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調査では財務領域におけるロボット・AI活用に遅れる日本企業の姿も浮き彫りに

オラクル、コロナ禍でも決算業務を短縮した「オラクルのDX」を語る

2021年03月05日 07時00分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 日本オラクルは2021年3月3日、同社も自社活用している最新の経理・財務クラウドアプリケーション(SaaS)に関する記者説明会を開催した。多くの点でAI/機械学習(ML)を取り入れた自動化が進んでおり、米オラクルでは、コロナ禍で社員がリモートワークを余儀なくされるなか、年度末決算発表を前年よりも3日間短縮できたという。また同説明会では、14カ国の9000人を対象とした「財務領域における人とロボット・AIの関係」の調査結果も発表した。

オラクル自身の決算業務における効果

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/HCMソリューション・エンジニアリング本部FMS/EPMソリューション部 部長の久保誠一氏、久保氏、同社 クラウド・アプリケーション事業統括 事業開発本部 本部長の野田由佳氏

自動化されていない財務業務を進化させるために

 前述したとおり、米オラクルでは、2020年度5月期の年度末決算を前年度より3日短縮し、締め日から10日目に発表した。同様に、日本オラクルでも前年度より3日早い決算発表が可能になった。その背景には、買掛未払金の月次締め処理時間の30%削減、リコンサイル(勘定照合業務)の40%自動化といった成果があるという。

 日本オラクル FMS/EPMソリューション部 部長の久保誠一氏は、「究極の決算の自動化を目指す“1 Day Close”の実現に向けて、オラクルでは製品面と業務面の両方で改革を継続している。これが“オラクルのDX”だ」と語る。

 「財務業務においては、まだ自動化されていない部分が多い。リスク管理や計画、分析などにおいて最新テクノロジーを使って、さらに自動化を進めていく必要がある。オラクルではこうした領域においても四半期に1回、機能強化を行い、顧客に提供している。オラクル自身もその機能を活用して、財務業務を進化させている」(久保氏)

財務業務の中には「完全な自動化」や「大部分を自動化」できる領域がある

 オラクルでは経理・財務システムとして、自社SaaSの「Oracle Fusion Cloud ERP」と「Oracle Fusion Cloud EPM」を連結、採用している。これにより、単体決算や連結決算業務の自動化、予算管理/経営管理の高度化などを実現している。

オラクルSaaSを活用した経理・財務システムの概要

 単体決算の「買掛・未払金業務の自動化」では、インテリジェント・ドキュメント・レコグニション(IDR)技術を活用することで、請求書などの紙書類からのデータ入力や目視チェックなど、マニュアル作業を大幅に自動化している。「PDFファイルをCloud ERPにメール送信するだけで自動処理ができる。フォーマットの異なる書類にも対応しているほか、例外データも学習して段階的に読み込み精度を高めていくことができる」(久保氏)。

自動化により、オラクルでは買掛・未払金の月次締め処理時間を30%削減

 さらに、インテリジェント・アカウント・コンビネーション・デフォルティング(IACD)により、勘定科目コードなどのCoA(チャート・オブ・アカウント)に対するデフォルト値を自動設定することで分類を高度化。質の高い情報をもとにした経営管理や分析が可能になるという。IACDは今後、市場に提供していく予定だ。

 連結決算においては、デジタル化やリモートワーク環境下の決算業務をサポートしている例を紹介した。久保氏は、決算業務のリモート環境移行に対する障壁として「表計算ソフトなどを活用した手作業が数多く残っている」実態を指摘する。「オラクル自身もつい最近まで、2万件のExcelシートを使ってリコンサイル業務を手作業で処理していた」(久保氏)。

決算業務のデジタル化とリモート環境での業務を支援している

 現在はこの業務を40%自動化したが、今後はMLの精度をさらに高めることで「完全自動化」を目指す。加えて、グループ会社間取引のトランザクション照合、銀行の残高証明とERPの銀行勘定残高照合、取引先と自社(検収書と請求書)の照合など、約8000件もすでに自動化したという。

 さらに、インテリジェント・プロセス・オートメーション(IPA)により、進捗状況や業務履歴、ファイル共有、ワークフローといったタスク管理機能を提供することで、リモートワークを支援する。「出社率が90%という財務部門の状況を改善し、リモートワークを促進する基盤となる。これはオラクルのみならず、他社のERPや会計システムとも連携できる」(久保氏)。

 予算管理においては、将来の予測や計画の精度向上が強く求められている。オラクルではここでプレディクティブ・プランニング機能を利用していると紹介した。これは、過去のデータと統計手法に基づき、最適な予測を行うものだ。

 「具体的には、13種類の統計関数から最も高精度な関数をマシンが自動選択する。人による予測と機械の予測を比較して、その乖離に焦点を当てながら最終判断していくもので、オラクルも投資予測や人件費予測などに利用しているが、ここにきて機械が立てた予測を採用する例が増えている。日本でも、大手消費財メーカーが販売計画立案にプレディクティブ・プラニングを利用している。ここでは過去の販売データのほか、景気動向データなども加えて予測を行っている」(久保氏)

 なお、同機能は今後「インテリジェント・パフォーマンス・マネジメント(IPM)」に拡張されることになる。IPMでは、AI/ML技術も用いて予測のさらなる精度向上と高度化を実現する。日銀短観データから住宅着工件数、降雨量、SNSのトレンドデータまで、外部データとの連携も可能であり、「人が計算できなかったり、発見できないような相関関係を見つけ出して予測することもできる」と述べた。

過去のトレンドや傾向値から将来を予測するプレディクティブ・プランニングと、さらにその精度を向上させるIPM

 日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 事業開発本部の野田由佳氏は、オラクルのSaaS群が「シングルデータモデル」で統合されていること、AI/ML技術が組み込まれていることのメリットを強調した。

 「シングルデータモデルを採用することで、各サービス間の一体感が高まり、開発コストの大幅な削減や作業の自動化につながる。また、全体最適化された形でAI/MLが活用できるため、より良いサービスの提供が可能になる。今後の財務部門には、シングルデータモデルのクラウドアプリケーションと組み込み型AI/MLが必要だ」(野田氏)

 さらに、オラクルでは年間80億ドルの研究開発費を投入し、20万人以上のCloud Customer Connectコミュニティと開発チームが直結して機能強化を図っており、その結果、3カ月ごとに新機能がリリースされていることも紹介した。「導入後も陳腐化せずにお客様とともに進化し、業務を高度化できる」(野田氏)。

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