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AI時代を生き抜くために、子どもに今必要な「見えない学力」とは

2020年12月04日 06時00分更新

文● 木村泰子(ダイヤモンド・オンライン

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「見えない学力」には“4つの力”が必要(写真はイメージです) Photo:PIXTA

近年、メディアでたびたび取り上げられる「非認知能力」。これは、何かが起こったときに自分の頭で考えて行動できる「見えない学力」のことです。今後AIがどんどん進化していく時代では、成績や学力といった「見える学力」だけでなく、「見えない学力」を伸ばすことが求められていくでしょう。そこで今回は、木村泰子さんの著書『10年後の子どもに必要な「見えない学力」の育て方』(青春出版社)から、「見えない学力」の大切さや親が心得ておくべきことについて解説します。

教育にあるのは「格差」ではなく「違い」

「見えない学力」って何でしょう?休校期間だった今年春の3カ月間で、子どもたちは学びたくても学べないという貴重な実体験を、大人とともにしたわけです。

 もし私が教育の現場にいたら、休校期間中は毎日、子どもたちに、その日に自分が考えたことや思ったことを書きためさせたと思います。そして学校で会えた日に、「みんなはこの3カ月、何を考えてた?」と聞くでしょう。決して、「何してた?」ではなく。

 子どもは一人一人家庭環境も違います。何をしていたかを問うことは、子ども同士の間に知らず知らずのうちに格差を持たせてしまうからです。

 オンラインの環境がある家庭とそうでない家庭で格差があるなどとは、言い訳です。この“格差”という言葉、子どもはちゃんと聞いていますよ。本当は“格差”ではなくて、単なる“違い”。この違いを対等にするのが、公平という言葉。大人が「よっしゃ!」と本気になれば、いくらでも対等にできるのです。

 30人のクラスのうち20人の家庭にオンラインの環境があったとします。全員にオンラインの環境が整わないことを理由に、オンライン授業をしない学校もありました。パブリックの学校の多くはそうでしたよね。でも、みんなで足並みをそろえるためにオンライン授業をしないのは、もったいないですよね。

 私ならこうします。何人かの先生が20人に向けてオンラインの授業を担当したら、あとのオンライン授業が受けられない10人には、それ以外の先生が伝える手段はいくらでもあります。家に行ってもいいですし、距離を保ってその先生が得意な科目を学校で教えてもいい。違いを格差にするか、違いを対等にするか。つまり、公平の問い直しです。これを大人がまずしないといけません。

 先生たちにこの問い直しをさせるのは、たしかにハードルが高い。では、誰が問い直しできる?となると、家庭にいるお母さん、お父さんたちです。

 もし「先生、うちの子はオンラインで勉強できているからいいよ。でも、オンラインができない子もいるから、私らに何かできることはない?」と言う親の姿を子どもが見ていたらどうでしょう。その家の子どもは、どんな大人になっていくと思いますか?

「あの子の家、オンラインができなくてかわいそうやなあ」ではなくて、「違うやり方はないかな?」「あの子は大丈夫かな?」という親の姿を見たら……子どもはお互いの違いを学び合えて、楽しんで、お互いを思いやって、そうしていたら誰のせいにもしないはずです。「勉強が遅れています!」という言葉も出ないでしょう。

 見えない学力って、こういうことです。想定外を乗り越えていく、想定外を楽しんでしまう、違いを格差にせず、「いろんな子がいる」と想像する力。10年後の社会で生きて働く力です。

AI時代に求められる「学力」とは

「見える学力」は点数でわかる学力、数値で測る学力です。多くの知識をインプットして、ペーパーにアウトプットする力です。

 50年前は、この力があれば社会に出た子どもたちは幸せになれましたし、社会のニーズもそうでした。でも、今の子どもたちはどうでしょうか。見える学力があれば、幸せになれるでしょうか。

 私は決して「見える学力」を否定しているわけではありません。将来、なりたい自分や仕事があって、その仕事に就くために見える学力が必要な子も確かにいます。学校も、見える学力で“評価”したほうが楽なんです。でも、点数で評価すればいいなら、見える学力は塾でも十分つくはずです。いや、むしろ塾のほうがずっと見える学力をつけられると思います。

