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座間9人殺害事件で被告に死刑判決、承諾を否定し「自己の欲望」と断罪

2020年12月15日 16時10分更新

文● 戸田一法(ダイヤモンド・オンライン

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当時、9人の男女が遺体で見つかり、殺人などの容疑で逮捕された白石隆浩容疑者が住んでいたアパート(2018年4月25日撮影、神奈川県座間市) Photo:JIJI

神奈川県座間市9人連続殺人事件で、強盗強制性交殺人などの罪に問われた白石隆浩被告(30)の裁判員裁判判決公判が15日、東京地裁立川支部で開かれ、矢野直邦裁判長は「犯罪史上まれに見る悪質さで、SNSが当たり前になった大きな社会に不安を与えた」として、検察側の求刑通り死刑を言い渡した。SNSに自殺願望を投稿していた9人に「一緒に死のう」と誘い、女性には性的暴行を加えて殺害し現金を奪い、遺体をバラバラに切断してアパートに放置していた凄惨な事件。公判では殺害を巡って承諾があったかどうかが争点となったが、判決は被告が苦悩する被害者をだまして誘い出し自己の欲望の赴くまま蹂躙していたと断罪した。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

初公判で微塵も感じられない緊張感

 判決によると、白石被告は自宅アパートで2017年8月下旬~10月下旬、女性8人に性的暴行をしたほか、男性1人を含む計9人を絞殺して現金数百~数万円を奪った。その後、遺体を切断して、自宅アパートに遺棄した。

 公判を巡っては9人の生命が奪われたという重大性から、1つ1つの事件について慎重な審理が必要なため、事件の時系列順に被害者を3つのグループに分け、それぞれ冒頭陳述や被告人質問、中間論告する手続きで実施された。

 また遺族の希望により、被害者の氏名を伏せて審理する「被害者特定事項秘匿制度」が適用され、A~Iのアルファベットで呼称。遺族の傍聴席は衝立で遮蔽(しゃへい)される異例の審理となった。

 初公判が開かれたのは9月30日。白石被告は緑色の上下つなぎの服で入廷した。黒いフレームの眼鏡にマスクを着け、ぼさぼさで肩まで伸びた髪の毛。開廷前、全員が立ち上がって一礼するのがマナーだが、裁判官と裁判員が入廷しても着席したままで、刑務官に促されて面倒くさそうに立ち上がり、礼をせずにそのまま座り直した。

 罪状認否では間延びした声で「え-、間違いありません」と起訴内容(判決と同内容)を全面的に認めた。検察官の起訴状朗読の間、首を傾けたり、椅子にもたれかかって脚を投げ出して広げたり、何度も背中をかく仕草も。

 人定質問でも、けだるそうに証言台に。生年月日や住所、職業を尋ねられた際にもはっきりと答えるものの、緊張感は微塵も感じられなかった。

 検察側は冒頭陳述で、白石被告は17年3月にツイッターを開設。自殺願望がある女性を狙い、一緒に死のうとだましていたと指摘した。8月23日ごろ、最初に神奈川県厚木市の女性会社員(当時21)を殺害後、犯行を重ねた理由を「働かずに金を手に入れることができ、性欲も満たせると考えた」と説明。10月下旬までのわずか約2カ月間に9人に対し、前触れなく首を絞めて殺害したのは「承諾によるものではなく、ただの殺人だ」と指弾した。

 遺体については証拠隠滅のため切断し、肉片や内臓は一般ごみとして遺棄。頭部は自宅アパートのクーラーボックスに入れて放置していたとした。

 弁護側は冒頭陳述で「被害者に死を望む気持ちがあり、被告によって実現されることを想定していた」とし、殺害は承諾の結果で、量刑の軽い承諾殺人罪を主張した。強盗についても被告が金銭を得ることは承諾しており、成立しないとした。強制性交や死体遺棄・損壊の罪は争わない姿勢を示した。

 また弁護側は刑事責任能力について争う方針を示したが、検察側は「被告は一貫して目的にかなった行動をしている。責任能力に問題はない」と反論した。

自殺の意思撤回も躊躇なく殺害

 第2回公判は10月5日に開かれた。被害者がSNSに自殺願望を投稿していたことを巡って、争点となっている承諾の有無について、弁護側証人の精神科医は「死にたい気持ちを積極的に表現できなかったり、周囲も気付かなかったりすることもある」「今後の予定を入れても、自殺することはある」としつつ「死について深く考えていたとしても、自殺する決心がついたとはとらえないほうがいい」と説明した。

 また、3人目までの審理が行われ(A)厚木市の女性、(B)群馬県邑楽郡の高校1年女性(当時15)、(C)神奈川県横須賀市の介護支援員男性(同20)までの冒頭陳述で検察側は、3人は白石被告に「生きていこうと思います」とメッセージを送るなど自殺の意思を撤回していたことを明らかにした。そして「被害者は白石被告の殺害計画を知らなかった。自殺願望と承諾はイコールではない」と強調した。

 第3回公判は6日開廷。検察側が最初の被害者とのやりとりで、預金額を聞き出した後は「死ぬのは良くない。もう少し頑張って」などと励まして親密になったと言及。そして、女性は事件現場となったアパートの費用を出し、借金の申し込みにも応じていたと述べた。その上で、生きようとする前向きな姿勢を示していたと強調した。

