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冬の脳卒中や心臓発作を避ける運動法、専門医に聞く「トリプルリスク対策」 高血圧、高糖質、脂質異常症の「トリプルリスク」対策を専門医に聞く(3)

2021年01月22日 06時00分更新

文● 高橋 誠(ダイヤモンド・オンライン

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Photo:PIXTA

血圧・血糖・血中脂質の数値悪化は相互に関連し、脳卒中や心臓発作など血管系疾患の重大化リスクを高める。いわゆるトリプルリスクである。この冬、命に関わる深刻なトリプルリスク回避のための「運動法」を、国際医療福祉大学医学部 坂本昌也教授に聞いた。(医療・健康コミュニケーター 高橋 誠)

「トリプルリスク」を回避する運動法
『運動をやってください』は意味がない?

 国際医療福祉大学医学部の坂本昌也教授(同大大学三田病院内科部長、糖尿病・代謝・内分泌内科学教授)が筆頭著者、監修を務める共著『最強の医師団が教える長生きできる方法』(アスコム)では、「腹筋は、日常生活で鍛えづらい筋肉の1つであり、加齢ともに衰えやすい部位でもあるので、とりわけ中高年の皆さまにはお勧め」など、さまざまな運動法がエビデンスを基に紹介されている。

 ここでは、坂本医師が患者に直伝している「運動法」を公開する。

◎「少しでも動くこと」を増やそう

「適度な運動を行うようにしてください」 と医師や看護師、健康雑誌やテレビ番組で言われ、うんざりしたことがある人は多いだろう。

 確かに、運動が体にいいことは分かっている。でも、忙しくて運動ができない、膝や足首が痛くて体を動かすのがつらい…。

 脂肪燃焼効果があり、筋肉をつけて基礎代謝を高める運動は、取り入れてほしい項目のひとつ。インスリンの働きを改善して血糖値を正常の範囲に保ち、悪玉コレステロールを減少、善玉コレステロールを増加させ、ストレス解消、骨粗しょう症予防など、多くの効用がある。

 近年は、体の老化を促進させ、がんや動脈硬化などさまざまな疾患をもたらすといわれる「活性酸素」が、身体的不活動でも高まることが明らかになった。つまり、運動が活性酸素を抑え、体にいいことが、あらゆる方面から証明されている。

 坂本医師は、「臨床現場で多くの患者さんに接していると、『運動をやってください』がいかに効果のない言葉かを感じる。生活習慣病といわれている糖尿病、脂質異常症は元来、忙しくて運動が難しかったことも一要因で発症する。分かっていてもなかなか実践できないものである。『小言が多い医師だな~』と病院への足が遠のき、治療中断につながってしまう。『少しでも動くことを増やす』と伝えたほうが患者さんにはまだ響きやすい」と語る。

「動くことを増やす」のは、健康寿命を保つため。目の前にある肥満解消、生活習慣病改善だけが目的ではない。フレイル(虚弱=加齢で心身が老い衰えた状態)やサルコペニア(加齢などで筋肉量が減少し、全身の筋力低下および身体機能の低下が起こること)対策にもなる。フレイルとサルコペニアは、いずれも寝たきりになりやすく、健康寿命を短くする。

 日頃から体を動かす習慣を身に付けていれば、筋肉量も落ちにくい。同じ距離を歩くなら少し速歩きし、少しでも立っている時間を長くする。年をとりフレイルやサルコペニアが見られるようになってから体を動かす習慣を身に付けようと思っても難しい。

「動く時間」を
どれだけ増やすか

◎自転車や歩きを見直そう

 ウイズコロナのニューノーマル時代。マイカー通勤や電車通勤をしている人と、自転車通勤をしている人とでは、今後、糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病の発症に差が出てきそうである。

 体を動かすことが生活習慣病のリスクを下げることは、さまざまな研究で証明されている。英国のレスター大学の研究では座ったままでいる時間が長い人は、血糖値や腹囲、中性脂肪、コレステロールなど糖尿病と関連の深い値が悪化しやすいとの結果が出ている。

 レスター大学の最新の研究では、座ったままの時間を減らすことに加え、立ち上がって軽い運動をすれば、より食後のインスリン分泌や血糖上昇が抑制されることが明らかになった。4件のランダム化クロスオーバー試験のデータから、耐糖能異常の人を含む129人のデータを解析。 すると、座ったままの状態を6.5時間続けた場合と、30分ごとに5分間立ち上がりウオーキングなどの軽い運動をした場合とでは、後者の方がインスリン値は平均13.500Um/L低下し、食後血糖値も平均5.4㎎/dL低下した。

 生活習慣が関係する2型糖尿病と異なり、1型糖尿病に関しては運動のエビデンスはこれまでそれほど多くなかった。しかし1型糖尿病に関しても、座る時間が長いほど血糖コントロールが悪くなることが国内の研究で明らかになっている。

 コロナの影響で在宅勤務の頻度が増え、そもそもの動く時間が減っている。「買い物に行く回数を減らした」「映画や美術館などに行く機会が減った」「週末は家で過ごすようにしている」という話は、本当によく聞く。今後、動く時間をどれだけ増やすかということは、より大きな課題となってくるだろう。

 電車通勤を自転車通勤に変えるのも良し。仕事中30分ごとに立って歩いたりストレッチをしたりするのも良し。コロナを恐れすぎず、人がそれほど多くない場所や時間帯を選んで散歩など軽い運動をしてみる。夕食後の軽い健康体操やストレッチで血液中のブドウ糖を消費し、グルコーススパイクを避ける。ほんの少しの変化が大きな結果を生む。

