゲームができなくなってしまうかも」という不安を利用した悪質な手口ですので、ゲーマーの皆様はご注意ください。

 この詐欺のバリエーションとして、動画配信ライブのコメント欄から詐欺サイトに誘導する手口もあります。閲覧者もそうですが、配信者はそんな詐欺リンクを残さないようにコメントチェックをすることが必要になってきました。

対処方法:そんなメッセージが送られてきたら、まずサポート窓口に連絡してみる。もし、海外のゲームで日本語でのサポートがなくても、日本人プレイヤーが集まる掲示板やWikiが存在する場合があり、そこで他のプレイヤーに相談してみるのも手。

 マジシャンもそうですが「相談できる相手がいる」というのは、人生をを歩んでいく上で大切なこと。それは、どんな仕事でも同じかもしれません。

友人や知人に相談にのってもらったら、お礼を忘れずに

知らないうちに犯罪に巻きこまれる:
暗号資産口座の売買

 今年の7月、京都府警サイバー犯罪対策課と山科署は、「仮想通貨(暗号通貨)の口座を不正に開設、他人に売却した詐欺容疑」で契約社員の男を逮捕しました。ご存知のように、暗号通貨の口座は匿名性が高く、犯罪に使われやすいものです。その口座にはハッキングされた銀行口座から約40万円が振り込まれたことから事件になりました。

 どんどん手軽になっている暗号資産口座の開設ですが、それを他人に譲ったりするのは規約違反であり、不法行為。上で取り上げた詐欺の振込先などにも、暗号資産口座が使われることが増えてきています。

 銀行口座の譲渡も同様に重罪です(犯罪収益移転防止法。詐欺罪に問われることもあります)。そればかりか、銀行で新規口座が作れなくなったり、使用中の口座が凍結されたりするリスクもあるので、絶対ダメ。

対処方法:「知らないうちに詐欺に加担してしまうこと」は身近に多くあります。「行動の前に調べてみる」。これが、トラブルに巻き込まれない1番の方法かもしれません。

 「簡単にできる」と「やってもいい」は別のこと。テレビや動画サイトなどで見たマジック、「自分もできそう」と思ったとしても、マネして動画配信サイトなどで公開してしまうと、誰かの知財を知らないうちに侵害しているかもしれない。そんなふうに慎重に考えることが大切です。


 

 さて、今回の特集はいかがでしたでしょうか。昔のマジシャンは燕尾服を着て、ステッキ、すなわち「杖」を持っているのが定番のスタイルでした。この特集が皆さまの「転ばぬ先の杖」になることを心から願っております。

前田知洋(まえだ ともひろ)

 東京電機大学卒。卒業論文は人工知能(エキスパートシステム)。少人数の観客に対して至近距離で演じる“クロースアップ・マジシャン”の一人者。プライムタイムの特別番組をはじめ、100以上のテレビ番組やTVCMに出演。LVMH(モエ ヘネシー・ルイヴィトン)グループ企業から、ブランド・アンバサダーに任命されたほか、歴代の総理大臣をはじめ、各国大使、財界人にマジックを披露。海外での出演も多く、英国チャールズ皇太子もメンバーである The Magic Circle Londonのゴールドスターメンバー。

 著書に『知的な距離感』(かんき出版)、『人を動かす秘密のことば』(日本実業出版社)、『芸術を創る脳』(共著、東京大学出版会)、『新入社員に贈る一冊』(共著、日本経団連出版)ほかがある。

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