ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第612回
Ryzen 5000GシリーズはRocket Lakeを大きく引き離す性能 AMD CPUロードマップ
2021年04月26日 12時00分更新
AMDは4月13日、「ひっそりと」Ryzen 5000G Desktopを発表した。「ひっそりと」とは要するにプレスリリースすら出ていないという意味で、発表会なども当然ない。それもあってハッチセンパイも軽いニュースにまとめている程度なので、もう少し掘り下げて説明したい。
Ryzen 5000Gシリーズのコアは
全製品Cezzanne
今回発表の製品は下表に示すようにRyzen 7/5/3で各2製品づつ、合計6製品となる。連載597回で説明したように、モバイル向けの場合はZen 3ベースのCezanneとZen 2ベースのLucienneが混在しており、モデルナンバーの上位2桁が偶数ならCezanne、奇数ならLucienneという形になっており、このルールに沿うと今回の製品はRyzen 7とRyzen 3がLucienne、Ryzen 5がCezanneということになってしまう。
Ryzen 5000G Desktopのスペック | ||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
モデルナンバー | CPUコア/ スレッド数 |
3次キャッシュ(MB) | 動作周波数(GHz) | GPU | メモリー | PCIe | TDP(W) | |||
Base | Max Boost | コア数 | 動作周波数(GHz) | 定格 | cTDP | |||||
Ryzen 7 5700G | 8/16 | 16 | 3.8 | 4.6 | 8 | 2.0 | DDR4-3200×2 | PCIe Gen3 | 65 | 45-65 |
Ryzen 7 5700GE | 8/16 | 3.2 | 4.6 | 35 | ||||||
Ryzen 5 5600G | 6/12 | 3.9 | 4.4 | 7 | 1.9 | 65 | 45-65 | |||
Ryzen 5 5600GE | 6/12 | 3.4 | 4.4 | 35 | ||||||
Ryzen 3 5300G | 4/8 | 8 | 4.0 | 4.2 | 6 | 1.7 | 65 | 45-65 | ||
Ryzen 3 5300GE | 4/8 | 3.6 | 4.2 | 35 |
ただ実際にはこのルールはモバイル向けのみであり、デスクトップ向けは全製品ともCezanneで統一されたのは喜ばしい。ただこうなると、Lucienneコアの存在意義がさらに不明なものになっている。連載600回で書いたようにRenoirとLucienneは物理的に異なるダイであり、ということは(今のところ)モバイル向けだけのために、わざわざ新規のダイをCezanneとは別に起こした格好になる。
もちろん今後組み込み向けなどに流用される可能性はあるし、あるいはデスクトップ向けに今後追加される可能性もゼロではない。AthlonグレードがLucienneベースになるなんてことは、ありえそうなシナリオだ。
ちなみに連載597回のロードマップ図であるが、一ヵ所訂正がある。図ではCezanneベースのRyzen 5 5600UのL3容量を12MBとしているが、実際のスペックでは16MBとなっている。連載597回の図は正式発表前のものなので、多少現実のものと異なっていたのはご容赦いただきたいと思う。
ラインナップとしてはTDP 65WのものがRyzen 3 5300G/Ryzen 5 5600G/Ryzen 7 5700Gで、こちらはConfigurable TDPで45~65Wに変更可能である。一方TDP 35WなのがRyzen 3 5300GE/Ryzen 5 5600GE/Ryzen 7 5700GEで、こちらはConfigurable TDPの設定がない。GEは35Wという消費電力からわかる通り省スペースや小型などの熱設計が厳しい用途向けで、一般向けはTDP 65WのGになる。
対抗馬となるのは本来ならばインテルのRocket Lakeということになるが、今回AMDが用意した比較は前世代のComet LakeベースのCore i7-10700Kとのものだった。もっともRocket Lakeとの比較はけっこう難しい。なにが難しいかというと、明らかにRocket Lakeの方が圧倒的に消費電力が多いからで、それを無視して絶対性能だけで比較して良いのか? というのはかなり疑問ではある。
とはいえRocket Lakeで消費電力を落とす方法がない(BIOSセットアップでPL2/PL3も全部PL1と同じにしてしまう策はあるが)し、そこで消費電力を無理やり落とすのは果たして比較として正しいのか? という疑問もある。その意味では、Rocket Lakeに比べればまだ穏当な消費電力(それでもRyzen 5000G Desktopの倍近いが)なComet Lakeと比較するというのは、意味がないわけでもなさそうだ。
個人的な感想で言えば、そもそもTDP 35W枠のはずのTモデル(例えばCore i7-11700T)が、実際にはPL1こそ35Wなものの、PL2はBase 84W/Perf 115Wという化け物じみた設定になっているらしいことを考えると、そもそも公平な性能比較とはなんだろう? という気分になってくる。
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