 でも、「見えない学力」とは、等しくすべての子どもに必要な、いちばん大切な力です。大空小学校にいたときに、「俺、高校は行かんでええ」と言う男の子がいました。彼は見える学力がとても高い子でしたが、お姉ちゃんに重度の障害がありました。

 彼の1年生のときの夢は、宇宙科学者でした。でも4年生になって現実の夢を持ちました。それが「お父さんの跡を継いで散髪屋になること」でした。「高校に行っている時間がもったいない、その間に散髪の腕を磨きたい」と言うのです。

 理由を聞くと、「僕はお姉ちゃんと2人で生きていくことになる。だってお父さんとお母さんは先にいなくなるやろ?自分が技術を磨いて散髪屋をすれば、ずっとお姉ちゃんは車いすで横におれるから」と。

 お姉ちゃんは月に1回は入院するから、その間は店を閉めなくてはいけない。「だから1カ月に半分くらいしか店は開けられへん。ほかの店が2000円やったら、俺は4000円とらなあかん。だから技術を身につけたい」と彼は言いました。こういう子のために、義務教育があるのです。

 今のままでは、10年後は教師の仕事はAIに取られるでしょう。AIが教えるほうが完璧に知識を伝えられますから。そうなれば教師の仕事はなくなります。

 では、教師の仕事は何?今使える学力をつけることではなくて、今ため込んだ力を10年後の社会で引き出せるように、見えない学力をつけさせることしかないのです。

「見えない学力」は一人では伸ばせない

 正解なんてどこにもない10年後の社会で、どんな力があったらいいのだろうかと話し合った結果、見えない学力には“4つの力”が必要だということにたどりつきました。それが「人を大切にする力」「自分の考えを持つ力」「自分を表現する力」「チャレンジする力」です。

 この見えない学力は子ども同士の関係性の中でしか育ちません。学校は社会の縮図でなければならない。子ども同士が学び合い、課題を解決する力こそ、社会に出て通用する力なのです。この4つの力を「おはよう」から「さようなら」まで学校の中でアタリ・ハズレなく身につけること。これが、私が在任していた大空小学校の教育です。

 担任の先生に対してもよくアタリ・ハズレが言われますね。これまでの学校では、いい先生はアタリでしたが、今は違います。決めるのは子どもです。ある子にとってはいい先生でも、ある子にとってはハズレかもしれません。大空小学校でも「木村(私)はハズレ」と言う子ももちろんいました。でも、これが多様性なのです。

 だからこそ、学校全体ではアタリ・ハズレをなくしていく。「本当になくせるの?」と言われますが、気づいた瞬間からなくせるのです。まずは自分から変わろうと思えば、一瞬でできることなのです。

 でも、「教員が悪い、校長が悪い、保護者が悪い、子どもが悪い、地域が悪い」と人のせいにしている間はなくせないでしょう。

“4つの力”を引き出すための親の心得とは

 4つの力をつけることは、子ども同士の関わりがある学校という教育現場だからできること、家庭では難しいのでは、と思っているお母さん、お父さんもいるのではないでしょうか。

 まず、子どもに4つの力をつけさせたかったら、親自身が4つの力をつけることです。大人になるために子どもたちは学んでいるわけですから、大人が“4つの力をつけていたら幸せになるよ”ということを伝えなければおかしいじゃないですか。大人が4つの力を大事にしていないのに子どもにつけろと言っても説得力がありませんよね。

 大人である親自身が4つの力を持って、自分から自分らしく自分の意思で、「できるときにできる人が、無理なく楽しく」学校に来て授業の中に入って、困っている子の横に透明人間のように“何かできることない?”とそっと寄り添うこと。これがサポーターの仕事です。

 自分の子どもの周りの子が育てば、結果的に自分の子どもは育っています。自分の子どもも周りが育ててくれます。

 自分の子どもを目の前にすると、どうしても目の前の子どもしか目に入らなくなってしまう。これは親なら仕方がないこと。しかし、子どもは10年後、社会で一人で生きていくわけではありません。砂漠の中でたった一人で生きていかせるつもりがないなら、周りの子どもとどんどん関わっていったほうがいい。多様性だらけの、いろんな子どもがいる環境の中で子どもは育ち合います。だから多様な社会に通用する力もつくのです。

※本記事はダイヤモンド・オンラインからの転載です。転載元はこちら

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