音楽に生命が宿ったかのような音、存在感のある音の厚み
Sonus faber「LUMINA I」で聴く、ベートーベン/交響曲第9番「合唱」
2021年01月24日 13時00分更新
現代的な忠実度を備えながらも、強い個性を感じる音
楽曲紹介が横道にそれてしまったが、試聴に移ろう。初期のソナス・ファベールの音は、大げさに言うと、どんなボーカル曲を聴いてもオペラ歌手になってしまう。と感じるほどに個性的な音で、しかし、それでいいと納得してしまうくらい魅力的な歌声を聴かせてくれた。そのイメージからすると、現代のソナス・ファベールは魅力的ではあるが強すぎる味付けの濃さは収まっている。ただし、ボーカル曲を聴けば厚みのある中低音と艶やかな高域のため、グラマラスで声の張りのしっかりとした再現をする。このあたりはオペラのソプラノ歌手の歌声をイメージさせる感触はある。ずいぶんと個性というか味付けの濃さは控えめになりつつも、「歌声を情感豊かに感じられるのはこういう音だ」と主張する感じはそのまま。
音場の広がりも豊かで、しかも前後の奥行きの深い立体的な再現だ。全体的に音場はスピーカーの奥に広がるのだが、ボーカルや主旋律といったクローズアップされるべき音はぐっと前に音像が立つ。ボーカルなどは自分のすぐ目の前で歌っているような存在感があり、音がダイレクトに伝わってくるような感触がある。この感じは音楽好きな人にはたまらないだろう。低音はほんの少しふくらみ気味で、最低音域の伸びはやや控えめ。そのため、グラマラスというかリッチな感触になる。オーケストラはスケール感がやや小さめと感じるが、低音楽器が非力になるようなことはないので、音楽再生ならば不満はない。映画の効果音だと迫力が足りない感じになるので、その場合はトールボーイ型のLumina IIIを選んだり、質の良いサブウーファーを組み合わせるといいだろう。
音色のトーン自体はそれほど味付けが濃いことはなく、ジャンルによる得意不得意は感じない。それでいて、音がかなりダイナミックで、強弱や緩急の差がしっかりと出る。だから、情感が豊かに出る。表現力というよりも表情が豊かなスピーカーであり、この音に惚れ込んでしまうと、他の一般的なスピーカーの出す音があっさりとした淡泊な味わいに感じてしまうほどだ。
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