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IR汚職・証人買収で29日に初公判、無罪主張の秋元衆院議員は何を語るか

2021年03月28日 06時00分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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記者会見する衆院議員の秋元司被告(撮影:2020年2月14日) Photo:JIJI

カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件で、収賄罪などで起訴された衆院議員秋元司被告(49)の初公判が29日、東京地裁で開かれる。事件の発覚後、秋元被告は贈賄側に裁判で虚偽の証言をする見返りに、現金の供与を持ち掛けたとして証人等買収罪で逮捕・起訴される事態に発展。同罪はマフィアなど国際犯罪組織の摘発を目的とし、テロ等準備罪と併せて導入されたが「適用第1号」が国会議員ということは、永田町や法曹界に衝撃を与えた。秋元被告は汚職・証人買収事件とも全面的に否認する構えだが、いずれの関係者も既に判決が確定している。収賄罪だけなら執行猶予だったとみられるが、保釈後の証人買収が判決で事実認定されるようなら心証はあまりに悪い。現職国会議員の実刑が噂されるだけに、弁護側の戦術が注目される。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

保釈も証人買収で再逮捕

 事件の発覚から時間が経過しているので、簡単におさらいしておきたい。

 東京地検特捜部が秋元被告を収賄容疑で逮捕、議員事務所などを強制捜査したのは2019年12月25日。20年1月14日には別の収賄容疑で再逮捕した。

 起訴状によると、秋元被告はIR事業に便宜を図ってほしいとの趣旨と知りながら、中国企業の元顧問2人から17年9月、自身が管理する会社の口座に200万円の振り込みを受けたほか、議員会館の事務所応接室で現金300万円を受け取ったとされる。

 17年7月にはマカオへの旅行代金などとして約185万円、18年1月には北海道への家族旅行代金約76万円相当の利益供与を受けたとされる。

 秋元被告は17年8月から18年10月まで、国土交通副大臣兼内閣府副大臣のIR担当として、IR区域の整備に関わる職務権限を有していた。元顧問2人はIR推進法成立当時の衆院内閣委員会委員長だった秋元被告に面会し、IR事業への参入に関して支援を依頼していたとされる。

 ここまでであれば一般的な汚職事件だったはずだ。しかし、起訴後の20年2月12日、秋元被告は保釈。その後、自身の支援者らに依頼し、元顧問2人に偽証を働き掛けたとして逮捕されることになる。

 特捜部は20年8月20日、組織犯罪処罰法違反(証人等買収)容疑で秋元被告を逮捕した。容疑は知人の会社役員2人と共謀し同年6月と7月、前述の元顧問に裁判で偽証する見返りに計3000万円の供与を申し込んだとされる。

 9月9日には別の会社代表ら2人と共謀し、もう1人の元顧問に計500万円の供与を申し込んだ疑いで再逮捕された(2件とも起訴済み)。

 9月30日には汚職事件で認められていた保釈が取り消され、保証金3000万円も没取された。現在も起訴勾留中だ。

マフィア対策法に国会議員

 冒頭、証人等買収罪はもともと「マフィアなど国際犯罪組織の摘発を目的」と紹介した。17年7月施行の改正組織犯罪処罰法で、犯罪を計画段階で摘発し処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」と共に新設された。

 証人等買収罪は、刑事事件で偽証や証拠隠滅の報酬として関係者に金銭を提供する行為を処罰対象とし、相手が受領しなくても申し込んだ時点で対象となる。罰則は2年以下の懲役または30万円以下の罰金。組織犯罪の場合はさらに重くなり5年以下の懲役または50万円以下の罰金だ。

 これまで暴行や脅迫によって証言を誘導させる「証人威迫罪」「偽証教唆罪」はあったが、買収を取り締まる法律はなかった。

 もともとは国連総会で2000年に採択された「国際組織犯罪防止条約」の締結のため、法整備が必要として審議された。野党は「捜査機関の乱用」を懸念して猛反発したが、裁判員裁判の導入で捜査段階の取り調べよりも、法廷での証言や供述が重視される「公判中心主義」が進んでいる現状から、こうした「司法妨害」を取り締まる有効性が期待されていた。

