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話題の新料金「ahamo」、ターゲット層の若手ドコモ社員は何を考えたのか

2021年02月05日 12時00分更新

文● 佐野正弘 編集●ASCII

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 ドコモが2020年12月3日に発表し、大きな話題となった料金プラン「ahamo」。20代の単身者をターゲットに、契約やサポートをオンラインに絞ることで、月額2980円(税別)で5Gも含めた20GBの高速データ通信を実現するという、従来にない大胆な料金プランの提供に至るまでにはどのような経緯があったのだろうか。ahamoの開発を担ったドコモのマーケティング担当である高山賢人氏、サービスおよびシステム開発担当である佐々木千枝氏、岩見真由子氏にその舞台裏を聞いた。

ドコモ マーケティング担当 高山賢人氏(右)、サービス システム開発担当 佐々木千枝氏(左)

20代獲得のため不要な要素を極力そぎ落とす

──そもそもahamoはどのような経緯で企画が進められたのでしょうか。

高山 ahamoのプロジェクトが始まったのは2020年1月からですね。私は元々市場の需要予測などをするマーケティングリサーチの担当だったのですが、料金企画担当者から「20~30歳のユーザーがドコモから離れてしまう課題を解決したい」という相談があり、新料金プランを作ることとなりました。

 弊社の料金プランは大容量の「ギガホ」と小容量の「ギガライト」のみで、中容量プランがなく他社に流れていたことから、そこをカバーできるプランを作ろうと企画を始めました。2020年2月までにいくつかの料金パターンを考えて5万人へのサンプル需要予測調査をし、3月にはおおよそのスペックが固まったことで具体的な開発へと進むに至っています。

発表直後から大きな話題を振りまいたahamoだが、月額2980円で20GBという大まかな内容は2020年3月時点で決まっていたとのこと

──御社の料金戦略はファミリー重視の姿勢が非常に強かっただけに、単身者を狙ったという意味でもahamoは大きな方針転換だったと思います。

高山 ファミリー層が強みであることはその通りですが、変えていくべき所は変えていかないといけない。20代の獲得が至上命題の中、家族向けの割引が正しいやり方なのか? というのは弊社幹部も考えていたところで、そこの理解が得られたのは大きいですね。オンライン限定というチャネルの違いや、不要なサービスを設けないことで既存プランとうまくすみ分けを図れたのも、実現に至ったポイントではないでしょうか。

高山賢人氏。2016年、NTTドコモ入社。dポイント/d払いなどのアライアンス推進に携わった後、2019年よりマーケティング部にて、料金プランの市場調査やプラン設計を担当している

──低価格化のためとはいえドコモショップでのサポートや、いわゆるキャリアメールを削るというのには、社内では抵抗感もあったのではないでしょうか。

高山 最初から20代を取りに行くことが目的でしたので、魅力ある料金を実現するため若者に必要ないものは極力そぎ落とし、スペックに妥協しないという考えがありました。20代を取れていないという課題感の認識は幹部と一致していたことから、想定していたよりスムーズに承認されましたね。

20代があまり必要としていないドコモショップでのサポートをカットし、すべてオンラインで対応することで低価格を実現したというのもahamoの大きな特徴だ

20GBの容量と5分通話定額が付いた理由

──5Gの通信にも標準対応していたことも話題になりました。

高山 5G対応にしないという選択肢がなかったですね。若い人向けのプランを出すのに,
4Gの端末しか使えないのは良くない。1プランしかないのであれば5G対応にしようということになりました。

──若い世代はデータ通信の利用が多く、大容量へのニーズが強いように思うのですが、中容量にこだわったのはなぜでしょう?

高山 確かに若い世代は多くのギガを消費していますが、それでもWi-Fiへのオフロードなども活用していることから、弊社のデータを見る限り20代のデータ通信消費量は平均で10GBの前半くらい。なので中容量の方が若い世代を広くカバーできると考えた訳です。

──また若者向けとなると、1回5分間の音声通話定額を付けるメリットは薄いようにも思えます。なぜ標準サービスとして付与したのでしょう?

