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麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負 第56回

MISIA初のクリスマス・チャリティ・アルバムなど~12月に聴くハイレゾ音源《麻倉怜士/推薦盤》

2020年12月09日 15時00分更新

文● 麻倉怜士 編集●HK

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 評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。優秀録音をまとめていますので、e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!

この連載で紹介した曲がラジオで聴けます!

 高音質衛星デジタル音楽放送、ミュージックバード(124チャンネル「The Audio」)にて、「麻倉怜士のハイレゾ真剣勝負」が放送中。毎週、日曜日の午前11時からの2時間番組だ。第一日曜日が初回で、残りの日曜日に再放送を行うというシークエンスで、毎月放送する。

収録風景

『So Special Christmas』
MISIA

特選

 MISIA初のクリスマス・チャリティ・アルバム。素晴らしくゴージャスなクリスマスソングだ。「1. Gloria -glorious evolution」は「荒野の果てに」。トラッドなクリスマスキャロルも、MISIAの手に掛かると、ソウルフルなクリスマスになる。この曲は音楽理論的にいうと、C→A7→Dm→G7→C(ハ長調の場合)という、ドミナント進行が連続するとても豪華なコード進行が採用されている。MISIAの歌唱は華麗なオブリガードを歌う女性コーラスを背景に幻想的なハーモニーで聴かせる。「9. White Christmas」も感情の幅が大きく、ソウルフルで素晴らしい。録音もブリリアントで、ゴージャス感がいかにもクリスマスだ。「6.Everything」は2001年のオリジナルバージョンだが、このクリスマスアルバムでハイレゾで再度聴けるのも、嬉しい。この歌詞は愛に溢れるクリスマスの雰囲気にぴったりだ。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Label、e-onkyo music

『On Vacation』
Till Brönner、BOB JAMES

特選

 ドイツのトランぺッター=ティル・ブレナーと、キーボードの大御所ボブ・ジェームスのコラボレーション・アルバム。実に素晴らしい音だ。冒頭「1. Save Your Love for Me」のベース下行旋律で、耳目をすっかり奪われる。ひじょうにクリヤーにして、密度が高く、音色がブリリアントだ。ティル・ブレナーのトランペットのふくよかさ、ボブ・ジェームスのキーボードの突きぬけるような華麗さが特に印象に残る。音場も響きの美しさが特筆。ジャズでは響きは基本的に排除されるが、これほど美しい響きなら、それは音楽に必要な要素だと分かる。「2. Lemonade」のティル・ブレナーのヴォーカルもゴージャスで、おしゃれ。「10. On Vacation」はプロヴァンスでのレコーディングがとても楽しいという雰囲気が伝わってくる。2019年9月、南仏サン・レミの200年ほど前に建てられた荘園領主邸内のスタジオ、ラ・ファブリーク/La Fabriqueで録音。ティル・ブレナーは「プロヴァンスの光と空気にインスピレーションを受け、これまでのレコーディングとは、全く違うものになりました」と語った。

FLAC:96kHz/24bit
Masterworks、e-onkyo music

『Beethoven: Symhony No. 9
(Transcriptions for Piano Solo by Franz Liszt)』

Hinrich Alpers

特選

 ベートーヴェン・イヤーの掉尾を飾る大注目のアルバムだ。12月といえば「第九」だが、本アルバムはなんとピアノの第九。ドイツのピアニスト、ヒンリヒ・アルパースによる、リスト編曲ピアノ版だ。

 ベートーヴェンが偉大なのは、どんな楽器に編曲されても、編成が小さくなっても、その偉大さは、まったく損なわれないことだ。ピアノ一台で、第九のスケールと世界観をここまで忠実に再現できるとは、まさにリスト編曲とアルパース演奏のコラボレーションの偉業だ。第4楽章は独唱と合唱が付く。つまり形態的には、声楽をピアノ伴奏する形だ。オリジナルのオーケストラ版では埋もれてしまう内声部のフレーズなども意外に明瞭に聴け、ピアノ版ならではの魅力も大きい。

 バリトンのハンノ・ミュラー=ブラッハマンのソロは音像的には、オーケストラと共にあるような大きさで、RIAS室内合唱団の合唱も左右スピーカーいっぱいに拡がる。通常のオーケストラ版でないので、声楽部分がより明瞭に情報量を多く聴けるのも、このバージョンならではの新鮮な価値だ。まったくユニークな第九として、注目を集めること必至だ。

