海中で輝く青い光を追って――東大・吉澤晋准教授インタビュー

「東京湾のバクテリア研究」なら今からでも第一人者になれる!?

文●石井英男 編集●ASCII

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コロナ禍でも生物の世話は欠かせない

―― 話は飛びますが、コロナ禍で研究に支障はありましたか?

吉澤 フィールドワークは制限を受けていますね。自由にサンプリングに行けませんし、船に乗るにもPCR検査が必要です。逆に楽になったのは、出張がなくなってオンラインに替わったことですね!

研究船でのサンプリング風景

もはやお約束ともいえる、水圧で縮んだカップヌードル。ちなみに日本で買えるカップヌードルは器の部材が変更されてしまったので、もう実験には適さないのだとか

―― YouTubeやZoomなどである程度代替できる学部もあると思いますが、実験などが必須の研究の場合は……。

吉澤 授業は、ほとんどがオンラインになりました。ただ、研究で生物を扱う場合は世話が必要ですので、そこはこれまで通りです。研究室間の情報交換も、この4月からほぼオンラインだけですね。基本Slack、Zoomで全部やり取りをしていました。

 ルーチン化できるような作業ならばロボットに任せることもできるのかもしれませんが、僕の研究室で行なっている研究は1つのデータを確認したら『次の実験ではこうしてみよう』と考えて、翌日はまったく異なる実験をするというスタイルなので、誰にでも任せられるわけでもないし、ロボットも無理ですね。料理でたとえるなら、「味見してから次の材料を決める」みたいな作業が続くので、予定通りにいきません。

高校時代からずっと絵を描いてきた吉澤先生。音楽CDのジャケット絵を手掛けた経験もあり、名刺の裏にも自作イラストが!

―― 海洋生物にとっては、「人間の活動が縮小したことで繁栄が進んだ」みたいなことってあるのでしょうか?

吉澤 一時的に漁業を止めることで資源量が回復する、といったことはあると思います。

 ちなみに発光微生物などのバクテリアは、そもそもデータがありません。たとえば「どんなバクテリアが昔の東京湾にいたのか?」というデータはありません。ですから「50年前と比べてどう変わったか?」を比較できないのです。

 大きな生き物ですと観察記録があったりしますが、バクテリアの場合はないので、なんとも言えません。もしかすると100年前と全然違うかもしれませんよ。サンプルを誰も持っていないので、今から粛々と貯めていくしかないのです。

 バクテリアの種類は1万ちょっと。対して昆虫は100万種と言われています。しかし、普通に考えて昆虫より少ないわけがない。要は、大半がまだ見つかっていないのです。

―― 調べることはいっぱいあるのに、海洋研究の門戸を叩く人が少ないというのも課題の1つですね。

吉澤 海洋生物の研究室が少ないことが原因かもしれませんが、興味を持っている人に情報が届いていない可能性もあります。「生物学YouTuberの●●先生の動画を見て研究者になりました」みたいな展開も期待しています。

―― 確かに。さかなクンさんを見て、魚好きになった子どもは結構いるはずですし。

吉澤先生のYouTubeチャンネル。発光微生物の実験や調査の模様を楽しめる

コロナ禍で見直された
見えない生物を研究する重要性

―― そういえば現在のコロナ禍も、見えない生き物であるウイルスが原因です。

吉澤 世界中が見えない微生物・ウイルスの影響をここまで大規模に受けるとは想像もしていませんでした。ただ、「見えない生き物の研究の重要性」は伝えやすくなったのかなと思いますね。

 たとえば、1ミリリットルの海水には100万細胞のバクテリアがいて、ウイルスはその10倍から100倍いると言われています。海水浴に行ったら、絶対に海水を飲んでしまいますが、海水浴が原因で病気になったとは聞きません。しかし、海水温が数度上がると海洋中のコレラなどの病原菌が増殖して感染する可能性が高まるとも言われています。

 病原菌は人間の身体の中で増えるものなので、暖かいほうがありがたいわけです。国際生物学賞を受賞されたリタ・コルウェル博士は、「地球温暖化が引き金になり病原細菌の分布範囲が拡大する可能性がある」と仰っています。

―― 温暖化というと水面の上昇を連想しがちですが、別の危険性もあるのですね。

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