高山 ahamoは1プランでこれを選べば間違いない、細かなオプション設定に時間をかけたくないという発想のもとに作られています。5分間の通話定額を付けたのもオールインワンパッケージを目指したがゆえですね。

 もちろん通話定額を外したいという声もあるかと思いますが、多くの方はキャリアの料金を、目を皿にして比較するようなことはしません。料金についてあまり考えたくない、面倒だという思いを持つ人の方が多いので、オールインワンパッケージという考えを現時点で変えるつもりはありません。

1回当たり5分間の音声通話定額は若い世代に重要ではないとの声もあるが、1プランで複雑なオプションを付けず、シンプルにするため標準で付与するに至ったようだ

若者に分かりやすい内容に注力

──ではahamoの大まかな内容が固まった2020年3月以降、サービス発表に至るまでどのような取り組みを進めていったのでしょうか。

高山 サービス側としては今の若い人たちがどういった価値観を持ち、何を求めているのかなどを、5月と10月の2回に分けてグループインタビューを実施して計60名から話を聞いています。その上でサービス名やブランドカラーなどをどうしていくか、お客様とどのようなコミュニケーションをしていくかなどのブランディングを進めました。

佐々木 システム開発チームは2020年5月頃に参加したのですが、当時はまだざっくりした内容しか決まっていなかったことから、まずはターゲットとなる人たちの声を聞いて、使ってもらうには何が必要かを検討しました。実際にシステム開発を始めたのは秋頃からですね。

佐々木千枝氏。2018年NTTドコモ 入社。入社後、コンシューマー向けサービスの設計・運用に携わり、2019年よりドコモポータル系サービスのアプリの開発を担当している

ahamoはターゲットを20代に絞っていることから、ターゲットとなる人たちからの意見を聞き、その価値観などを理解した上で実際のサービスやシステムの開発を進めたとのこと

──若い人に使ってもらうため、どのような点に力を入れましたか?

高山 キャリアの人でなくてもぱっと見でいくら払って、どれくらいの容量が使えるか理解してもらえるスペックにこだわりました。これまではキャリア側の都合がいい形で料金を安く見せてきましたが、それが業界への不信感につながっていたのも確かです。ahamoでは複雑な割引を設けず注釈を少なくすることにこだわり、それが高評価につながったと考えています。

──システム開発の本格的な着手は秋からとのことで、かなり時間的な制約も多くあったと思います。苦労した点などはありますか?

岩見 短期間での開発になったので、いかに要望をビジネス部門から要望を吸い上げ、スピーディーに形にするための合意形成に苦労しましたね。ただ最初から短期間での開発なるというのはわかっていたので、プロジェクトの立ち上げ当初から携わってコンセプトを決め、イメージを持った段階で開発に入るなどの工夫をしています。

──発表会では若い人に利用してもらうためのインターフェースに力を入れたとしていましたが、具体的にどのような工夫がなされているのでしょう?

佐々木 ウェブ上での操作になるので、とにかくシンプルさを重視しています。お客様が選ばなければいけない項目をそぎ落として必要最低限の情報をさくっと入れるだけで契約できる。プロトタイプをユーザーに実際に触れてもらってテストをし、分かりにくい部分を改善するなどして使いやすさにこだわっています。

ahamoの手続きはすべてオンラインでの対応となるため、入力や選択する要素を極力減らしてシンプルにできることを重視しているという

反響は想定以上、サブブランドでない理由は

──発表後の反響はどうでしたか?