 第4回公判は7日開廷。白石被告は殺害の承諾について「なかった」、犯行の動機は「金と性欲」と明言。「悩みがある方が口説きやすく、思い通り操作しやすいと思った」と述べた。検察側の質問に答えた。弁護側の質問は「答えるつもりはありません」と拒否した。

 第5回公判は8日開廷。被告人質問で裁判官から殺害承諾の有無について問われ「分からないというのが本当のところ」と述べた。前日、弁護人の質問に答えなかった理由は「裁判を早く終わらせたいのに、方針が合わないから」と説明した。

 第6回公判は12日、第7回公判は14日に開かれ、唯一の男性被害者について、最初の被害者を通じて白石被告と知り合ったことが明らかにされた。その上で動機について、最初の事件がばれないように口封じだったとした。死にたいという気持ちは、白石被告に「これからはちゃんと生きていきます」とLINEを送り、自殺の意思を撤回していたことも明らかにされた。

 第8回公判は19日に開かれ、3人についての中間論告と弁論で、検察側は「殺害の承諾がないことは明らかで、単なる殺人行為だ」「承諾があったなら抵抗するはずがない」と強調。弁護側は「承諾は成立する」、抵抗については「条件反射」と反論した。

 21日には4人目以降の被害者(D)埼玉県所沢市の大学2年女性(当時19)、(E)同県春日部市の無職女性(同26)、(F)福島市の高校3年女性(同17)、(G)さいたま市の高校2年女性(同17)について審理。

 検察側は、4人が一緒に自殺する相手を募集するSNSの投稿がきっかけで白石被告と知り合ったが、会っている最中に母親へ「今から帰る」と連絡したり、美容室に予約を入れたりしており、自殺を連想させる発信もなかったとした。弁護側は被害者が家族関係などで悩んでおり「いずれも死を望んでいた」とし、死を撤回する言動もなかったと反論した。

 11月10日は残る2人の被害者(H)横浜市のアルバイト女性(当時25)、(I)東京都八王子市の女性(23)について審理された。

 検察側は2人が「被告が殺害を考えていることは知らなかった」と主張。弁護側は「死を実現するために被告宅に向かった。いずれも自分の意思で睡眠薬を飲んだ」と反論した。

 翌11日の公判では、被害者Hについて「深刻な様子ではなく、ツイッターは出会い目的と思う」「今から死のうという感じではなかった。明るく笑っていた」と供述。殺害した理由は「口説けそうと思ったが、(貢がせるには)収入面で難しいと判断した」と説明した。

 また7人目の殺害以降も、首を絞めるロープや遺体を隠すクーラーボックスを購入し「3~4人分を準備した。犯行をやめるつもりはなかった」と計画性を示唆した。

 翌12日は被害者Iについて、会う前から殺害を計画していたと述べた。また所持金が1000円ほどしかないことを認識していながら誘い出したことに「(犯行当初は)金が第一だったが、(途中から)レイプに変わっていった」と明かした。

 24日の被告人質問では、検察側に被害者と遺族に対しての思いを問われたが「正直、何とも思わない」と抑揚のない口調で答えていた。

「極刑でも控訴しない」と投げやりに言い放った

 最後の被告人質問となった25日の公判で、検察官の問いに「このままいけば極刑になるとは思う」と述べたが、その後も態度を変えることなく「極刑でも控訴しない」と投げやりに言い放った。

 翌26日には論告求刑公判が開かれた。白石被告はいつも通り無表情で、この日も開廷前に立ち上がりはしたものの礼をせず着席。求刑に先立つ遺族の意見陳述で「お前を許さない。娘を返せ」と罵声を浴びても、身じろぎもしなかった。

 検察側は論告で「遺族は苦しみと悲しみが一生続く。まさに生き地獄」「自殺志願者を標的に、SNSで巧妙に誘い出した手口は世間を震撼(しんかん)させた」と強く指弾。その上で「殺害の承諾がなかったことに疑いを差し挟む余地はない」「犯行は計画的で卑劣かつ冷酷」「わずか2カ月という短期間に9人もの若く尊い命を奪い、万死に値する」として死刑を求刑した。

 弁護側は被害者が首つりなど具体的な方法を白石被告と重ねていたとして「殺害を承諾しており、死ぬために被告宅に向かった」と改めて主張。殺害行為については「被告宅で酒や薬を飲み、タイミングは被告に委ねられていた」と訴えた。公判で白石被告本人が一貫して承諾を否定したことは「真実ではなく、早く終わらせるための供述だ」と強調した。

 結審直前、白石被告は矢野裁判長から発言の機会が与えられたが「何もありません」とだけ一言。再度「何もないでいいのですか」と念押しされたが「はい、そうです」と述べて着席した。死刑を求刑されても動揺した様子はなかった。

(※筆者注:記事は被害者とご遺族に配慮し、犯行の手口は簡略化、遺族の陳述も可能な限り割愛しました。また、法廷での被告の様子や検察側と弁護側の主張を中心に記事を構成しました)

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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