 事実、今回の事件では偽証の依頼を受けた贈賄側が現金の供与を拒否しており、偽証教唆罪などには「未遂罪」がないため、証人等買収罪がなければ摘発できなかったとされる。

 では、汚職・証人買収に関わったとされた関係者の裁判はどうなったのだろうか。

 20年8月26日、贈賄側の初公判が開かれ、いずれも起訴内容を認めた。その上で元顧問2人は供述調書で、証人等買収に絡み「現金を持ってきたため、ただ事ではないと検察に話した」「『弁護士費用を持つ』とか『一生面倒見る』と言われた。袋に500万円くらい入っていた」などと偽証依頼の働き掛けがあったことを明らかにしていた。

 10月12日、東京地裁は現金の授受を事実認定し、元顧問2人にそれぞれ執行猶予の付いた有罪判決を言い渡した。執行猶予の理由については、秋元被告側から依頼された偽証を拒否したことや反省している点を挙げた。

 証人等買収罪を巡っては2つのルートについて分離公判で行われ、11月の初公判で被告4人はいずれも起訴内容を認めて即日結審。12月の判決では、裁判長が「悪質な司法妨害行為」と厳しく指弾したものの、深く反省しており、秋元被告に強く懇願されて加担し関与も従属的――などとしていずれも執行猶予とした。

 司法的には関係者全員の裁判が終了し、いずれも有罪が確定。判決では、秋元被告がこれから問われる起訴内容についてほぼ事実認定された。

無罪請負人の辣腕弁護士

 汚職事件の公判では、検察側が関係者の供述をもとに、現金のやりとりを生々しく説明した。衆院が解散された17年9月28日、元顧問2人が議員会館で合流。A4の封筒に300万円を入れ、和菓子と一緒に紙袋に入れて渡すと、秋元被告は「ありがとう」と謝意を伝えたという。

 北海道旅行には家族も招き、ゲレンデに面した眺望の良い部屋を提供。秋元被告は「IRを(北海道)留寿都村に持ってくるため頑張る」と述べたとされる。

 証人等買収事件の公判でも、秋元被告の依頼を受けた支援者が、元顧問から現金供与を拒否されたと報告すると「絶対に金で転ぶ」「5000万円程度でいいはず」「金をぶつけてほしい」と交渉を継続するよう要求された――などと具体的なやり取りを明らかにした。

 いずれの供述調書も証拠採用され、事実認定されている。全国紙社会部デスクによると、偽証の報酬として提示した現金からは、秋元被告の指紋も検出されたという。

 すっかり外堀が埋まり、普通ならば「万事休す」と反省の姿勢を示し情状酌量で執行猶予を狙うのが妥当にも思えるが、秋元被告は取り調べに対し黙秘を続け、公判でも無罪を訴えて全面的に争うとみられている。

 弁護人としてロス疑惑、障害者郵便制度事件など著名な事件で無罪を勝ち取り、障害者郵便制度事件では大阪地検特捜部の証拠改ざんを見抜いた弘中惇一郎氏が受任した。証拠の緻密な検証で「無罪請負人」「カミソリ」の異名を取り、人気ドラマ「リーガル・ハイ」のモデルとも噂される辣腕(らつわん)弁護士だ。

隠し玉の有無、公判の攻防に注目

 では、どうやって無罪を立証していく方針なのだろうか。

 前述のデスクは「いくら弘中さんでも、確定した判決の事実認定をひっくり返すのは厳しいと思います」と話す。その上で「証拠の収集や取り調べに違法性がなかったかなど、手続きの瑕疵(かし)を突くのがやっとではないでしょうか」と推測した。

 実際に昨年9月10日、弘中氏は記者会見で、長時間の取り調べが連日にわたり続いていると批判。検察官が「話さないなら後援会の全員を呼んで話を聞く」と供述を強要している――などとして黙秘権の侵害を指摘した。

 さらには「黙秘や体調不良も無視して自白を強いており、刑事訴訟法にも反する」として東京地検に申し入れ書を、さらには検察官が捜査情報を報道機関に漏らしているとして、国家公務員法違反容疑で警視庁に告発状を提出したことも明らかにした。

 一般的に、一連の事件で採用された証拠などが公判で事実認定され、先に判決が確定した場合、その後に開かれた公判ですべての事実認定や確定判決を覆すのは至難の業と言われる。それは、先に出した同僚裁判官の判決を間違いだったと批判するのも同然だからだ。これは当該裁判所にとって「不祥事」に等しい。

 弘中氏は記者会見以降、事件について公の場で発言していない。

 捜査の過程における重大な瑕疵をつかんでいるのか。軌道修正して執行猶予狙いに方針を転換するのか。それとも何か驚くような隠し玉を準備しているのか――。

 法廷の攻防から目が離せない。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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