実ゲームではZen 3世代が抜きん出る
では、実ゲームベースのベンチマークに入ろう。まずは「Rainbow Six Siege」で検証だ。APIはVulkan、画質“最高”をベースにレンダースケール100%を追加、解像度はCPUの差が出やすいようにフルHDのみとした。ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。
RX 6800 XTの性能が高く、かつRainbow Six Siege自体の描画負荷が軽いため、最も世代の古いRyzen 5 1600Xでも平均270fps以上出すことができるが、最新の5600Xと比較すると、平均fpsで263fpsも変わっている。
この263fps差というのは前回のRyzen 7比較の時の差と全く同じだが、実のところRyzen 7系と5系でRainbow Six Siegeのフレームレートは数fpsしか変わらないため、Ryzen 5でも全く遜色のないゲーム環境になり得る。もちろん、ゲームの裏でOBS StudioのCPUエンコードやDiscordでの通話などを始めると、Ryzen 7や9の方が安心確実なのは確かだ。
重量級ゲーム「Assassin's Creed Valhalla」ではどうだろうか。画質“最高”、1920×1080ドットに設定し、ゲーム内ベンチマーク機能を利用してフレームレートを計測する。
上位トップ2のフレームレートが高いのは、CPUの処理効率が高いほかに、Resizable BAR対応が効いていることも関係している。前回のRyzen 7比較ではZen 2→Zen 3の差はほぼゼロに近かったが、今回はややRyzen 5 3600Xの平均フレームレートが下がっている。コア数が少なくクロック控えめなRyzen 5では、CPUの世代間の力量差がより出やすくなったといえるだろう。
Zen+→Zen 2で大きな開きがあるので、ゲーム目的のPCであるなら、最低でもZen 2世代のRyzenを載せておくべき、と言うこともできる。
全体の消費電力に大きな差はついていないが……
最後にシステム全体の消費電力をラトックシステム「RS-WFWATTCH1」を利用して計測した。システム起動10分後の安定値を“アイドル”、「OCCT Pro v.8.1.1」の“OCCT”テスト(Extreme)を10分動かした時のピーク値を“OCCT”としている。
検証環境で示した通り、Zen世代のRyzen 5 1600XのみB450Mマザー、他はX570マザーで動かしているため、回路構成やオンボード装備による消費電力の差は若干ある点はご承知おきいただきたい。今回最も消費電力が高かったのは、Zen+世代のRyzen 5 2600Xであり、続いてZen世代の1600X、Zen 2の3600Xと続き、現行Zen 3世代の5600Xはトップより50W近く消費電力を下げている。
Ryzen 7比較の時はRyzen 7 5800Xは3800Xを上回り4モデル中2位(トップはZen+の2700X)だったことを考えると、CINEBENCH R23を始めありとあらゆる検証でトップ成績を収めているのに消費電力がダントツに低い、Ryzen 5 5600Xの優秀さが際立つ結果になった。
消費電力がここまで低いのはRyzen 5 5600XのみTDP65W設定だからといえばそれまでだが、TDPという足枷がありながら旧世代を圧倒するパフォーマンスを出せる5600Xは、まさに今期の最高傑作と言って間違いない。
この消費電力テストの実施中に、各CPUのクロックや温度等がどのように推移しているかも確認しておこう。計測ツールは「HWiNFO Pro」を利用している。まずはAverage Effective Clockの推移から。
一般的にCPUの消費電力とクロックは相反する関係にあるが、今回のRyzen 5対決では消費電力の最も低かったRyzen 5 5600Xが最大4.25GHz、安定値でも4.15GHz前後と最も高い値を示した。2番手はRyzen 5 3600Xで、安定値は4.1GHz前後、3番手以降は4GHz、3.7GHzと世代を遡るごとに順調に下がってゆく。
Ryzen 5 1600Xを除く3CPUのクロックが小刻みに変動しているのはPrecision Boost 2のほかにXFR 2等のブースト要素が加わっているためだが、Ryzen 5 5600Xはかなり小刻みにクロックを変動させて調整していることが読み取れる。
OCCT中の電力的なパラメーターもチェックしてみよう。次のグラフはCPUがどの程度の電力を消費したかを示すPPT(Package Power Tracking)の推移だ。
ここで最も高い値を示したのが、システム全体の消費電力も高い値を示したRyzen 5 2600Xで、テスト終盤には111W前後を推移していた。逆に一番消費電力の低かったRyzen 5 5600XはPPTも一番低く、約76Wでずっと安定している。残り2つのCPUはどちらも84W前後になった。TDP65WのCPUは最大88WまでPPTを使える仕様だが、Ryzen 5 5600Xはそれをかなり余裕をもった状態で運用しているようだ。
次のグラフはOCCT実行中のCPU温度(Tctl/Tdie)の推移だ。CPUクーラーは前述の通り280mmラジエーターを備えた簡易水冷に統一している。
最も温度が高くなったのは初代Zen世代のRyzen 5 1600Xであり、続いてZen 2世代のRyzen 5 3600X、消費電力の一番大きかった2600Xが3番手、最も温度が低めで安定していたのは消費電力が最も小さい5600Xとなる。
特にRyzen 5 3600Xと5600Xの間には10℃以上の差が出ており、TDP95W→65Wに絞ったことによる劇的な温度低下が確認できた。TDP105WのRyzen 7 5800Xが熱的に気を遣うのに対し、65Wの5600Xは圧倒的に扱いやすい、ということがこのグラフからもうかがえる。
まとめ:Ryzen 5 5600Xの異次元の強さを再確認
各ベンチのパフォーマンスでは、最新世代のCPUほど性能が良い、という至って順当な結果が得られたのだが、Ryzen 5 5600Xは消費電力も圧倒的に小さく、しかもそれほど熱くならないというのも分かった。この手の検証では、性能向上のぶん消費電力や発熱量も増えてしまうという〆になることが多いが、ことRyzen 5 5600Xに限っては、ケチの付けようのない結果となった。
Zen 3世代のCPUは優秀であるが、その中でもRyzen 5 5600Xは飛び抜けて完成度が高い。Zen 3世代のコアをベースにしたAPU(Ryzen 5000Gシリーズ:開発コードはCezanne)が出れば、低価格PC自作に新たなRyzen旋風が巻き起こることは間違いないだろう。
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