このページの本文へ

松村太郎の「"it"トレンド」 第307回

なぜiPodは成功したのか 20年経った今あらためて考える

2021年03月11日 09時00分更新

文● 松村太郎 編集● ASCII

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

●「iPodシンドローム」

 確かに大学生ならiPhoneを知らない人はいないでしょうが、非常に高度で複雑な技術で成り立っている製品ゆえに、なかなか大学生がデザイン思考の練習で思いつくには難しいテーマだと思います。iPodの方がまだ可能性がありそうだ、と思うのはそうした理由からです。

 iPodはデジタル音楽プレイヤーとして登場しましたが、当時効果だった小型ハードディスクを組み合わせるという思い切ったアイディア以外、テクノロジー的にはパーツとして目新しいものはホイールを採用したコントローラーだったと言われています。

 顧客のペイン、つまり、

・ CDやMDを大量に持ち歩かなければいろいろな音楽が聴けない
・ 編集しなければ自分の好きなセレクトを楽しめない

 という不便さ、問題点に着目し、ハードウェアとソフトウェアで解決した結果がiPodでした。

 しかし、そうした製品の成功を作り出そうとすれば、ハードルがいくつも上がってしまいます。

 歴史を紐解くと、その後アップルは音楽の楽しみ方を「デジタルミュージック」へ転換させ、iPodの本質は後に導入するデジタル音楽配信の成功のための布石となりました。iPodの根底にあるコンセプトはソニーのウォークマンであり(アップルも認めるところです)、今風に言えば「ポータブルオーディオのデジタルトランスフォーメーション(DX)」だったのです。

 iPodの成功を再現しようとすれば、優秀な問題解決を含むハードウェアだけを作れば良い、という結論にはならないことがおわかりになると思います。

 デザイン思考でiPod的なものだけを作り出してもそれだけでは成功しない。これがジレンマであり、iPodの成功の再現にとらわれすぎて成功を逃す「iPodシンドローム」の根源だと思います。

カテゴリートップへ

この連載の記事

ASCII.jp RSS2.0 配信中