 録音も素晴らしい。センターにこじんまりと小さく定位するのではなく、2つのスピーカーの間に豊かに拡がり、大きな体積感を持つ。解像感も十分に高く、音色もブリリアントだ。ベートーヴェン交響曲の最後を飾るにふさわしい物語性と絢爛性が聴ける。2019年5月~2020年2月、ボン、ベートーヴェンハウスおよびベルリン、イエス・キリスト教会で録音。

FLAC:48kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

『Beethoven: Symphonies Nos. 5 & 7』
Berliner Philharmoniker、Ferenc Fricsay

推薦

 ハンガリー出身の名指揮者フイレンツ・フリッチャイ(Ferenc Fricsay, 1914~1963年)の名録音だ。ひじょうに巨匠風で、ベルリン・フィルの地鳴り音を活かした、演奏史に残る典型的な20世紀中葉スタイルのベートーヴェンが今、DSDで復興されたことは、実に喜ばしい。冒頭の三連符がまるで分かち書きのようにマルカート(ひとつひとつの音を明解に)で奏されるスタイルは、今では、まったく聴けなくなったが、時代を作った「運命」演奏のドキュメントとして本アルバムの価値はひじょうに高いと共に、音楽的にも「運命」を十全に堪能できる。

 本作品のマスターファイルは、タワーレコード限定としてリリースされた、SACD用の音源だ。2018年のリマスタリング。ベルリンのEmil Berliner Studiosにてオリジナル・アナログ・マスターテープから192kHz/24bitでデジタル変換したWAVデータをSA-CD層用にDSD変換したものだ。

 音質は驚くほど素晴らしい。弦がみずみずしく、低音部が安定したピラミッド的な音調は、まさに20世紀中葉のベルリン・フィルがいま甦った。録音は1961年9月、ベルリンはダーレム地区にあるイエス・キリスト教会。天井が高く、大きな空間だが、響きが適切で、ディテールまで綿密な音調が特徴だ。第2次大戦後にこうした優れた音響により、録音会場として多く使われた。ドイツ・グラモフォンによるフルトヴェングラー、フリッチャイ、カラヤンの録音が有名だ。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophon(DG)、e-onkyo music

『 Classic Ivory 35th Anniversary ORCHESTRAL BEST』
今井美樹

推薦

 今井美樹、デビュー35周年記念アルバム。名曲のオーケストラとの協演だ。千住明、服部隆之、挾間美帆、武部聡志がアレンジを担当。服部隆之編曲の「1. PRIDE」は、シンプルなバッキングのオリジナル版もよかったが、服部隆之のオーケストラ編曲はゴージャスで、スケールが大きい。原曲に新しく価値が照射され、新たな魅力の側面が浮かび上がってくる。挾間美帆編曲の「2. 幸せになりたい」はおしゃれなボサノバ調。千住明編曲の「3 .瞳がほほえむから」は、しっとりとしたストリングス主体で、この曲の世界観をジェントルに伝えている。弦の対旋律が心地好い。

 録音はボーカルが前面に出て、オーケストラがある距離を保って後方に控えるという音場感。ボーカルはセンターに定位し、オーケストラは左右に豊かに拡がる。解像度的には、細部までキリキリと見せるというものではなく、包のこむような音調が今井美樹の世界観に合致している。ボーカル自体も輪郭を立てずに、まろやかな質感だ。

FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music

『ブダペスト・コンサート[Live]』
キース・ジャレット

推薦

 引退を発表したキース・ジャレットの2016年7月にブダペストで行ったソロ・コンサートのライヴ録音。ホール録音だが、ピアノ間近なマイキングで、ひじょうに明瞭な音だ。音像はピアノがセンターに、音場を睥睨するような形で、大きく鎮座する。低音から高音まで、ひじょうにクリヤーだ。「1. パート I」では中域主体に時折入る高域のクリスタルの様な硬質な輝きが、眩しい。即興演奏の最後にスタンダードの「14. アンサー・ミー」が聴けると、それまでの緊張感が一挙にほぐれ、安寧な気分になる。ECMらしい透明で、輝かしい音調だ。2016年7月3日、ブダペスト、ベラ・バルトーク国立コンサートホールにてECM Recordsがライブ収録。

FLAC:48kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
ECM Records、e-onkyo music