筋肉量減少・筋力低下を
防ぐためには

◎ストレッチやラジオ体操、ウオーキングを日常に

 筋肉量減少・筋力低下を防ぐには、栄養面でタンパク質を補充するとともに、運動も必須。ラジオ体操、ストレッチ、ウオーキングなど、できる範囲のものを日常的に取り入れたい。「歯磨きや洗顔の時にストレッチを20回する」「お湯を沸かしている時に爪先立ちをする」「夕食後はテレビを見ながら全身のストレッチをする」など、日常の動作に組み込むと、気負わずに体を動かすことが日課になる。

 日常的な軽い運動、十分な睡眠、深呼吸や瞑想、音楽鑑賞などはストレス解消につながる。ストレスは血糖値を上昇させるリスク要因。オンライン飲み会ならぬオンラインお茶会で友人たちとコミュニケーションの時間を持つのも良い。ただし、延々と深夜までとならないよう、時間を決めて行おう。

◎朝、10分早く起きる

 在宅勤務の時間が増えたり、時間差通勤が会社から推奨されるようになったり、働き方が大きく変わった人も多い。いっそのこと、睡眠を十分に取れる生活に変えてはいかがだろうか。おすすめは、夜型生活から超朝型生活への切り替え。まずは朝、10分でも20分でもいいから、いつもの時間より早く起きて、散歩やラジオ体操をするところから始める。

 朝の太陽の光には、体内時計をリセットする効果がある。カーテンを開けて太陽の光を浴びるだけでも効果が得られる。外に出て軽く体を動かせば、体も頭もより目覚めがよくなる。朝の太陽の光は、幸せホルモンとも呼ばれる脳内物質「セロトニン」の分泌を良くする。リズムよく体を動かすことで、セロトニンも活性化される。

「重大病の兆し」に
備える

◎運動に加えて夫婦で健診を

 夫が高血圧、糖尿病、脂質異常症で治療を受けている妻は、同じ病気で治療を受けるリスクが高血圧1.79倍、糖尿病1.45倍、脂質異常症2.58倍高くなることが明らかになった。夫婦の場合、遺伝的要因はない。

 しかし、同じ食事をし、寝起きを共にしているので、それが「生活習慣病になりやすい生活」であれば、2人とも同じ病気のリスクが高くなっても不思議ではない。

「わが家の食事」の味付けが濃いめかどうか、何げない生活習慣が生活習慣病を招きやすいものかどうか、一度夫婦で話し合ってみるといい。今後どういう人生を2人で歩んでいきたいのかを考え、そのために今日から始められることを挙げてみる。

 1人でやるよりも始めやすいはず。もちろん運動も選択肢になるだろう。加えて、2人一緒に自治体で行う各種健診を受けるようにすれば、病気の早期発見・早期治療にも役立つ。

「コロナで病院に行くのは怖いから、今年は健診を辞めた」「何らかの不調があっても局力病院に行かない」「歯科や眼科は先送りにしてもよさそうだから、コロナの感染が終息してからにしよう」などと考えている方もいるだろう。多くの医療従事者が心配しているのは、「受診控え」によって、がんや心筋梗塞、脳卒中などの重大病の見逃し、あるいは重大病につながる疾患の見逃しが増えるのではないかということだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙の調査でニューヨーク周辺の病院や医療関係者が「心臓発作の患者が4~6割減った」と答えているのに対し、ニューヨーク市消防局のデータでは「心臓発作の救急搬送が前年の同時期と比べて4倍増加」したという。

最強の医師団が教える 長生きできる方法『最強の医師団が教える 長生きできる方法』(アスコム刊)、筆頭著者、国際医療福祉大学坂本昌也教授ほか総勢10人のドクターが、長生きの秘訣を「食事」「運動」「睡眠」「生活習慣」「治療法」に分類し63項目紹介している。216ページ。

 その理由のひとつとして、コロナ感染を恐れて既往症のある方が「受診控え」をしていることが挙げられている。相当重症になってから救急車を呼ぶため、病院にたどり着くまでに死亡するケースが激増しているらしい。

 せっかく血糖コントロールが良くなっていた方が受診を控えたり、HbA1cや血糖値が高めだった方が健診を受けずに過ごしてしまうことの弊害は大きい。前者であれば、血糖コントロールがまた悪くなれば、いい状態に再度持っていくのに時間がかかる。せっかく血糖コントロールを良くしていても、いったん悪くなり、その期間が長く続くと、心筋梗塞や脳卒中のリスクが上昇してしまう。

 2021年1月は、特に要注意である。定期的に健診を受け、自身の体の状態を把握することが実に重要。不調があれば、速やかに病院を受診する。健診も受診も「不要不急」ではない。

(監修/国際医療福祉大学医学部教授、国際医療福祉大学三田病院内科部長 坂本昌也)

*トリプルリスク対策は4回のシリーズでお届けします。第4回は「睡眠法」「認知症対策」の予定です。

◎坂本 昌也(さかもと・まさや)
国際医療福祉大学医学部教授。同大三田病院内科部長、連携部長、糖尿病・代謝・内分泌内科学教授。専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続ける。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。高血圧、高糖質、脂質異常症のトリプルリスク対策、総合診療能力に長け、高い患者支持率を誇る。2019年2月、米国糖尿病学会機関誌に、「糖尿病は冬に悪化する」という感覚的事実を、世界で初めてエビデンスとして発表した。「高齢者は血管のダメージに注意」「若い人は食事の意識を高めよう」と広く啓蒙している。日刊ゲンダイ人気コラム「進化する糖尿病治療法」を連載中。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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