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バイデン政権、“猛スピードの政策転換”を支えるもの

2021年04月14日 06時00分更新

文● 西岡純子(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

バイデン大統領、「米国雇用計画」発表
コロナ対策と異なる意味合い

 就任から約3カ月、新型コロナウイルスの追加対策など、矢継ぎ早に政策を打ち出してきたバイデン大統領だが、3月31日に発表した「米国雇用計画(“The American Jobs Plan”)」と銘打った政策は、コロナショックの打撃を受けた人々や中小企業への所得補填を目的としたこれまでの政策とは意味合いが異なる。

 この先、複数年を対象としたインフラ投資計画などをも盛り込んだ政策で、長期の視点に立った米経済の強靭化計画の本格始動といってもいい。

 長く新自由主義思想の下、市場競争やグローバル市場を舞台に活動する企業への優遇などを進めてきた政策理念を、積極財政政策で国民経済の活性化を中心にしたものに変えようとするものだ。

2兆ドルのインフラ投資
国内産業強化や社会保障拡充

 バイデン大統領は、31日に公表したインフラ投資の拡充を軸とした政策について、「米国雇用計画の前半」と述べた。

 つまり計画には後半も用意されており、今月中に公表される予定だ。

 雇用計画の前半は、総額2兆ドル超の規模で、公共インフラ投資に加え、産業の活性化を見据えた通信網5Gの拡充や製造業の競争力の強化など産業政策を軸に構成されている。

 そして、後半は社会保障の充実などをテーマに中低所得者層の生活水準の引き上げが軸になる、という。

 連邦政府の債務残高は、コロナ対策で昨年3月から6兆ドル近く(GDP比3割弱)まで膨らんでいる。GDP比では100%を超えるが、大統領は今回の総額2兆ドルのインフラ投資などに加え、さらなる財政拡大に含みを持たせる。

 米国雇用計画を2つに分けたのは、来年の中間選挙までまだ時間的余裕がある中で、国民の受け止めや支持の状況を見ながらという思惑もあるのだろう。

 大胆な拡張的財政政策の根底には、バイデン政権の政治的理念がトランプ前政権など、このところの共和党政権のものから大きく変わっていることがある。

格差や分断への対応重視
トランプ時代と大きく違う政治理念

 新自由主義思想の下90年代以降、本格化したグローバリゼーションで、米経済は金融やITを中心に世界のトップを維持してきたが、その一方で製造業を中心にした産業や地域は、中国を筆頭にした新興国からの輸入品の急増で競争力は低下し、地域は疲弊した。

 トランプ前政権の4年間では、自国経済の立て直しよりも、関税引き上げなどの保護主義を徹底し、中国との対決姿勢を鮮明にする一方で、企業や富裕層に対しては大規模な減税を行った。

 こうした政策は結果として、コロナショックが起きる前までは、低失業率と株価の上昇をもたらしたが、その過程で所得格差や社会の分断がより深刻化した。

 バイデン大統領が政府債務の増加にもかかわらず積極財政政策で国内投資を優先するのは、こうした社会構造問題への対処を重視する政治理念からだろう。

 トランプ前大統領は関税引き上げや「壁」建設による移民の流入を抑えることで、グローバル化によって職を失ったり賃金が下がったりした中低所得層の支持を得たが、企業や富裕層向け減税などの国内の格差や分断を助長する政策は変えなかった。

 これに対してバイデン大統領はインフラ投資などで国内の産業基盤を強くすると同時に、それらの財源を多国籍企業などへの増税で賄い、富の再分配も進めて国民経済全体を活性化させることを狙っている。

 新自由主義の下で、外国資本の受け入れと企業優遇策が過剰に行われたことがグローバル化を加速させることになり、その恩恵を最も受けた中国が米国の覇権を脅かすまで躍進した。

 安全保障面までが脅かされかねない事態になって、急場しのぎで中国たたきに徹したのがトランプ政権だったが、バイデン政権は、根っこの新自由主義の理念に懐疑的だといえよう。

政府の介入と積極財政で
国民経済全体の活性化狙う

 このことを考えれば、バイデン政権の下で政府による継続的かつ強力な介入を通じ、産業の競争力や国民経済の強化が推し進められることになるのだろう、ということは比較的容易に想像がつく。

 格差拡大や社会の分断という構造問題に対処しながら国民の力をフルに生かすべく、政府による経済活動の管理を重視しようとするバイデン政権の政治理念は、いわゆる「経済ナショナリズム」と呼ばれるイデオロギーに通じるものだ。

企業増税で所得再分配
「グローバルミニマム税」提唱

 こうした政治的メッセージが最も象徴的に発信されているのが税制改革だ。今回の雇用計画では政府支出とともに、税制改革でもバイデン色が鮮明に出た。

 その中心は、連邦法人税率の21%から28%への引き上げだ。

 連邦政府の税収増への貢献度が最も大きく、複数年を対象とした試算では、これだけで1兆ドル分、財政収支を改善させる。

 これは財政規律を主張する共和党や、民主党穏健派への配慮もあるとはいえ、留意すべきは、法人増税は財政再建を目的としたものではなく、所得再分配政策の一環ということだ。

 政治的なメッセージ性が強いものとして目を引くのは、

(1)グローバルIT企業などが持つ特許などの無形資産から得られる所得(GILTI:Global Intangible Low-Taxed Income)への課税強化(税率を10.5%から21%に引き上げることや控除の撤廃)
(2)米国企業の海外での雇用コストを控除の対象外にする
(3)世界共通の最低法人税率(グローバルミニマム税)の導入
――だ。