高山 本当に想定以上の反響があったと思っています。弊社の井伊(代表取締役社長の井伊基之氏)も2021年1月11日時点で55万を突破したと話すなど、想定以上に申し込みをいただいたことはポジティブに受け止めています。ですがそれ以上にうれしかったのは、ahamoを作った側のこだわりがちゃんと評価してもらえたことですね。

 注釈が少なくぱっと見て分かる料金や、インターフェースなどを含め、これまでのキャリアとは違う所を評価いただけましたし、それ以降の各キャリアの発表で期間限定の割引がなくなったり、最安値表示だけをしなくなったりしています。ユーザーもahamoを基準に料金を見るようになっていて、ゲームチェンジができるのではないかという機運が社内では高まっていますね。

──一方でahamoの発表直後、サブブランドとして提供しようとしていたのではないか? という声が少なからず挙がりました。なぜサブブランドではなく、料金プランとしての提供に至ったのでしょうか。

高山 我々としてはビジネスの収支が立つ形でお客様に喜んでいただける新しい選択肢を提供したに過ぎません。結果としてそれがサブブランドと思われることもあるかもしれませんが、それを意図して作った訳ではありませんし、(他社サブブランドのように)従来プランから番号ポータビリティ(MNP)で移行という形を取らなかったのも、弊社のお客様が不便なく手続きできるようにするためです。

ahamoは発表内容からサブブランドとして提供しようとしていたのではないか? という見方が少なからずなされていたが、サブブランドを前提に企画した訳ではないという

──ただドコモの料金プランと位置付けたことで、ahamoのコンセプトを把握できていない人がドコモショップでのサポートを求めるのでは?

高山 ahamoは20代に最適なチャネルやプランニングをしているからこそ実現できた価格でもあります。店頭でのサポートが欲しいという人に対しては、ahamoと他のプランを正しく比較できるよう情報を伝えていかなければいけない。この点はお客様とのコミュニケーションに帰結するものだと思っています。

──発表以後、従来プランからの移行に一時的にMNP手続きが必要だった点や、「ファミリー割引」のグループ人数にカウントされない点などに変更が加えられています。システム側の都合もあるかと思いますが、なぜ後から変更という形になったのでしょうか。

佐々木 色々な方向性があって、発表直前で内容が決まったり、後から変わったりした部分はありました。システム面で対応できることに限界があったのは事実ですね。

高山 ahamoを別の事業者として立ち上げる案もあったのですが、やはり通信事業者が違うという認識を持たれたくなかった。(後から変更という方針を取ったのも)ドコモとして評価を得ているブランドの資産価値を引き継ぎながらも、若者の人気を得たいと思ったからこそです。

発表当初、既存のドコモユーザーがahamoに乗り換える際はサービス開始から2ヵ月間、MNPによる転出手続きが求められたが、後に不要となっている

他社の対抗プランは? 端末はどうなる?

──他社も早速ahamo対抗プランを相次いで打ち出していますが、どう見ていますか?

高山 2021年の3月にサービスを提供するとした以上、他社からキャッチアップされることは織り込み済みでしたし、そこからが本当の戦いです。今の所は横並びで、今後はユーザーがどう評価するか次第だと思っていますが、横並びである以上、最初に出したプランが新しい概念として認知されているいう点でも弊社が一歩リードしているのではないでしょうか。

──では今後、市場動向に応じて何らかの修正を加える、あるいは料金プランを追加する考えはあるのでしょうか。

高山 お客様の声や市場環境を見つつ、選ばれるため魅力を磨くという姿勢に変わりはありません。現在の所プランを増やすことを想定してはいませんが、ワンンパッケージにずっとこだわり続けるのかというと、必ずしもそうではありません。お客様に面倒な手間をかけず、ストレスをできる限り減らすための手段の1つとしてワンンパッケージという考えがあると思っていて、ストレスフリーが担保されるのであれば形にこだわってはいません。

──サービス開始を控え、まだ発表がなされていないのがahamoで取り扱う端末です。ahamoの端末戦略についても教えて下さい。

高山 ahamoの利用に端末購入が必須という訳ではありませんが、選択肢の1つとして用意するという方針は変わっていません。単にでき合いのものでどうぞ、というのではなく、やはりターゲットとなる20代に“いいね”と思ってもらえるものをメンバーと考えています。楽しみに待っていて下さい、というところですね。

ahamoでは端末のセット販売も用意するとしているが、販売する端末の詳細はまだ明らかにされていない

──ありがとうございました。

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