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「AI婚活」への政府の支援は少子化対策の切り札になるか

2021年01月27日 06時00分更新

文● 熊野英生(ダイヤモンド・オンライン

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写真はイメージです Photo:PIXTA

AIを活用してマッチング
自治体の婚活支援に20億円

「AI婚活」と聞いて、あなたはどう思うだろうか。

 AI(人工頭脳)がお互い相性などをチェックしてマッチングし、首尾良く結婚に進むようにしようというわけだ。

 2021年度の政府予算案では、内閣府が自治体のAI婚活事業に20億円の支援を行うことにしている。政府はこれまでもさまざまな少子化対策で結婚を増やそうとしてきたが、筆者は二つの点で、この婚活支援策を評価したい。

 一つは、少子化対策の切り口として婚活に注目したことであり、もう一つはAIの利用に今後、政府や社会が知見を広げられるという点だ。

 すぐに出生率が上がるなどの効果はともかく、10~20年間の長期的視点で見れば好ましい効果につながっていくだろう。

放置されてきた少子化の盲点
若い年齢での結婚と第1子出産が重要

 少子化が日本社会の大問題であることは、もはや議論の余地はないことだ。

 2019年の出生数は86.5万人にまで減少した。

 年間の出生者数は2016年に100万人を割ったが、それからあっという間の急減だ。

 2021年はコロナ禍で外出が手控えられたことや飲食店、娯楽施設などの営業時間短縮で若者の出会いの場が失われたこともあって、さらに少子化が進むのではと懸念する。

 筆者の予想では、21年の出生数は、遂に77.8万人まで減少すると予測する。

 これは相当に深刻な状況だ。だがここまで日本は追い込まれているのに、政府はこれまでの少子化対策の効果や課題を十分に検証してきたとはいえない。

 少子化の原因の一つに、社会が豊かになるほど若者は若い年齢では結婚せず、子どもの人数を減らすことがある。

 昔は、子どもの人数が多くて、1人に多額の教育費をかけられなかったが、今は1人の子どもに多くの教育費をかけるようになった面はある。だが一方では子どもを育てる費用が膨らんで、経済的制約から子どもを多く作れないということにもなっている。

 雇用情勢や働き方が変化して、若い働き手の非正規化が進み、この制約はより大きくなった。

 非正規雇用は低賃金・不安定な状況に置かれていることを考えると、必ずしもそうとはいえない面はあるが、少子化は教育や住宅にお金をかけたり、働く女性が増えたりするなど、社会が豊かになり成熟化したことが背景にあることも確かだろう。

 日本はこの豊かさの副作用に対処しなくてはいけないのだ。

 従来の少子化対策はすでに結婚している夫婦の子育てを支援することだった。しかし、支援するほどに世帯は経済的余裕を教育費にかけるので、子どもの人数を増やすことにはつながりにくい。

 必要な視点は、すでに結婚している世帯を前提にするのではなく、結婚したい若い年齢の人たちに早く結婚してもらうことが少子化対策につながるということだ。

 この十数年、若者の未婚率は上昇し、また女性が第1子を産む年齢も上昇した。従来型の少子化対策には、(1)未婚率を下げる、(2)結婚した夫婦になるべく若い年齢で第1子を作ってもらうという発想が乏しかった。

19自治体で婚活事業実施
過疎化や地域経済疲弊にブレーキ

 少子化などによる人口減少の打撃をより痛感しているのは、県や市町村などの自治体だ。

 多くの自治体では、出生数の減少によって加速する人口の自然減と、他地域に働き口などを求めて移動していく人口の社会減が同時に進んでいる。

 そしてそのことが地域経済を疲弊させている。

 これに歯止めをかけるには、地元の若い人たちが県内(地域内)の人同士で結婚して早く子どもを作ってくれることが重要だということで、自治体レベルではすでに婚活支援事業が行われている。

 若い人が大学に進学して東京などへ出ていき、そこで就職すると、地元に戻ってくることが少なくなる。特に、東京で就職して地元以外の相手と結婚すると、もう地元に帰ってくる確率は極端に低くなる。

 地方にとって好ましいのは、地元の人同士が結婚して、たとえ仕事の都合で若い頃に地元を離れても、年長になって地元に戻って定住してくれることだ。

 こうした事情を背景に、自治体では県内あるいは市町村の近隣地域の人同士での結婚を勧める取り組みが行われている。内閣府によると、AIやビッグデータを活用した婚活事業は19の県で実施されているという。

 政府が2021年度予算案で20億円の自治体向けの交付金を用意したのは、財政的支援を通じて、AI婚活だけではなく、少子化や過疎化にブレーキをかけようという地域ごとの取り組みを後押し、またより広げようとするものだ。