『ブラームス:クラリネット・ソナタ(全曲)、
シューマン:幻想小曲集ほか』

吉田誠、小菅優

推薦

 ベルリンを拠点に世界的に演奏活動する小菅優とクラリネット奏者吉田誠のデュオ。ブラームスの「クラリネット・ソナタ」と、シューマン「幻想小曲集」という渋いロマンティック音楽だ。音響的にも定評のある東京は富ヶ谷のハクジュホールでのDSD録音(2020年7月)。この小さなホールは、無観客では、ひじょうに豊潤で、きれいな響きが得られる。本録音は、クラリネットを手前に、その奥にやや距離を置いてピアノを録っている。ピアノにホールトーンをたっぷり含ませ、クラリネットは直接音を主体に少しホールトーンを加えることで、響きの立体感を巧みに演出している。白寿ホールの豊かなアンビエンスを活用した録音術といえよう。クラリネットの繊細な表情が、グラテーション豊かに描写されている。渋い中にも名人芸を感じさせてくれる。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music

『Introducin’』
浅利史花

推薦

 人気のジャズギタリスト、浅利史花のデビューアルバム。板橋の音楽スタジオReBorn Wood Inc.の独自レーベルからのリリース。明晰で明瞭なギターパフォーマンスだ。「1. Triste」は音場一杯に拡がった、奥行きを持つバックバンドと一歩も引かず、音場のセンターに大きなイメージで、堂々とポジションを形成する。シンプルで、ビジブルなギターワークがとても心地好い。「3. Black Orpheus」はジャズギターのレジェンド中牟礼貞則氏とのデュオ。左右で分かれた競演がスリリングだ。レーベル保有のスタジオでの録音だけあり、クリヤーでヌケの良い音に仕上がっている。演奏的にもオーディオ的にも注目したいアルバムだ。

FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
ReBorn Wood、e-onkyo music

『Dvořák: Symphony No. 9 “From the New World”
/ Schumann: Symphony: No. 4』

Karl Böhm、Wiener Philharmoniker

推薦

 ベーム/ウィーン・フィルによるたいへん珍しいドボルザーク。まったく土臭くなく、ウィーン的な情緒感に包まれた「新世界」だ。チェコの演奏家は、血のつながりでドボルザークを演ずるが、血の関係がないドイツ・オーストラリア正統派のベームは、新世界を「純音楽」として、曲の有機的構造を冷静に分析し、あくまでもシンフォニックに構築していく、それにしてもウィーン・フィルの美的な音色には驚かされる。最新のDSDリマスターが効いたのだろう、ウィーン・フィルの艶、ムジークフェライン・ザールの響きの美しさ、楽器の音色の深さ……などは、実に魅力的。第3楽章のセンターのティンパニ、右の低弦、左の高弦……などの位置情報も豊潤だ。第3楽章はボヘミアの踊りというより、ウィンナワルツの優美さだ。カプリングのシューマン第4交響曲は独墺系の得意曲だけあり、活気と深さがたいへん素晴らしい。1978年5月、ムジークフェライン・ザールで録音。

 タワーレコード限定としてリリースされた、SACD用音源(2018年のリマスタリング)を本作品のマスターファイルにしている。ベルリンのEmil Berliner Studiosにてオリジナル・アナログ・マスターテープから192kHz/24bitでデジタル変換したWAVデータをSACD層用にDSD変換したものだ。

DSF:2.8MHz/1bit
Deutsche Grammophone、e-onkyo music

『Salon de Mari Platinum Songs ~Special Edition~』
ミズノマリ

推薦

 ミズノマリ(Mari Mizuno 1973年4月 - )は、バンド「paris match」のボーカリスト。『Salon de Mari Platinum Songs ~Special Edition~』は2009年のソロミニアルバムの発表に次ぐ、11年ぶりとなるセカンドアルバムがリリース。もともと2018年にクラウドファウンディングによる限定盤として頒布された音源11曲に、ビートルズやクリスマス・ソング4曲を加えた。アーシーとは無縁なおしゃれなアーバンジャズヴォーカル。音の流れが心地好く、大げさなヴィブラートに走らない、クリーンで明瞭な発声だ。少し鼻に抜け、少しかすれる声質が魅力だ。センター音像は大きい。

FLAC:96kHz/24bit
Sony Classical、e-onkyo music

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