メガトレンドを前提とした市場戦略
こうした市場変化のなかで、新たなパソコンを積極的に投入する日本HPだが、同社の岡社長は、「コロナ禍においても、HPの戦略は変わらない」とする。
HPの基本戦略は、「メガトレンド」を前提している。
メガトレンドとは、15年先や20先といった将来の方向性を捉えたもので、急速な都市化の進展、新興国での人口増加、先進国での高齢化といった人口動態の変化、通信の高度化などによるグローバル化の進展、様々なテクノロジーによるイノベーションの加速などを予測。それに向けたテクノロジーに投資を行い、技術開発やモノづくり、事業戦略の立案を行っている。
岡社長は、「メガトレンドには変更がない。だが、コロナ禍において、それが前倒しになった部分はある。スピードをあげ、スケールをあげ、もっと身近に使ってもらえるようにすることに力を注ぐ」とする。
ここ数年、日本HPが力を注いでいるのが「サスティナビリティ」である。ある社内関係者は、「本社とのやりとりの多くにサスティナビリティが含まれるようになっている」と明かす。
岡社長も、「HPは、セキュリティとサスティナビリティを、製品づくりやサービスづくり、事業戦略の軸にしていく。その上に、製品分野ごとにソリューションを積みあげていくことになる」と、事業戦略上、重要な柱になっていることを示す。
たとえば、パソコン分野におけるサスティナビリティへの取り組みをみても、製造、使用、梱包、使用後まで幅広い範囲で展開。世界初のオーシャンバウンドプラスチックを採用したノートPCやChromebookを発売したほか、ディスプレイにもオーシャンバウンドプラスチックを採用。アクセサリでは、リサイクル材料を使用したノートPC用スリーブを発売したり、梱包材では、プラスチックからパルプモールドへと移行したりといった事例がある。
九嶋専務執行役員は、「サスティナビリティは、企業の社会的責任として、大切な取り組みである。HPは、世界で最も持続可能なPCポートフォリオを実現していくことになる」と語る。
一方、岡社長は、「コロナ禍において、HP社内でキーとなったメッセージは、創業者の一人であるビル・ヒューレットによる『最大の競争優位は、本当に大変なときに正しい行いをすること』という言葉であった。基本に戻って、事業運営を進めることが大切である」とする。
HPのビジョンは世界中のあらゆる人の暮らしを向上させるテクノロジーを創造することだ。そのために、顧客やパートナーの声に耳を傾けて、環境の変化や市場の動きを観察することに多くの時間を費やしている。コロナ禍でもその姿勢は変えない考えだ。
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