政府のAIリテラシー高まり
成長戦略にもなる

 国が自治体の婚活事業をサポートするのは、これが初めてではない。2013年度と2014年度の補正予算でも行っている。しかし、このとき婚活パーティーはNGになっていて、少子化対策についての講演会などの間接的な活動に限って、交付金の支援が認められた。

 自治体にとっては、2013・2014年度の事業が隔靴掻痒で非常に歯がゆいものだっただろう。当時は、合コンや婚活パーティーに税金を使うのはいかがなものかという意見もあったと聞く。

 そのことを考えると、AIで若者が相手との相性を調べて紹介してもらう取り組みを国が援助することは、かなり前進した印象を抱く。

 婚活にAIを活用することを筆者は絶対視する気持ちはない。むしろまだ試行錯誤に近い状況だろうし、将来、まだ進歩する余地が大きい。こうしたAIサポート・サービスに政府が関与することが面白いと感じる。

 新しいテクノロジーの利用・普及に対して政府が注目して進歩を歓迎するとエールを送ることは、イノベーションを促すことにもなる。AI婚活の支援は一種の成長戦略にもなる。

中途採用の面接や病院の選択
応用範囲は広がる可能性

 またAIの婚活サポートの応用としてさまざまなことが考えられる。

 中途採用の面接への応用や企業の信用調査、自分の健康管理に良いアドバイスをくれそうな病院・医師の選択、などへの応用もこれから開拓できそうだと思える。

 AI活用のフロンティアの一つは、経済学で言うところの「情報の非対称性」がある分野だ。

 売り手と買い手、サービスの提供者と利用者の間でそれに関する情報量に差があることを「情報の非対称性」といい、わかりやすく言えば、買い手はモノやサービスは購入して使ってみるまでは、それは良いか悪いかがはっきりとわからないところがあるため、買うのを躊躇(ちゅうちょ)してしまい、結局、需要が抑制される。

 これを婚活で考えると、お見合いの場合は、実際にお付き合いをしてみなければ、相手のことを十分に知ることができない面があるので、お見合いを事前に躊躇(ちゅうちょ)する人もいるだろう。

 情報の非対称性があると、取引リスクや潜在コストの大きさが取引自体を阻害する。それをAIを使って、相性の良くない相手をあらかじめ除外して、“成功確率”を高めてからお見合いをすることができれば、お見合いが成功しやすくなる。ひいては婚姻件数の増加につながることが期待できるというわけだ。

早く結婚すれば
子どもは増えるか?

 ただ政府の婚活支援が出生者数や出生率を本当に高めるのか。また効果を上げるためにはどういう前提を考え、どういうやり方がいいのかということについては、吟味が必要だ。

 従来の少子化対策の中には、実際に出生数を増やすことにほとんど貢献してこなかったものもあったのではないか。育児休業制度など、有意義なものが多くあったが、「少子化対策」の名前で実施された、すべての内容が成功したわけではないと思う。一度、検証すべきだろう。

 AI婚活支援についても、平均初婚年齢が若くなるだけでは、それが出生数の増加に直結しない可能性はある。少子化対策とする以上、出生者数の増加が実際に期待できることが必要だ。

 2019年の平均初婚年齢は夫31.2歳、妻29.6歳だ。だが例えばこの年齢が仮に夫28.4歳、妻25.9歳だったならどうだろうか。

 この数字を見れば多くの人は妻の初婚年齢が4歳も違えば、子どもの数を増やす政策が相当に効果を上げるだろうと考えるだろう

 実は、この妻25.9歳の初婚年齢は1990年のものだ。

 その時から約30年を経て平均初婚年齢がかなり上昇した現在、AI婚活支援といった新しい切り口のやり方をするにしても、実際に出生者数が目立って増えるというのはかなり厳しいことが明らかだと思う。

 筆者が言いたいことは、結婚を増やせば出生数も増えるだろうという単純な話ではなく、早い年齢での結婚を増やせば、それに続く出産支援などの追加的対策の効果が上がるということだ。

 例えば、結婚して第2子、第3子まで子どもを増やしたいと考える世帯に対して、第2子に100万円、第3子に150万円という支援金を渡すことを考えよう。

 そのときに、平均初婚年齢が高くなっているほど、支援は効果を発揮しにくくなる。逆に若く結婚して早い時期に第1子ができた夫婦は支援金がでるのなら、さらに子どもをという前向きな気持ちになるはずだ。

 早く結婚することを政府が支援することは、少子化対策全体の効果を高めるための前提としても極めて重要ということを、政府は十分に認識してほしい。

(第一生命経済研究所首席エコノミスト 熊野英生)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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