 タックスヘブン(租税回避地)や法人税優遇などの国を利用して税逃れをする多国籍企業の動きを封じ資本の流出を阻止する一方で、増収分で米国内の投資を増やし、国内の産業基盤や雇用を増やそうという狙いだ。

 イエレン財務長官は、4月5日に世界共通の最低法人税率の導入について、「法人税率の引き下げ競争に歯止めをかけることが必要」とその狙いを説明し、足並みをそろえるために他国にも導入を要請する考えを語った。

 主要国が、企業の投資を誘うために法人税率を引き下げ続けた結果として、各国の財政基盤を脆弱(ぜいじゃく)なものにしてしまったという反省に基づいたものだ。

 グローバルミニマム税提唱の裏には、雇用計画でインフラ投資などをしても、法人実効税率の低い他国に資本が流出し政策の効果がそがれる恐れがあり、その抜け穴を細くするために他国に足並みをそろえてもらうという米国に都合の良い思惑が見え隠れする。

 だがOECDなどでのGAFAへの課税強化の取り組みにも消極姿勢を続けてきた米国の政策転換が、世界の税率引き下げ競争の流れに投じた波紋は大きい。

予想を超える経済急回復
国際的発言力も強まる

 米国経済はコロナショック後、大規模な財政出動と金融緩和が行われてきたことで、今年後半からは成長率が加速し、来年の米国の成長率は他の主要国の成長率をかなり上回る可能性が高まっている。

 ワクチン接種の進捗ペースも、ここ最近は驚くほど速い。こうした実績をてこに、米国は国際協調路線への回帰と陣頭指揮を執ることへの意欲と気力を取り戻しているとみえる。

 他国に最低法人税率の引き上げを求めるという、おおよそ実現が難しそうな政策も、意外にも早い段階で実現に向かうのかもしれないとすら思える。

株価への増税の悪影響
一概にはいえず

 バイデン増税の効果や経済への影響はどうなのか。

 過去10年の企業の利益配分を振り返ると、配当は一貫して右肩上がりの一方、法人税と内部留保は振れをならしてみるとほぼ横ばいだ(図表1)。

 配当の増加が株価上昇の原動力だったことからいえば、今後の法人増税や税控除の縮小・廃止が、企業の資本政策にいかなる影響を及ぼすかは、投資家や市場関係者の大きな関心事となってくる。

 特に、税制のメリットを利用して海外展開を広げてきたIT企業などは資本政策を変えるだろうし、時価総額の大きさからいってそれによる株価全体への影響も出てくるだろう。

 一方で配当性向を抑えてきた企業の間では、グローバルミニマム税が導入されることをきっかけに、配当性向を高める企業も出てくると想定される。

 法人税率の引き上げは米国企業のキャッシュフロー全体に及ぼす影響が最も大きいため、税引き後利益が圧迫されやすい展開にはなるのだろうが、株価に対して大きなマイナスになるとは一概にはいえない。

国内への資金回帰で
投資が増えるかは不透明

 米国企業によるオフショア・ビジネスにかかる税優遇の削減は、米国への資本回帰を促す可能性もある。

 だがこれについても、実際にどれほど、海外でのビジネス拡充に向けた資金の留保を抑制する効果があるのか、または本国への資金回帰が促されるのかははっきりしない。

 図表2は、米国からの対外直接投資のうち国内に再投資された金額を表す。

 2005年と2018年に大きく下振れしているのは、当時のブッシュ政権、トランプ政権が、「レパトリエーション減税」を行った時だ。

 国際的に事業を展開する企業は、例えば、株主への配当金を確保したり国外のビジネスを見直したりするため資金を本国に戻すことがある。その際には国外で上げた利益として課税されるが、05年と18年当時は時限措置として、課税を軽減し米国への資金回帰を促し、米国内の投資や雇用を拡大させようとした。

 今回はどうなるか。

 基本的には企業が、オフショア・ビジネスでの課税優遇のメリットがどこまで減ったと受け止めるかや、オフショア・ビジネスの今後の業績の見通しによって、トレンドは決まってくるのだろう。

 象徴的企業の例でいえば、トランプ政権時のレパトリ減税により、アップルは本国への資金回帰を進めた結果、米国での税の支払い増が380億ドルに上ったことが話題に上がった(2018年1月)。こうした資金の流れが当時、為替市場ではドル高の要因ともいわれた。

 しかし、当時は法人税率が35%から21%に引き下げられたタイミングであり、税率が段階的に引き上げられることが予想される今回とは単純には比較できない。

 レパトリ減税の影響は過去に比べると少ないのではと思われる。

“経済ナショナリズム”の機運
追い風に、スピード感

 それでも今回、企業増税が富裕層に対する増税に先行したことから類推するに、バイデン政権内では、今、予想されている経済回復の勢いが維持される限り、企業は増税負担を十分に吸収できると判断されているのかもしれない。

 新型コロナのワクチン接種を見ても、米国での動きは驚くほど速い。化石燃料に対する税制優遇の撤廃といった、これまで政治的にタブー視されがちな問題も気候変動問題重視のバイデン政権では果敢に取り組まれている。

 経済回復が他国に先行している状況のほうが、物事を一気に進めやすいという算段が働いているのだろう。

 コロナ対策の所得補填政策と比べると、経済効果が見えにくいと批判される気候変動問題対策でも、代替エネルギー開発や電気自動車、蓄電池などの関連産業への助成などが早い時期に具体化される可能性もありそうだ。

 新自由主義政策がもたらした格差や分断の是正を求める経済ナショナリズムの機運や経済回復の勢いを追い風に、バイデン政権の3カ月は予想以上のスピード感で事が動いている。

(三井住友銀行〈ニューヨーク駐在〉チーフ・エコノミスト 西岡純子)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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